私にとっては宝物

あおみどろ

四つ葉と幸福論

四つ葉のクローバーが踏み潰されてひしゃげていた。


誰かにとっては宝物になるのに、誰かにとってはただの雑草でしかないんだ。


宝物って、共通のものにはなれないんだ。


そう気づいてしまったのは小学生のときだったと思う。


ふとした瞬間に、私は別になくてもいいんだって考えてしまうようになってしまった。


3人グループを作って、他の2人が私の知らない話で盛り上がっていたとき。


私ってこんなもんなんだって思った。


多分その時から、頭の中に友人が生まれたの。


私が問いかければいつでも答えてくれるし、

私がつまらなそうにしていると面白い話をしてくれる。


何故か胸が苦しくなったりしたけど、特に気にせず生きてきた。


あの子は話を聞いてくれて、私と仲良くしてくれる。


だけど抱きしめてはくれない。


どんなに会いたいと願っても、会うことはままならない。


だって私の頭の中にいるから。


仲の良い子だって、同情しかくれない。


幸せになりたい。


そう思ったのは、中学生のとき。


高校に入ってもなんだか満たされなくて。


この感覚は、虚しいって言うんだなって最近気付いた。


みんなはどうやり過ごしてるんだろう。


どう、虚しさと付き合っていっているのだろう。


どれだけ考えてもわからないから考えるのをやめた。


生き方がわからないから、目標とか知らないし。


大学とか、めんどくさい。


目標とかそういうの、全く無い。


どうしようかなぁ。


幸せになりたいなぁ。


ぼんやりと幸せについて考えてたら、あの子が話しかけてきた。


“じゃあ幸せになろうよ”


びっくりした。


話を聞かせてくれることはあっても、向こうから自発的に問いかけてくることなんてそうそう無かったから。


幸せになりたいけど…どうすればいいの?


私からあの子に問いかけてみたら、ここぞとばかりに目を輝かせて


“飛び降りればいいんだよ。ここから。”


と言ってきた。


死んじゃうよ。


なんて、無難な返事して。


それでも少し、いいかもって思ってた。


だからあの子に聞いた。


ほんとに幸せになれるの?


“なれるよ”


虚しさに苦しめられたりしないの?


“しないよ”


だったら死のうかな。


“いつ?”


どうせなら今かな。


“ほんとに?”


嘘はつかないよ。


“約束だよ”


約束は守らなきゃね。


お母さんにも、お父さんにも、きちんと理由を説明してから。


悲しませないように、手紙を残してあげよう。


私の幸せの為に、ほんの少しだけ、我慢してくれるかな。


ひしゃげた四つ葉のクローバーの栞を指でなぞった。

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