見習い戦士登場
「ルディア! 今日こそ勝たせてもらうぜ!」
部屋のドアはバンッと、壊れるほど勢いよく叩かれ、そこから現れたのは身の丈以上もある大剣を背負った少々口の荒い少女だった。
ルディアと比べるとガサツで、せっかく綺麗な金髪もボサボサであり、野生児に近い雰囲気を持っていた。しかも、体の所々に鎧を着ており、まるで戦士のような格好だ。
しかし、それよりも目立ったのが所々に刻まれた傷痕だろう。
「また来たの? 別に私としては、訓練の相手になるから良いけど、今回はタイミングが悪かったわね。ソフィ」
「はぁ? 何を言ってんだ?」
ソフィと呼ばれた少女はズカズカとルディアに近づいてく。最初は少年の事に気付いていなかった、というか眼中になかったが、ルディアの言葉によって彼女の意識が始めて少年へと向けられる。
「今日は彼の様子を見てなきゃならないの。だから、来るならせめて明日になさい」
「彼……?」
野生児少女はルディアに言われ、少年をまじまじと舐め回すように見る。顎に手を添えながら、『ほうほう』とか『なるほどなるほど』と、何に納得したのか口をニマニマさせ、意味深な表情を浮かべる。
「なによ、その顔は」
逆にルディアは気味が悪いと言わんばかりの、嫌な顔でソフィアを睨みつける。
「やっぱりな。さて、邪魔者のアタシはとっとと退散しますかね。そんじゃお二人さん。あとは仲良く……」
「馬鹿か」
「痛っ!?」
何か勘違いをしている。そう判断した瞬間にルディアの脳天直下チョップがソフィに繰り出される。
その威力は見ての通りで、チョップを受けたソフィがうずくまり、床に倒れるほどの激痛を受けたようだ。
「彼は森で拾っただけよ。面識はさっき初めてしたところだから、アンタが思うような関係じゃないわ」
「なーんだ。つまんねぇの」
真実を伝えられた瞬間に、少年からソフィの興味が一気に薄れる。
しかし、少し空気気味になりそうな少年からすれば、いきなり現れた少女ソフィの存在が気にかかる。
「なあ、ルディア。そいつ誰だ?」
「こいつ?」
「おお! アタシか!」
自身が話題となる。そう聞いた瞬間に彼女は落胆の感情から一気に明るく興奮し、誰に頼まれた訳でも無しに自己紹介を始める。
「アタシはソフィ! 前衛でバッタバッタと敵を薙ぎ倒すカッコいい戦士だ!」
「見習いの、ね」
「余計な事言うなよ〜」
Vサインをしながらポーズをつけたソフィであったが、水を差された事で、『ちぇっ』と言いそうな表情でまた落胆する。
「で、お前の名前は?」
「それが分からないのよ。彼、記憶喪失みたいだし、持ち物らしき物も一切なし。正直、お手上げ」
「は? なんだそりゃ」
「けど、名前がないのは不便か……」
ソフィの一つの疑問により、話は次へと進む。
名前をどうするか。
偽名だろうと、仮名だろうと何かしら少年には必要なものだ。いつまでも貴方やら、こいつやらではシャンとしないだろう。
「なら
「却下、安直すぎる」
「ちぇっ……じゃあ
「却下、理由はさっきと同じ」
「それなら、
「却下……というか、さっきから後ろ向きな名前しか出してないわよね?」
次々と案を出していくソフィであったが、それはことごとく却下されていく。
「なんだよ、別に悪くないだろ?」
「悪いわよ。少なくとも名前にするようなモノじゃないわ」
「だったら何が良いんだ?」
そう言われると、今度はルディアが何か案を出そうとする。
「そうねぇ……リル」
「リル?」
あまりにも突発で単調な名前、それにソフィと少年は首をかしげる。
「そうよ。リルーフ・ルフェン、それが良いと思う」
「なんだよそれ。聞いとくけど、どういう意味だ?」
「そんな者ないわ。勘よ、勘」
「うへぇ、お得意の奴ですか」
ソフィの顔は一気に不機嫌となる。ルディアは勘といったが、それはソフィにとって何か嫌な思い出でもあるのだろう。
「絶対アタシの方が良いと思うけど」
「それなら、本人に聞いてみましょ」
向き合っていた二人は、少し空気気味であった少年に再び目を向けて、ある質問をする。
「私のリルーフと、コイツのノーネーム? とかなんたらっていう奴、貴方はどっちが良い?」
「お、俺が決めるのか?」
優柔不断な質問返しであるが、それは不安というよりも、面倒という感じで、自分で決めるよりも他人にさっさと決めてほしいという考えが表に出ていた。
しかし、この状況ではもう通用しない。
「当たり前よ。貴方の名前なんだから、貴方が自身が決めないと」
「なら、ルディアが言った方で」
だが、なんだかんだ言って即決した。
「そっちの方がまだマシだし」
「なんだよ〜、アタシの方が……」
「くどい」
本人が決めた事であるのに、まだダダをこね出すソフィであったが、それは一蹴される。
「それじゃあ仮だけど、貴方の名前はリルーフ・ルフェン。これで良いわね?」
「良いんだけどさ、何故ルフェンっていうお前と同じ苗字を使うんだ?」
「都合が良いからよ、対外的に」
理由の一つを聞いただけで少年、リルは『ふーん、そうか』と流し、追求はしなかった。
「さてリル、今日は休みなさい。明日からはビシバシ働いてもらから」
「あ、ああ」
「ソフィはさっさと部屋から出ることね。お茶ぐらいは出してあげるから」
ルディアはソフィの手を掴み、強引に部屋の外へと連れ出そうとする。リルを安静にしておきたいという理由だろうが、少し無理やりすぎる行動でもあった。
「お、おい! そんな引っ張んなって!」
静止の言葉も聞かず、部屋を出て扉を閉める。
「なんだよ、無理やりしやがって。もうちょっと話ぐらいは……」
「最初に言っておくわ」
ソフィの文句を断ち切るように、強くルディアは警告をする。
わざわざ少年のいないところに連れ出したのは、この話を聞かせたくないからだ。
「彼に過去の話は聞かないこと。もちろん家族とか友人とかの話もね。話題に出すことも極力避けなさい」
「なんでだ?」
「記憶喪失だからよ。彼は自分の正体を知る手掛かりがない。自分の顔を見ても何も思い出せないし、持っていた物もない。今はその事に無頓着だけど、意識し始めてしまえば精神的に追い詰められるかもしれない」
彼女は今日初めて話したばかりの少年を心配していた。これから共に生活する者として、不安にさせるような事はさせたくなかった。
「……はいはい、分かった。ていうか、私が家族のこと何て話すわけないし」
ソフィは渋々ながらも了承する。最後の部分は小声で、皮肉を垂れながら。
「最後、何か……」
「にしてもお前、相変わらずお人好しだな」
「……そうかもね。けど、今回は無駄かもね。これから一切彼に過去を意識させないなんて無理だし、そもそも見た感じからデリケートな性格してなさそうだし」
その言葉にソフィは肩透かしを食らったかのような表情をする。
「なんだよ、それ」
「アンタの言うお人好しが難儀になっただけよ。
さあ、さっき言ったとおりお茶を出してあげるから、さっさと行くわよ」
友人に茶を出す。そのためにルディアはキッチンに向かい、ソフィもそれについていく。
「お、ラッキー! ついでにクッキーもくれよな」
「はいはい欲張り屋さんね」
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