【序章】第十話:犠牲者
【ダンジョン地下3F】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
出現モンスター(ゴブリンのみ)
此処にはゴブリンしか居ないがその数は此処までの階層とは段違いだった、緑色の肌を持つ、コボルトより少し小さい身体のゴブリンが、フロアの何処を見ても10匹ぐらいの集団で彷徨いている
3階層の階段を降りた途端、正面に居たゴブリン達が気が付き、舌足らずな叫び声を上げながら襲いかかり、それに呼応するように左右の集団も迫ってくる
「コバッ左側を任せるっモヤシはコバのフォローしろ!コバより前には出るなよっ
ナルミはそのまま正面だ、どうせ勝手にやってくるんだ、全部蹴散らせ!」
ビリケンが居ればいつものやり方で、殆ど任せっきりで済む筈だが、ビリケンも居らず、モヤシを守りながらの戦いになる為、細かい指示を出し始めるリキッド達に
緑色の長く尖った鼻を持ち黄色い目のゴブリンが涎を垂らしながら棍棒片手に、数の暴力で襲いかかって来る
右側からやってくるゴブリン達は、リキッドが
光の矢より小さな光の弾をセミオートのような連写で、近づこうとするゴブリン達の脳天に穴を開けて倒し、圧倒的なレベル差で難無くゴブリン達を殱滅していく
モヤシ君も少しは戦闘に慣れて来たのか、少なくともへっぴり腰では無くなり、コバの後ろから隙を突こうとするゴブリンを短剣で牽制していく、
スキルも少しずつだが回数と回復速度が増していったようだ
【新人探索者】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ゴブリン達の数が段々減ってきた頃、奥の方から人がゴブリンを蹴散らしながら近づいて来るのが分かった
「……何だ?」
スパスパと光弾を撃ちながらゴブリンを倒していたリキッドも気がつく
「奥の方から、誰か来ますね?」
誰でも分かる事をコバが言うが
走って来たのは2人の日本人奴隷と1人の探索者だ
「リッリキッド先輩ったった助けて下さい!ユユユユニークです!」
ゴブリンの居る階層は何故かユニークゴブリン(雑魚)が現れやすい、それ故にゴブリンの階層は新人潰しとしても有名だった
「ユニーク…また出やがったのか…まあゴブリンの階層じゃ珍しくもない、ナルミやって来い」
「…はい」
指示されたナルミがパーティの前を更に出て行く
残り僅かになったゴブリンがナルミに群がろうとするがリキッドがそれを許さず、ゴブリンの頭を貫いていき
前から走って来る探索者と奴隷2人がナルミの横を通り抜けて行く3人ともまだ10代のように見えた
「たった助かった!」
「「ありがとうございますっ!」」
それぞれが感謝と安堵を示しながらリキッドの後ろ迄走っていくと
「ゴブリンのユニークに負ける様じゃお前らにはまだ此処は早いって事だ、上の階から出直して来い!」
「「「はっはい〜!」」」
そのまま上の階層まで退散して行き
ナルミの前には人と同じサイズの…やはり真っ白なゴブリンがズシンズシンとやって来てナルミの前で立ち止まる
狡猾なゴブリンだがある程度の強さを持つと頭は悪くなる、
自分の力を過信したゴブリンはナルミに向かって走りだし、丸太のような腕で棍棒を振り下ろして来る
その速度はナルミのフルスィングに匹敵するが、直線的でナルミにとっては目を閉じても避けられるような大振りだ、片足を半歩程進めてゴブリンの足を引っ掛けると、人と同じ大きさのゴブリンはデカイ棍棒を空振りしたまま地面に顔面から落ちて転がり
ギギギイィーッ!!
「デカくなっても声は同じなんだな?」
ナルミの言葉に反応して振り返ったユニークゴブリンの目の前には既に振り下ろされたハルバードがフルスィングでぶつかる瞬間だった
断末魔さえ上げる暇もなく、頭を割られたユニークゴブリンは消えていった
「流石だなあ、ナルミっ」
「あっあの、本当に同じ日本人なんですか?」
コバとモヤシがそれぞれ話し掛けて来たが
「まだ3階層だ、こんなの遊びにもならないぞ?」
リキッドが主にモヤシに向けてそう言うとゲンナリするモヤシ
「……これが遊び以下」
「まぁそれでもユニークは大体10階層下の実力を持ってるんだ、つまりさっきの奴は遊びじゃねーよ」
コバがフォローする
「因みに…何時もは何処まで潜ってるんですか?」
「いつもは20階層迄だな、……今日はどうするのかなあ?」
「おい、さっさと行くぞ、早く来いっ」
進み始めたリキッドに呼ばれて、コバもモヤシも慌てて走り始めた
【新たな発見】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
先に進んで行くと
二つの死体が転がっていた
先程のパーティの仲間だったんだろう
廻りにはまだゴブリンの死骸が少し残っていた
「…しっ死んでるんですか?」
モヤシがそれを見て怯え始める……平和な日本に居たら滅多に見ないのだから当然だ、キドもナルミの記憶では見てるが、慣れるもんじゃ無い
「ふん…実力もない癖に無理するからだ……馬鹿やろうが」
冷たい言い方だが、自分は絶対にソレをしないと言う決意表明だ、リキッドはいつも犠牲者を見るたびに、そう呟く
「ちょっと…調べても良いですか?」
「ナルミ…珍しいな…知り合いか?」
普段自分からは話さないナルミが珍しい事を言うのでリキッドも驚いた
先にリキッドが反応したので言葉には出さなかったがコバも驚いていた
黙って頷くナルミには確かめないといけない理由があった
片方はただの死体だが
片方は、小さいが赤黒いオーラが見えていた
その理由を確かめる必要があったから、普段しない事をする必要があった
2人並ぶ死体…片方は男で片方は女だった
2人とも先程逃げてきた探索者より少しだけ年上に見える、若い子を逃すために犠牲に廻ったのかもしれない…
男の方が女を庇う様に上になっていてオーラが見えない
嫌で仕方ないが、手を合わせてからそっとどかすと冷たくなっている
もう片方、男の下でうつ伏せになっている女を仰向けにしてみる
どちらもナルミの記憶には無い2人だったが…ほんの少しだけ体温が手に伝わってくる
2人の死体に手を合わせているとオーラがどんどん小さくなり……やがて消えた
確かめてみるとやはり冷たくなっていた
(死んだ時間……冷たくなる迄がリミットと言う事…なのか?)
「ナルミ、そろそろ行くぞ?」
手を合わせる日本人の儀礼を知っているリキッドは少しの間、大人しく見ていたが
もう良いだろうと声を掛けてきた
「はい…」
(これが奴隷達の現実……使い捨てられるだけの人生………絶対に終わらせてやるからな)
犠牲になった2人の日本人に決意を固めるキドだった
【地下3F階層主の広場】
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
残り少なくなったゴブリンを蹴散らしながら、
2Fの時と同じ様に円柱に囲まれた広場にたどり着いた
作りは全く同じだが、パーティ全員が広場に入ると現れた階層主は2Fとは少し違った
白くは無い、雑魚と同じ緑色のエルダーの名前を付けたゴブリンが3匹現れる
それぞれ長槍持ち、短剣を二本持ち、両手剣持ち
大きさも2mを超す程度だ
「さっ3匹も!」
モヤシがまた新鮮なリアクションをするが
「さっきのユニークに比べたら可愛いもんだ俺とお前で1匹受け持つ、
ナルミより遅いとリキッドさんにぶん殴られるから、急げよ?」
先輩ヅラしたコバが長剣を持って、そう言うと、同じ長剣持ちのゴブリンに走って行く
同じ武器ならレベル高くて剣技の高い方が確実に勝つからだ
「そっそんなの早く行って下さいよー」
慌ててコバを追いかけて行くモヤシ
瞬殺で終わらせて当然な相手なので誰も躊躇しない、
モヤシは自分より大きなゴブリンに突っ込んで行く
敵の第一撃目を受けて弾くのが仕事だと良い加減覚えてきたらしい
「うひぃぃぃぃぃ!!」
まだ恐怖は抜けて居ないがガッツは予想以上にあったモヤシは短剣を振り回しながら近づいていくと、
ゴブリンの長剣が隙だらけで突っ込むモヤシに、見た目と違って正確に剣で足を鋭く払うが
パキンッ!
どう見ても足を落とした筈のモヤシは剣撃を障壁で弾き、
呆気に取られたゴブリンの頭に
「やぁぁあああああ!」
デカイ声で短剣を振り下ろすモヤシの声に気が付き慌てて防御する
「グッグギッギッ……………」
ドサァ
モヤシの目の前にいた長剣使いのゴブリンが崩れ落ちる
隙だらけになった所をコバが後ろから急所を刺していた
他を見ると、ナルミが短剣使いを
リキッドが長槍持ちをそれぞれ倒し終わって居た
「ぼっ僕たち…負けたんですか?」
殴られるのが嫌なモヤシがコバに聞くと
「ん?なんの事だ?」
何を言ってるのか分からないという顔をするコバ
「倒すの遅かったら殴られるって言ったじゃないですかああ!」
「あぁぁっ…ありゃ嘘だ、度胸付いたろ?良かったな……というか、お前殴れなくね?」
思い出したコバは楽しそうに言う
「なっなっなああああっうっ嘘つきいい!」
「今日はまだまだボスとも戦うんだから、お前にも早く慣れてもらわないと困るんだよ!殴られるだけじゃ済まないんだぞっ!」
必死に抗議する五月蝿いモヤシに正論で返すコバ、ビリケンが居ないので教育係としてやる気満々だった
「そっそうですけど……なんか納得いかない……」
2人がそんな言い合いしてる内に中心が光始め……やはり少し濁った玉が現れる
中からの発光が強いのでよく見えないが人影が見えるような気がする
「ふぅ…まぁこの階層じゃ、やっぱり駄目っぽいですね?どうしますか?」
「ほっとけ、次に行くぞ」
当然の様にリキッドは無視して行く
壁に開いた地下へと続く扉に進みながらモヤシがコバに再び質問する
「あれ、放っておくとどうなるんですか?」
「見た事無いけど、扉が閉まると消えるらしい」
「そうなんですか…誰か開けちゃったりはしないんですねえ」
「他の誰かが来ても玉は割れないそうだ、多分階層主を倒した探索者だけの報酬なんじゃねえか?」
「なるほど…なんか上手く出来てますねえ」
(奴隷は触れても割ることも出来ない……なんでここまで差別的なんだ?)
2人の話を横で聞きながら、この作為的なダンジョンに違和感しか感じ無いキドだった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます