風車と蝶

驢馬

風車と蝶

 夏の終わりのこと。

 敷き詰められた緑の美しい丘陵に一台の風車が建っていた。

 風がなく、まるで時間が止まっていたかのような静けさがあった。

 風車は古く、木製の外壁は黒ずんでいる。

 内部も酷い有り様で、釘は錆び付き、柱は齧られ、蜘蛛の巣がいたる所にあった。

 そして、そんな老いぼれた風車の下で小さな蛹が羽化を始めていた。

 飴色の殻が割け、のけぞるように生まれる乳白色の肢体。

 小さく畳まれた繊細な翅を、露が伝い零れる。

 翅脈が緩やかに広がり、澄んだ生命を垣間見せた。

 垂らした墨汁のように光の無い瞳が、深い緑色に染まり行く。

 間もなく、蛹の内の曖昧で確かな形を持たなかった粘液が美しく可愛らしい身体と束の間の自由を得るだろう。

 朱色の翅が日を透かし、徐々に斑模様が浮かび上がる。

 かつての自分を置き去りに、蝶は羽ばたき舞い上がった。

 残された蛹は朽ちて枯葉に紛れる。

 蝶が生み出す風を受け、羽根がゆっくりと動き出した。

 風車は眠りから覚め、歯車が軋む音がした。

 

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風車と蝶 驢馬 @adagawa

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