甘い天変地異と涙
みなづきあまね
甘い天変地異と涙
夜が駆け足でやってきた。残業しつつもいつもほどは疲れてなく、同僚とお茶をしながら小休止を楽しんでいた。
人はそこそこおり、まだ夕方に類する時間帯ということもあり、寂しさや帰りたいという焦燥感もなかった。
対岸に私と同じくらい小柄な先輩がいる。年上だが見た目的に同い年か年下に見える、小動物みたいな人だ。右手に小分けにされたチョコレートを沢山のせ、歩き回っていた。
差し入れでもらったはいいが量が多く、周辺の同僚に配り歩いているらしい。チョコレートを食べながら、配りながら、楽しそうに数人が話に花を咲かせていた。
その中に私の好きな人がいる。配り歩く彼女の話に楽しげに笑い、その眼差しは優しい。あーあ、きっとあの人の事が好きなんだな。
そう思っていると、彼にチョコレートの配給が回ってきた。いくつか受け取ると、一つ口に含んだ。私は少し嫉妬心がちらつき、席に座ったまま先輩に話しかけた。
「いつも美味しいものは独り占めなのに珍しいですね!」
「だって、あまりに多すぎるし。って、珍しくないよー!いつも食べまくってると思って!」
先輩はぷんすかしつつも、私にもチョコレートをくれた。
「いやいや、天変地異が起きたりして」
そう笑った私を呼ぶ声がして、意中の彼が、
「大雨くらいにしておきません?」
と笑い返してきた。
ふいに名前を呼ばれ、話しかけられてハイになったが、冷静に考えてみると、私の行き過ぎたジョークをたしなめられたのかもしれない。
ああ、やっぱ先輩を好きなんだ。正直私の方が見た目は良いし、落ち着いている。職場でも彼女は妹というより子供扱い。なのに、私は勝てないのかな?
口の中でチョコレートが溶けた。甘い。手元にあったコーヒーを一気飲みした。
甘い天変地異と涙 みなづきあまね @soranomame
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