第15回 書き出し祭り/3-23『使用人の幸福』感想

※小説家になろう様にて開催中の、第15回書き出し祭り参加作品への感想です。



Web連載想定ということで、楽しみです。

お世辞でもなんでもなく、私はこの作品が今回の書き出し祭りの中で一番好きなので、もう続きが読みたくて読みたくて仕方がありません。落ち着きます。

展開の速さというか、冒頭からすでにお嬢様が誘拐されているというのがいいです。

始まりの時点でクライマックス。緊張感が最高潮の場面から始まるというのは、心がグッと掴まれますね。

そして冒頭から心を掴みながら、そのままの勢いで佐崎の獲物を出してくる。最高か?

お嬢様と主人への佐崎の想いを描写しながら獲物を取り出し、佐崎が普通ではないと示したのち、怪しいと睨んだ女中の元へ。

その最中にも主人公の過去を匂わせ、そこで培われた能力を発揮しつつ、同じく普通ではなさそうな女中との緊張感のあるやりとり。

そこから戦闘シーンを挟んでの、敵だと思ったら味方だった事実が判明。

そこでまた主人公の過去の暗部を匂わせ、一時の協力関係の構築、相手の口から語られる主人公の正体の片鱗。

こうして書いていくと、本当にスマートな、そして読者の興味を保ったままの情報の出し方。

本当に大好きです。落ち着きます。

あまりにもスマートすぎて、4千字があっという間に過ぎて行きます。

一瞬にして読み終わってしまいました。続きはどこですか? 落ち着けません。


ちょっと好き過ぎて冷静に分析ができないのですが、気になる部分といえばこの物語のゴールです。

タイトルでも、本文でも何度も言及されるように、“使用人の幸福”がテーマであることは疑いようもありません。

明治維新において存在意義を失くした主人公が、新たな人生と居場所を獲得する。

ただ現状、彼はすでにそれを獲得しています。

この後、お嬢様や主人に隠し続けている過去を暴露される可能性、そしてその暴露によって幸福が脅かされるようなことがあるのでしょうか。

どうしても引き合いに出てきそうな『るろうに剣心』がありますが、あちらは人斬りという正体は早々に明らかになり(というか主人公に隠す気があまりない)、それ故に過去が主人公を追い続け、それでもなお逆刃刀で殺さずを貫くというものがありますが、この物語もその路線を行くのでしょうか。

修羅に返り咲き、その後どうなるのか。

もう戻らないことを示唆するような文章がありますから、もしかしたらお嬢様を助けた際に血に塗れた過去を知られ、もうここにはいられないと覚悟する主人公に、察してにしろ純粋にしろ『一緒に帰ろう。だってあなたはうちの執事でしょう?』と声をかけるお嬢様に、『そうですね、お嬢様と旦那様にお仕えできることが、私(使用人)の幸福ですからね』なんて返事をしたところで完結、という中編規模の作品になるのかもしれませんが。

あらすじ時点で主人公視点での文章であるが故に、着地点の想像がしにくいという点はあるかもしれません。

ただそれが致命的かと言われると全くそんなことはないし、無理やり言うことを探した感は否めません。

本当に大好きなんです、ありがとうございます。


南雲

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