第132話命令するな

 



『おいアキラ』

(言われんでも分かってる。あの金髪がとんでもなく強ぇってことぐらい)


 魔王アルスレイア。

 王宮の牢獄で会ったおっさん。

 キングのオッさん。


 対峙するだけで格上の存在だと認識してしまう奴等よりは驚異を感じられないが、ローザと同等か或いはそれ以上の実力はある。

 まぁ要するに、俺より強い事はハッキリしてるって事だな。


 一番隊隊長ビートって言ったか。

 見た目は金髪のチャラ系イケメンだが、纏う雰囲気は外見に反して武人を匂わせる。槍を構える姿が、堂に入っていた。


 一瞬でも気を抜けば首を取られる。

 集中しろ。

 神経を研ぎ澄ませろ。

 奴の一挙手一投足を見逃すな。


 ――重心がズレる。


 ――来る。


甲羅シェル

「――ッ!!」


 ――ガギッと、劈く音が鳴り響く。


 ビートの狙いは俺だった。

 瞬く間に距離を詰められ、心臓へと一突き。が、予め行動を予測していた俺は目の前に黒スライムの盾を具現化して受け止める。


「ハリセンボン」

「うおっ!?」


 すかさず反撃。甲羅から幾つもの棘を生やしてビートを強襲する。しかし紙一重で逃げられてしまった。


 だが今の攻防で情報は得られた。奴はローザと違ってスピード重視の戦士だ。


「何だそれ、気持ち悪ぃな」

「そうか?俺はカッコいいと思うぜ」

「どこがだっての。ただまぁ、更に面白くなりそうってのは分かったわ」


 軽口を交わしている間にも、互いに視線で牽制はしている。変幻自在に変化する魔王の力が未知数で、ビートはどう攻めたらいいのか迷っているのだろう。

 この機会を逃す手は無い。


「セス、行け!」

「私に命令するな!」


 背後で俺達の戦闘を観察していたセスを促すと、文句を言いながらもビートに向かって駆け出す。


 ――疾い。動きが軽やかで、背中に羽が生えてるみたいだ。


「ハァアア!!」

「遅えよ!」

長伸針グロウニードル

「ちっ!」


 セスとビートが二度斬り合う中、俺はセスの真後ろから右腕に長針を纏って突き刺す。針はグンと伸びてビートに強襲したが、これもギリギリで躱されてしまった。


 しかし今の一撃が隙を生み、セスの猛攻が牙を剥く。


「ハァァァアアアア!!」

「面倒臭ぇ――なッ!?」

「蟻地獄」


 部が悪いと感じて一度距離を取ろうとしたのだろう。だがそうはさせない。

 俺は足元から影を伸ばし、ビートの右足に絡みつかせた。どうせ力任せに引き千切られてしまうのだろうが、これで数秒の時間は稼げる。


 意表をつかれ集中力が落ちた。

 体勢も崩れている。

 ここだ、ここしかない。

 俺は両腕にナイフを纏い、セスと呼吸を合わせて斬り込む。


「今だ!!」

「だから命令するな!」

「ちぃぃぃぃ!!」


 腕力より数を重視し、両手にナイフを纏って斬撃の嵐を見舞わせる。それに合わせるようにセスも細剣による刺突を繰り出した。


「「ハァァァアアアア!!」」

「――何なんだってんだこいつ等!?」


 不思議だ。

 たった今出逢ったばかりで、一度すら戦ってる姿を見た事が無いのに。


 判る。

 セスの動きが、意図が、手に取るように判る。

 彼女が合わせてくれているのか、それとも俺が動きを合わせているのか。兎に角、俺達の呼吸は重なっていた。

 そこでふと思い出す。


(そういえば前にもこんな戦いをしたな)


 あれは40階層の階層主、アシュラと戦った時だったか。突然剣凪が「私に合わせろ!」とか無茶振りしてきたんだよな。


 けど、あの闘いがあったからこそ今セスと呼吸を合わせられる。一つ一つの積み重ねが俺を強くした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る