第2話✵喫茶セルピコ✵
22歳からの5年間の恋の話を致します。
彼との出会いは喫茶店でした。
小さな街の片隅でJAZZの流れる喫茶店『セルピコ』古い映画の題名を店名にしていた。壁にはこの映画の主人公セルピコを演じたアル・パチーノのモノクロのポスターが貼られていた。
カウンター7席とボックス席5席の店内、窓際の席からは近くの公園の緑の景色が見れる。晴れの日は柔らかな日が差す木漏れ日に癒され、そして雨の日は緑がより一層その色を濃くしていくのを眺めることが出来る。
私が1人で訪れるのはカウンター席
コーヒーを入れるマスターに恋をしたからだ。
髭を蓄えた顔の整った横顔が綺麗なこの男性はいくつなんだろう。
「ブレンドコーヒーをお願いします」
コーヒーをブラックで飲むようになったのはこの店がきっかけだった。
サイフォンで丁寧に入れたコーヒーは砂糖やミルクなど余計なものは不要だと知ったのはこの店とマスターのおかげだと思う。
いつもは声をかけてこない寡黙なマスターがある日初めて声をかけて来た。
「近くにお勤めなんですか?」
いきなり声を掛けられて少しびっくりした。
「はい、近くの赤木歯科クリニックで歯科助手として働いてます」
高校を卒業して、皆が大学に通い始めた頃に私はそこに入った。5年目に入り仕事も色々とこなして来れるようになっていた、歯科助手の仕事は治療の補助と受付の仕事そして診療報酬の請求の書類作成なども大事な仕事の1つだった。
毎日数えきれない人数がやってくるその歯科医院はこの界隈で一番繁盛していることでも有名だった。
疲れた心と身体を癒すための1杯のコーヒーは小さな恋も連れて来た。
それからも毎日のようにその店を訪れた。
1度はすぐ上の兄と店に行った、その時は窓際のボックス席に座ったけど、マスターは声を掛けることはなかった。
次の日にいつものようにカウンターに座ると「昨日の人が彼氏なんですか?」
と唐突に聞かれた。
「とんでもないですよ、兄です他県で仕事をしていて久しぶりに帰ってきたんです、あまり似てませんが」
「そうなんですか、てっきり彼氏だと思って声をかけなかったんですよ」
「残念ながら彼氏いないんですよ」
そして、ずっと気になっていた事を聞いた
「マスターって彼女いるんですよね」
「うんまぁ…」
そうだよねこんなに素敵な人に彼女がいないわけないよね。
それでも恋する気持ちは変わらない、それからもお店には通ったしマスターともたくさん話をした。
夏の終わりのある日私が呟いた言葉「今年は花火大会にも行けなかったんです」その言葉に反応したマスターが言ってくれたのは、
「今日は早めに店を閉めるから海に行きませんか?」
舞い上がるほど嬉しいけど、彼女がいるのにいいのだろうか?
「もしかして彼女の事を気にかけてくれてる?気にしなくてもいいんだけど…」
少し寂しげに笑う彼に私は返事をした。
「じゃあ、お願いします」
マスターの名前は草場
1度自宅に帰り約束の時間に店を訪れると、マスターは洗い物の手を止めて「これ車のキーだから、先に車で待っててくれる?黒のゴルフだから」
店の後ろにはそのビルの駐車場があり、そして少し古いが大きな日本家屋がある、そこがマスターの自宅であり、この街にたくさんの土地を所有していて裕福だと噂される草場家の邸宅だった。
自宅の駐車場に停めてある車に乗り込むのは
恥ずかしいとも思ったが、言われるままに黒のゴルフのドアの鍵穴にキーを差し込んだ。
車の助手席に座ると微かにタバコの香りがした、店では吸っていないから気が付かなかったけど、大人なんだなと思った。
暫くして店の裏口の扉が開きマスターが車に乗り込んで来た。
「お待たせしました、じゃあ行こうか?
途中のコンビニに寄って花火買おう」
「はい」
そのドアを閉めた瞬間から2人の大恋愛は始まった。
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