黒き復讐者の交響曲
@R-tani
序章
プロローグⅠ
この世界は魔術が当たり前に存在し、誰もが魔力を有する。
ただし、保有されている魔力量は様々で、微量保持者は瞳が茶色、大量保持者は青い瞳を持つと区別された。
しかし、有する魔力量で高低が決まる訳ではなく、先天的に微量者であっても、鍛錬次第で瞳の色が変化する事も多々あるのだ。
また、魔術に於ける属性も固定されたものではなく、好みとそれに伴う鍛錬次第で扱える術の可能性が広がる。
これが、この世界に住む物全ての〝共通認識〟である。
だが、その中でも凄まじい魔力を有する者が世に数人存在する。
その者達の瞳は茶や青ではなく、持つ色によって膨大な魔力と同時に特有の異能を持ち、世界を揺さぶる程の力を持つ
〝色眼持ち〟
〝カラーアイズ〟
と呼んだ。
斯くして、有する魔力を活かし生活を豊かにしていく知恵を身に着けた世界の住人達は火・電・水や、それらを幅広く利用する為の『魔道具』の生産に力を注ぎ、魔導駆輪や都市と都市を繋ぐ魔導列車造るなど目覚ましい発展を遂げたのだ。
中世から近世のヨーロッパ風の建造物が並ぶ世界――
───魔導歴1352年───
豊かな生活によって住民が増えた事で各国は魔力の大量保持者を集め、軍や騎士団を設立して自国の更なる発展を目指し、拡大へと踏み出した。
これが『魔導戦乱期』の幕開けである。
1415年――魔導戦乱・前期
小国が大国に滅ぼされ領地を奪われる。そして戦勝国は更なる拡大の為に別大国と戦争を始め、敗戦国はその国の傘下へ下る。
魔道具での豊かな時代から国同士の弱肉強食時代へと移り変わり、ある国では勝利に酔いしれ歓喜を上げ、一方では恐怖と絶望に落ちる。
そうして沢山の血と涙が流れたのだ。
1482年――魔導戦乱・中期
戦乱の時代を生き残り、自国の拡大に成功した実力者達が出揃い、小国は戦わずして強豪国の傘下へと加わっていった。
そして時代は強国同士のぶつかり合いとなり、戦争は更に激化していく。
大規模な戦争が繰り広げられたこの時期が魔導戦乱の全盛期だろう。
1520年――魔導戦乱・後期
当時、魔力も然る事乍ら、一個人でも高い実力を持ち、“武人”が集う東方国がその周辺国を次々に傘下に治め、一層強大な力を得た。
更に、当時軍を率いていた東方国の王、〝戦神〟の名を持つゼル・アーバロンが、世界の芯とも呼ばれる“北ゴルデニア大陸の中央”に『アーバロン大帝国』を興し、皇帝へと即位した。
また、生活に欠かさない魔道具を武器として扱えるよう有能な魔道具師を集め、その研究と開発に力を入れていた南ゴルデニア大陸に位置するドーバル軍事国家がアーバロン大帝国を追う様に力を付けていった。
最高指揮官であるゴルバフ・ローデンバーグが奇抜な発想から魔道具を武器として扱う“魔導兵器”の開発に成功したのだ。
魔導兵器の登場によって世界の武力バランスが大きく崩れ、圧倒的な軍事力にてゴルバフはその名を轟かせる。
その後、傘下となった国の近くには駐屯基地が作られ、陰から牛耳っていったのだ。
1550年───
アーバロン大帝国は世界の6割にもなる国々を同盟国として傘下に置き、秩序を保つという名目で政府を発足。
この時点でゼル・アーバロンは文字通り世界を統べる〝皇帝〟へと至った。
更に、ドーバル軍事要塞最高指揮官のゴルバフ・ローデンバーグも自身の安全と安泰、加えて『武力行使の自由』の確約を条件に、帝国を含めた有権国に魔導兵器の設計図を公開した。
こうして他国に魔導兵器が導入された事で世界は均衡が保たれ、同時に最大の人口と領地を持つアーバロンと最大の武力を持つドーバルが同盟を結んだ事で魔導戦乱期が幕を閉じる事になった。
しかし、1565年――難攻不落とされたドーバル軍事要塞で〝歴史的な大事件〟が起こる。
※ ※ ※ ※ ※
ドーバル軍事要塞
「一斉射撃用意! てぇー!!!」
ズドン!
ズドン!
ヒューン! ババッバババッ!
激音と共に基地から魔導機銃部隊による無数の魔弾が一点に向けて発射され、やがて爆煙で覆われた地面は過剰な攻撃によってクレーターが出来ていた。
「打ち方止めっ!」
基地内部、施設の外では指揮官からの命令で射撃が止まり、激音の余韻だけが残る――
「ふん、他愛もない。 たかが子鼠一匹に対しては少々過剰ではあるがな」
基地内中央にある建物内では、まるで余興を楽しむかの様に軍服姿の男がワインを嗜み、外の様子を眺めていた。
180センチを超える大きな体格で、髪を全て剃っていて、顎鬚が特徴的な50代近い大男だ。
軍服には自身の権力と最高位の階級を表す徽章を付けている。
「ゴルバフ元帥閣下、流石にあれは血肉も残らないでしょう。 むしろ魔力の無駄遣いと言うべきか……」
一斉射撃の対象はたった一人の人間だ。それに対しては確実にやり過ぎだろう、と元帥の横で金髪オールバックの参謀が不敵な笑みで言う。
「しかしだな、1でも10でも我がドーバル国家に敵対するなら全力で向かい打つ、それが私のやり方だと君が一番理解しているはずだろう? ハンデル君。
そうでなければ最強とは名乗れんからな! はーははははっ!」
二人は基地内の出来事がまるでお遊びかの様に笑い合っていた。
しかし、後にその余裕はすぐに覆される事となる。
広報部隊からの魔導通信によって驚愕の事実を叩きつけられたのだ。
『ばっ、 ばかな! 有り得な……し、失礼致しました! こちら第一部隊、目標は依然としてこちらに向かって来ています! あの弾幕で、む、無傷です!』
「ほう……あれをくらって無傷か。 障壁を展開しても蹴散らす武器なのだがなぁ……
なかなか面白いじゃないか、少年」
ゴルバフはその事実を耳にしてもなお余裕を崩さず、常に勝利を確信しているとでも言いそうな笑みを浮かべていた。
「魔導機銃隊は出力を上げ、弾幕を張れ! 魔術部隊を投入後、各自使用可能な最大魔術で迎えろ!」
ハンデルが第二派に向け、参謀長官等に指示を出す。
「「「はっ!!!」」」
タタタタッ!と指示を受けた兵達は急ぎ足でその場を後にする。
「さて、どこまで耐えられるかな?」
ハンデルもまた、ゴルバフと同じように笑みを浮かべながら爆煙が立つ外を眺めるのであった――
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「敵は既に西ゲートを越えて中枢へ移動中! 何がなんでも食い止めろ! 行けっー!」
既に指揮官からの命令で各部隊が建物の中や外に配置され、対象への攻撃を開始していた。
ドンッ!ドンッ!
ダダダッ!ダダダダッ!
田舎の村なら即座に壊滅出来るであろう圧倒的な武力行使が一人の人間に対して為される。
しかし、それらを以てしても全てが打ち消され、対象がゆっくりと前進し、そして立ち止まった。
見た目14~16歳位の少年。
本来であれば幼さの残る年齢のではあるが……そこに立つのは揺れ動く漆黒に包まれ、〝紅い眼〟を持つ少年だった。
目の前に立つだけでも畏怖が纏い、その眼は死を感じさせる紅の輝きを放っている。
(一人に、しかもこんなガキにここまで軍を動かすのか?)
そう思った兵達は少なくない、が……対象を目視した瞬間、誰もが死を過った。
魔導機銃隊やその他の兵と少年の距離は約100メートル。
立ち止まった少年は右手人差し指を空に向け、魔術を行使する。
「―
少年の上空に二重の術式が浮かび上がり、淡く発光した白い球体が生み出された。
そして、掲げた右手は兵達へと振り下ろされた――
「「「っ――!?」」」
全ては一瞬の出来事だった。
振り下ろされたと同時に、発光した白い球体が『カッ!』っと閃光を放ち、一瞬にして直線状の全てを飲みこんだのだ。
別の建物や敷地内に配置されていた兵達は、見ていたはずなのに何が起こったのかが分からなかった。
その為、只々口を開いたまま愕然していた。
先ほどまで武器を構えていた兵達やその後ろの建物が〝瞬き〟をしたら既に消え去っていたのだから……
まさしく〝光速〟の魔術が一人の少年から繰り出されたのだ。
そして、少年は更に追撃を始める。
「―
発した言葉と同時に少年の手から黒い球体が生まれ、ビュンっと空へ放たれる。
球体は肉眼では確認出来ない程天高く昇り、やがて空中で『バチッバチッ』とスパークを始めたのち、魔術を逃れた周りの兵達に一気に襲い掛かった。
周囲500メートル圏内に降り注ぐ漆黒の雷。
当然、兵達は逃れる術もなく、そのままプスプスと音を立てながら崩れていく。
少年が踏み入れた西ゲートの正面にあったはずの建物は崩壊し、集結した部隊は壊滅。
そこは焼け焦げた異臭だけが漂っていた。
「必ず……必ずこの手で殺す」
少年は呟き、壊れた壁穴から奥の建物へと進んでいった――
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