第2章 第5話 影との闘い

  ホトリ村の野犬退治を早々に終え、ブロン村へ辿り付く。

 ブロン村でも野犬に襲われていて自警団が対処に追われていた。

 既に馬が数頭やられており、野犬は10匹を超える群れだ。

 

 

「ギルドの依頼で駆けつけました! このまま討伐します!」

 

「たっ、助かった。

 群れはこいつらだけじゃないので気をつけてくれ」

 

「ベリアは遊撃、ロッタン・ネウロ・ジョンは各個撃破願います。

 ソニア攻撃魔法は何が使えますか?」


「ら、雷撃と石つぶてが」

 

「数が多いので密集されたら石つぶてをお願いします。

 無闇に攻撃せず温存するようにして下さい」

 

 

 ネウロとジョンはカバーされながらロッタンを参考に動きが様になっていく。

 あらかた討伐が完了し村長と自警団に報告、状況確認する。

 

 

「ありがとうごぜえます。

 被害が最小限で抑えられました。」

 

「ホトリ村の方でも野犬被害が出ていたのですが原因など何か気がついたことはありませんか?」

 

「わからんです、ならともかく野犬が群れで襲ってきたのは初めてなもんで」

 

「そうですか……特に飢えた風でも無いのが気になりますね」

 

「シェギ次いくよぉ、考えるのはあとあとー」

 


 挨拶もそこそこに次の依頼に出発する。

 野犬は牙こそ気をつけなければいけないが、本来は雑食で飢えることも少なく凶暴と言うわけでもない。

 群れ頭の気性にもよるが、少なからず野獣対策をしている人里ひとざとを襲う意味がわからなかった。

 

 

「いまんとこ負傷者もなく順調だな、次の依頼は?」

 

「んー……野良猫」

 

「は? 野良猫? 犬退治もそうだが野良猫の人里ひとざと襲撃って聞いたことねーな」

 

「たま の仲間だろうし、やりにくいなあ」

 

 

 小川にたどり着き、広い麦畑を抜ける。

 目的地のポロ村に着くと、けたたましい声が聞こえてくる。

 母親を呼ぶ赤子の悲鳴のような猫の威嚇いかくの声。

 あちこちの家屋かおくを囲む野良猫の群れ。

 

 

「なんて数だ、30匹以上はいるぞ」

 

「ひいぃ……猫蹴散けちらすだけかと思ったら、鳴き声だけでちびりそうです」

 

「うへぇ……こいつらなら気兼ねなく仕事できそう」

 

 

 シェギが戦闘指示を出し戦端が開くと一斉に迎え撃たれる。

 いかに猫の爪が短く、体躯たいくが人間に比べ小さいとはいえ360度あらゆる角度から襲いかかられると全てを防げるものではない。

 前を防げば横と後ろから、顔を守れば手足腹を引っかかれる。

 前衛後衛関係なくダメージが蓄積して行く。

 

 

< ぶうううっ! >

 

 メリーがバッグから出した酒袋を口に含みまわりに吹き出した。

 続いて両手から粉を巻き散らす。

 途端に付近の猫がフラフラと倒れごろごろと寝転がる。

 周りの猫たちは様子をみるように距離を置くが、数匹はメリーに近づき匂いをかぐとやはり寝転がった。

 

 

「なんだそれ? 酒か?」

 

木天蓼またたびですよ。

 木天蓼酒またたびしゅと粉末を飛ばしたんです、手持ちが少ない上一時しのぎにしかならないですけどね」

 

 

< グギイイイイイイイイイイッ! >

 

 耳をつんざくような雄叫びが辺り一帯に響きわたり、上から真っ赤な少女が落ちてきた。

 湿った落下音のあと、血まみれの少女はゆっくりと立ち上がった。

 猫たちは彼女を囲み、囲みを割り巨大な猫が近付いてくる。

 立ち上がった少女が剣を構え直した。

 

 

「あれ勇者ちゃんじゃん」

 

「なんだあの猫……猫? でいいんだよな?」

 

「やべえよやべえよ」

 

 

_/_/_/_/_/


『人間どもの魂を食らい尽くせ!!』

 

 

 獲物を求めて疾走していると脳内に直接怨嗟えんさの叫びが叩き込まれた。

 精神こころむしるそれは、不快で不愉快でなんとなく懐かしい。

 意味不明な感情を呼び起こすそれに向かって舵を取る。

 

 

『たま? 何処行くのよ』

 

『ごめん! あっちに用があるんだ』

 

 

 エリーやタンビたちには申し訳ないけど足並みを揃えられるような心境じゃない。

 精神こころが黒く焼きいぶされ、瞳孔が絞られていく。

 目標が視野に入るとユウシャが目標と闘っていた。


 目標は猫の形をしていた。

 けれど大きさは人間ヒトよりでかい。

 形も大きさも違うけれど忘れるわけがない。

 あれは前にユウシャの後ろから襲おうとしていた影だ。

 

 影の命令で周りの猫たちがユウシャへ襲いかかる。

 大した傷はつかないだろうけど体当たりで態勢をくずして、スキをつくろうとしているんだろう。

 僕は腱をいっぱい伸ばし切り全速力で奴に飛び込んでいく。

 

 

『喰らえ! 引き裂け! 押し倒せ!

 爪を突き立て喉笛に牙を食い込ませろ!』

 

 うるさいなー。

 影の前足には猫らしからぬ長尺な鉤爪かぎづめが伸び、突撃させた猫から顔をかばったユウシャのスキをついて突く。

 ユウシャの腹へ爪が刺ささるがユウシャはすかさず押さえつけ、鉤爪かぎづめごと腕を切り落とそうと剣を振り下ろす。

 

 剣は空振った。

 肉を斬らせて骨を断とうとしたら消えちゃったんだよな。

 わかるわかる、影のしそうなことだ。


 でも たま おぼえてる。

 ずっこい技は、連続できないんだよ!!

 勢いのまま喉の急所へがぶりつき、前足の鉤爪かぎづめを肩に食い込ませる。

 大ジャンプしなければ届かなかった巨体がそれだけで倒れる。

 そういえばハイオークの影も踏まれるの弱かったな。


 

『きさま! またしても……ユルサヌ! コロス!』

 

 

 また? なんか言ってるがでかい身体して僕に押し倒されたままどんどん気配が小さくなっているんだが。

 こいつくえ……いや喰いたくもない。

 

 

『たま! 一番強そうな獲物取ってずるい!

 みんなー! 人間ヒトのナワバリ荒らしどもをおいだすわよ!』

  


 エリーとタンビたちが追いついてきて、人間ヒトを襲った野良猫たちと戦い始める。

 僕の精神こころが落ち着くと、ベリアがいるのに気がついた。

 しばらくぶりなので斧を掻い潜りベリアの頭の上へ登る。

 はー落ち着く。

 


 みんながんばれー!

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