【序章】第八話:ユニークモンスター

【城門前】

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 多くの探索者とそれに従う奴隷達が王国からダンジョンへと向かって城門を通り過ぎていく中で、ビリケンとコバとナルミは城門の少し手前で主人の到着を待っていた、奴隷が勝手に城門の外に出ることは許されていない、

 普段は鐘が鳴る前に到着しているリキッドは、今日は珍しく遅れていて、堪え性のないコバが愚痴をこぼし始めた頃



「よー!待たせたなっ今日は絶好調だっ20階層を超えてみるかあ?」



「リキッドさんなら余裕ですよ!」

 調子の良いコバが態度を180度反転させ、手揉みしながら擦り寄るが経験豊富なビリケンは少し様子が違った



「……20階層から上は魔物の数も種類も増えますぜ?」


「……何だ?文句でもあるのか?そんな事お前に言われなくても知ってるんだよ!」


 それはほんの少しだった、人より経験が豊富で誰よりも付き合いの長いビリケンが、少しだけ注意喚起しただけの事だった


「いえ……文句なんてとんでもないです…ぐっう”ぅ」


 言い過ぎた事に気がつき態度を改めようとするが


……一歩遅かった、突き飛ばされ、リキッドの足がビリケンの腹にめり込んだ


 後ろに吹き飛ぶビリケンをナルミが助け起こそうとするが




…こっここまでしなくても

(いくら何でもやり過ぎだろっ!)



助けようととするナルミを突き飛ばすように押し返すビリケン


「なんだ…文句でもあるのか?」


それは、ナルミを庇う為のものだったが、リキッドはその態度にますますイライラし始めると、不味いと判断したビリケンが咄嗟に地面に頭をつけるように謝罪を始める


「すいませんでしたっ勘弁して下さいっ」


「リッリキッドさんっこれ以上は攻略に……」

コバがなるべく気に障らないように横から声をかけるが、一度火がついたリキッドは止まらなかった


「立てよ…お前らが雑魚で弱っちいから、20階層なんぞでウロチョロしなくちゃ何ねえんだろが?……数がなんだ?種類がなんなんだ?さっさと立ってもういっぺん言ってみろっ!」


 探索者の命令に逆らえないビリケンがフラフラと立ち上がり、近くにいたナルミもその場で立ち上がり黙って見守るしかできなくなる


「すっすいません…俺たちが悪かったです…」



 必死に謝罪を続けるビリケンにザッザッと歩近づくギットが腰の下で拳を作るとビリケンの顔面に容赦なく右ストレートを打ち込んだ


 普段はライフルで戦うリキッドだが、基本ステータスはパーティの中で唯一ナルミにもそれほど負けていない殴打は一撃でビリケンの顔面を腫れ上がらせ、そしてそれは何度も続けられた



(何だよ…コレは一体……あんなの…ちょっとした注意喚起だろ?コイツら…何でこんな事が出来るんだ?)



「ふぅ〜〜〜、どうだ?口答えするって事がどういう事か、分かったか?」


「・・・・・・・」


 ビリケンは何も答えられない、ピクピクしているだけだった


「………今日はもう使えねえな、コイツを家に連れて帰ってこい」


「……俺が」


「ナルミか…さっさと戻って来いよ、分かったな?」


「はい…」

 ビリケンの肩を抱いて奴隷街に戻っていく



【奴隷街】

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「これが……奴隷……」

 奴隷街に入りナルミがビリケンを背負い歩きながら、思わず気持ちを漏らす


「そうだ……これが奴隷だ……なっ何とかしたいだろ?……多分お前だけ何だ……それが出来るのは」


目もまともに開けられない程に顔を腫らしたびりけんが背中から呟いてくる


「俺だけ………アレを使えってのか?……」


「リキッドは……あんなんでも本当にマシな方だ……普通の奴でさえリリーみたいな態度を取りやがる……この紋章が無くならない限りずっと続くんだ」


「どうやってアイツを殺すんだ?お前がぶん殴られてる時、一歩も動けなかった、……何も出来なかったんだ!!」


思い出すだけでハラワタが煮えくり変えり、最後には吐き捨てるように声が大きくなる、ここが奴隷街だからできる事だが、それが余計に惨めで悔しい気持ちで一杯になって全くスッキリしない


「レアボスだ……出来るだけ奥の階でそいつに会えれば……」


「もしソレが出来たとして………ナルミの家族はどうなる?」


「かっ和穂はまた戦闘奴隷に戻るだけだ、身篭って無ければな、子供は他の家で大切に育てられる……お前だって、いつ迄も嘘を突き通すつもりは無いんだろ?遅かれ早かれなら、早い方が良いに決まってる…」


ビリケンが言うには珍しいほどに正論過ぎた、たった1日なのにキドにとっては居心地が良すぎた……あんな生活を続ければ、二度と手放せないだろうと、そう確信出来るほどだった


「…………分かった……………もう二度とあんなの見たくない」


「へへ………頼むぜ……」


 ガクっと力尽きて首をダラリとさせるビリケンに一瞬焦ったが、気絶していただけだった


 ビリケンを背負い家まで連れていくと奥さんが驚いたが事情を説明するとお礼を言われた


 ボコボコにされたビリケンを下ろして顔を改めて見ると、アチコチ腫れ上がっていて、こうなるまで止める事さえ出来なかった自分が悔しくて仕方なかったナルミは怒りを貯め込んだまま、城門へと戻ると


「遅いっアイツのせいで遅れてんだ、さっさとしろナルミっ!」


全く気にする様子も見せないリキッドに益々怒りが抑えられないままナルミはダンジョンへと進んでいく事になった



【ダンジョン】

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

1F……出現モンスター(スライムのみ)


 ビリケンを家に戻しリキッド達と合流した一行はダンジョンを進んでいた


 キドにとっては初めてのダンジョンだが、ナルミとなったキドは身体が沸騰するような怒りを鎮める為に、その能力を遺憾なく発揮していく



 ナルミ達の前に2体のドロドロのアメーバのようなスライムと丸いグミの様なスライムが現れるが…


 ミュ?っ!っ


 2体のスライムはナルミの気迫に戰慄すると同時にナルミのハルバードが引き裂き壁に叩きつけられる


「なっナルミ…弱いのは俺たちにも残してくれよ」

コバがビビリながら話してかけて来る


「………」

(身体を動かさないと…どうにかなりそうなんだっ)


「今日は人手が足りないんだ、その調子で頼むぜ?」


(お前のせいだろうが!…………そんな態度も今日迄だ……お前の身体は俺が貰う!)

殺気を激情に変えて突き進んで行くナルミだった



【1F 階層主】

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 階層主の居る広場に入る、広場は何処の階層も同じだが基本的に閉鎖されておらず

 広場から遠く逃げ出す事で階層主は追ってこなくなる


 その為、命の危険のある時は何を置いても逃げる事が優先される


 階層主は基本的にその階層の固定モンスターにエルダーを冠するモンスターが出現する


 1Fの階層主は、エルダースライム、その特徴は普通のスライムが全長50cmぐらいの大きさに対して、エルダースライムの場合は2mぐらいの大きさになり、強酸性の酸や体当たりで人を飲み込んで溺れさせようとするのが特徴……の筈だった


 1Fに現れた階層主は『ユニークエルダースライム』

全長は10mを超えていて、真っ白な丸い身体を持っていた


「おいおいおいおい…1Fでレアボスだと?随分ツイてるなぁ!!」

 ユニークの強さは普通のエルダーの約10倍、低階層、まして1Fのユニークなんてリキッドにとっては敵じゃない、喜ぶ理由はユニークを倒した後の奴隷召喚だ、ユニークを倒した場合はほぼ必ずスキル持ちが手に入る


「コバっお前は回避優先で距離を取れ!ナルミ!アイツの注意を引くんだ!」


 個別に指示が飛ぶ、コバはPTの戦力というより、敵の不意打ちを阻害する為に居る置き物だ、

ダンジョンを深く潜るほどその効果は絶大になるが、本人は割と弱いので前面には出させて貰えない


 常に前線で戦わされるのはナルミだった

元プロボクサーのナルミは敵と真っ向勝負、ヘビー級だったナルミだが身体向上によって基本ステータスを引き上げたナルミはモンスターの攻撃を紙一重でかわしてフルスイングのスキルを発動させる、カウンター気味で繰り出されるハルバートの横一線はやはり腕のスピードについてこれず


 限界までしなりながら必死にナルミの腕のスピードについていき、巨大なスライムの身体を大きく削り吹き飛ばした


 10mを超す白いスライムが自分の身体を大きく削られた事に怒りながら、削られた分だけ少し小さくなり、ナルミの方を向いていく、完全にターゲットを絞った様子を確認したリキッドがライフルをスライムに合わせて魔力を込めていくと銃口から光の粒子が漏れ出して巨大な光の玉が形成されていく


 以前に見た光の矢とは規模が違うそれはプラズマの様に光を帯電させながら大きくなり……


「………一撃だ」


 真白で巨大なスライムがナルミに向かって強酸性の酸を吐き出そうとした瞬間


 リキッドのライフルから放たれた巨大な光の玉が8m程に縮んだスライムの7割方を一瞬で消し去り核となる部分を失った白いスライムはただの液体となって崩れ落ちた



「……すっげぇぇ」

 コバが思わず呟く


 あれだけの強力な攻撃が何の発射音も出さずに文字通り光のような速さで敵に向かって飛んで行く、少なくとも離れて撃てればほぼ無敵だと言っていいが、ダンジョンの広場にそこまでの広さは無い、少し早く動かれれば狙い当てるのは難しい、その為にナルミの様な前衛が必要だった


 スライムの白い液体がどんどん透明になり、ダンジョンに吸収され尽くしたと同時に

次の階層への扉が開き、広場の中心に白い玉が現れる


「真っ白だ……これは間違いないですね?」

(どういう事だ?……………そういう事か)

 ナルミの記憶を確認するキド


 召喚した人間の価値はどうやら白い玉の輝きというか純度である程度わかるらしい

 燻んだような玉は大体スキルを持っていない

綺麗な白、濁りが無く輝きが強い程、スキルもより強力になっていく


(これが……奴隷召喚……)

 自身でソレを見るのは初めてのキドは白い玉に近づくリキッドを見ている


 リキッドが白い玉に触ると……卵の殻が破れるようなヒビが入ると共に、白い膜がドンドン消えていく……中から現れたのは、男なのか女なのか、よくわからなかった

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