第3章 第3話 ドワーフの精霊窟

  勇者一行はその後追跡者に襲われること無く進んだ。

 山の麓まで到着し大岩の影の洞穴へ勇者が入っていく。

 

 

「ダ、ダンジョン?」

 

「でも鉄の門が……人口のものですかね」

 

「ドワーフの巣窟です。

 交渉が終わるまでは余計な口出しをしないでくださいね」

 


 門の打ち輪をゴンゴンと鳴らすとゆっくりと扉が開く。

 鍵がかかっていなくともその重さだけで開閉の大音響が鳴りそうなものだが、未知の技術で摩擦音もない。

 開いた先には金属の鎧をつけた小さな兵士が2名待ち構えていた。

 

 ドワーフたちの背丈はシェギと同程度である。

 だがその体格・威容はベリアに勝るとも劣らないほどであった。

 ドワーフの特徴と言えば見事な髭だろう。

 生やしっぱなしの者もいれば切りそろえて形を整えている者もいる。

 

 アックスヘッドのメンバーたちにしてみれば、勇者の旅に参加でもしなければその人生で出会うことすらなかっただろう。

 門から緩やかなスロープ状の坂を下っていくと、どんどんと幅が広がっていき巨大な空間が広がってくる。

 本来であれば地下に潜れば暗くなる、更に深く潜れば気温も下がっていく。

 しかしここでは潜るほどやわらかな光に照らされ、暖かな風がそよいでいる。

 

 

「ドワーフは洞窟に住んで細工や建築が優れてるとは聞いたけど……」

 

「凄いとしか表現出来ないわね……」

 

「人間は建物の大きさで力を誇示しますが地下では関係ありませんからね……」

 

 

 洞窟の壁は凹凸おうとつの無いレンガのような石材で組まれている。

 一定間隔で巨大な柱が天井まで建っており、それぞれに精細な彫刻がされていた。

 モチーフは炉とかまどの女神、風の神、大地の神。

 それぞれの柱に彫られた主神達を崇めるように精霊たちが楽しそうに舞っていた。


 通路のあちこちには常夜灯のようなものがあり小指ほどの精霊が寛いでいる。

 風の精霊が新鮮な空気を運び、土の精霊が洞窟が崩れないようチェックし、炉と竈の精霊たちが炉の火で光と熱を生み出す。

 ドワーフの精霊窟であった。



「ほう! ほう! 久しぶりじゃのう。 人間!」

 

「ほんにほんに。 うちの孫が作った短剣いるか?」

 

「ばっか! おめえ! こいつは勇者サマじゃろが。

 神の剣がありゃそんな短剣、干し肉を裂くのにも役に立ちゃしねえよ」

 

「髭剃るのに使えるじゃろ」

 

「知らんがな」

 

「ええい! おまえら道を塞ぐな!

 族長の所にコイツラを連れて行くんじゃ! 退け、退け!」

 

 

 公共のものと思われる炉から、大勢のドワーフたちが寄ってくる。

 先導役のドワーフが寄ってくる者たちを押し退けて進む。

 やがて道は広い空間の中央、一際ひときわ太く天井に続く白い柱。

 その柱を囲うような建物に辿り着く。

 

 

「人間を連れてきた、族長に取次ぎをたのむ」

 

「うむ、しばし待て」

 

「みなさん、族長との話はボクがします。

 基本的には直接問いかけられた場合以外喋らないで下さい」

 

「あいよ」[コクコク]「はい」

 

―――――


「またせたな客人、私が族長のバザームだ」

 

「バザーム族長、お初にお目に掛かります。

 この度は族長にお願いがあって参りました」

 


 

_/_/_/_/_/


 勇者とベリアたちに置いて行かれた たま は、寂しさに遠吠えを上げ見知らぬ猫に声を掛けられた。

 

 

『だ、だれ?』

 

『おっと失礼。

 私はこの辺りのナワバリを統べる山猫でございます』

 

『あ……ごめん、僕は人間ヒトの旅についてきて怪我をしちゃったんだ。

 ナワバリを侵害するつもりは無いんだけど動けない』

 

『ご安心めされよ、銀のたてがみを持つ同族を警戒したりはしない』

 

『どういう意味?』

 

『おや? 神の使徒では無いのですかな?』

 

 

 詳しく聞いたところ、銀のたてがみは猫の神さまが与えてくれる使徒のあかしなんだとか。

 銀のたてがみを得た者は神さまの使命をもらっていて危険を逃れたり、ナワバリを移したりするらしい。

 黄色い山猫は茶色のたてがみをしていた、かっこいいなあ!

 僕は山猫さんにこれまでの経緯をかいつまんで話す。

 

 

『なるほど山に向かっていたと……ドワーフくつを抜ける為でしょうな。

 それにしても影をあやつる魔獣ですか、興味深い』

 

『人間のことばをしゃべったり、影をおとりに隙をついてくるんだ。

 一人で戦うと危ないから気をつけたほうがいいかもね』

 

『情報感謝する。

 ですが、貴猫あなたも一人では追いつくのも戻るのも危険でしょう。

 宜しければ追いつくまで息子達をご一緒させますが』

 

 

 死にかけた身にとって、心細さも手伝って魅力的な提案だ。

 けれど僕には[隠密]のスキルがあるけど、同行者は見つかってしまうかも知れない。

 勝てる敵ならやっつけちゃえばいいけど、強い奴だったら巻き込みたくない。

 ああでも、ドワーフ窟を抜ける人間ヒトを追うってどうすればいいんだろう?

 

 

『お父様、この猫私達を侮ってますわ。

 たま さんよくって? サリョウ山猫族はぷろのハンターなのよ。

 ハンターは爪を立てるまで敵を油断させるのが基本。

 隠密などおちゃのこさいさい? ですわ』

 


 ぷろ? さいさい??

 なんだかよくわからないけど、頭の中をよまれた。

 ヘタな考えして怒らせちゃったかな。

 

 考えをよんだ雌猫以外にも雄猫も数匹集まってきた。

 これみんなこのひとの息子たちか。

 

 

『ああ、すまぬな。 娘は[伝心]もちなのだ。

 気が強くて口は悪いが娘の言う通り。

 息子も娘も[隠密]は持っているし腕もたつ。

 銀鬣様ギンリョウサマの助けになるのなら連れて行ってくれ、何だったら交尾してもいいぞ』

 

『はぁ!? お父様? 何言ってるんですの!!』

 

『リマ、お父様の言う通りだ。

 一族以外の血を入れるのは大事な事だぞ、銀鬣様ギンリョウサマなら尚更だ』

 

(エリーのれいあつを感じる……)

 

 

 結局、サリョウ一族の親父さんの息子3名、娘1名。

 護衛兼人間ヒトへ追いつくまでの案内として同行することになった。

 安全の為なら人間ヒトはドワーフ窟を通る、猫族の足なら危険を承知で山越えをして追いつけるという理屈らしい。

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