てんげんっ!~囲碁少女達が送る日常の一コマ~

じんむ

ぷろろーぐ むかしのおはなし

 今から七年前、きらりが小学三年生の時だった。

 全日本囲碁ジュニア選手権決勝。きらりの目の前にはこれまで激戦を勝ち抜いてきた上級生の女の子が鋭い目つきで碁盤を見つめている。

 見るからに強そうな相手。気合い入れてやらなきゃ、ときらりは意気込んだ。


「それでは、握ってください」


 棋譜をつけるお姉さんが言うので、きらりは目の前に置かれた黒の碁石入れを自分のところへと引き寄せた。

 きっと相手は奇数だよね。きらりは目星を付けると、黒石を一つ握った。囲碁はここで先行か後攻か決まる。要は相手の石が奇数か偶数か当てればいいのである。


 手の中の石を碁盤に置くと、相手もまた手の中の石を碁盤の上に置く。

 結果、置かれたのは黒石一つに対して、九つの白石。奇数を当てたので、これできらりの先番が決まった。

 お互い石を碁石入れの中へと戻せば、いよいよ対局の始まりだ。

 きらりは結んでいた黄色リボンを二つほどく。髪の毛は解き放たれ、さらりと柔そうな頬を伝った。


「お願いします!」

「お願いします」


 お互い頭を下げると、いよいよ決勝戦の火ぶたが切って落とされる。

 きらりは人差し指と中指で黒石を持ち上げると、そのまま碁盤へと打ち付ける。

 刹那、縦に煌く鋭い閃光。風を巻き起こし火花を散らした石は、盤上の中央に置かれていた。

 初手、天元。

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