第50話こんな所で立ち止まってる訳にはいかないんだ
――ダンジョン28階層。
この階層ではガーゴイル、人面樹、ゴーレム、デビルアイが一度に5体まで出現する。
ガーゴイルとデビルアイの相性は、こちらが笑ってしまうほど悪かった。
ガーゴイルが無鉄砲に突っ込んできて、その背中をデビルアイのレーザーが撃ち抜いて同士討ちしていたからな。
人面樹の枝もレーザーで焼き飛ばされてたし……デビルアイは高威力だが他のモンスターとの連携は苦手そうだな。
その後何度かモンスター5体と遭遇して、問題なく倒し俺達は新階層に進んだ。
――ダンジョン29階層。
この階層では一度に出現するモンスターが5体で、新たにトロールというモンスターが追加される。
トロールは体色が緑色で、でっぷり太った巨漢のモンスターだ。舌をダランと口から出していて、醜悪な顔のゴブリンとは異なり少々マヌケな面をしている。
だが、膂力は今までのモンスターの中でも随一で、携えている木製バットから繰り出される打撃は凄まじい威力……らしい。
ドロップするアイテムは『トロールの舌』だ。これがまた焼いて食べると美味い……らしい。
「「ゲヘヘ」」
「ゴー」
「ィィ」
「クケケケ」
トロール2体とゴーレム1体、デビルアイ1体に人面樹1体と遭遇する。
28階層でもそうだったが、一度に5体を相手にするのは手が回りそうにもない。西園寺に一言伝えておくか。
「すまん西園寺、手を貸してくれ」
「勿論ですわ。貴方達、ゆきなさい」
「ブルッ!」
「クァ!」
了承した西園寺が配下のギガントホーンとレッドバードに命令を下す。
ウルフキングは
「「ゲヘヘ!!」」
ズシンズシンッと地を鳴らし、2体のトロールが接近してくる。その動きは図体に似合わず意外と機敏だ。
「ゲヘェ!!」
「蜘蛛糸」
木の棒による豪快なスイングを、黒糸を背後に射出して回避する。
力勝負では奴に軍配が上がるだろう。ならば真っ向から立ち向かう必要は無い。
機動力を生かして戦ってやる。
両腕にナイフを纏い、腰から黒糸を発射してトロールの腹に付着させる。
伸縮移動で一気に距離を詰めると、トロールの股下を潜り抜けながら内側の足首を斬り裂いた。
「ゲヘェ!?」
「クケケ!」
「ちっ……」
カクンッと膝が崩れ落ちて無防備なトロールにトドメを刺そうとした瞬間、人面樹の奇襲によって邪魔をされてしまった。
俺は軽く舌打ちしつつ、向かい来る枝を両腕のナイフで斬り落としていく。
「ブルルゥ!」
「ゲヘッ!」
「クァ!」
「ィィィ!」
西園寺の配下であるギガントホーンがトロールへ猛進。対するトロールは木の棒を真上から振り下ろした。
木の棒とギガントホーンの角が激突。拮抗――する事もなく、木の棒は容易くへし折れ、ギガントホーンの突進をモロに喰らったトロールは吹っ飛ばされた。
空中戦では、レッドバードを狙ってデビルアイがレーザーを放つ。だが軌道を読んでいたレッドバードは、体勢を半身にすることにより紙一重で躱した。
レッドバードはそのままデビルアイに接近し、口腔から火球を放つ。強化された火球は威力も速度も通常とは段違いで。
その火球を受けたデビルアイは悲鳴を上げながら塵に消えた。
西園寺のモンスターに先を越されちまったか。それにしても本当に強いな。自分よりも上級階層のモンスターの筈なのに、その差をモノともしない。
これが西園寺の【支配者】スキルの力か……。
俺も負けていられないな。
「蜘蛛糸、アロー」
手負いのトロールは一旦放置しておく。まず狙うは人面樹だ。
俺は長弓を纏い、黒糸の伸縮移動で人面樹の枝を回避しながら落ちている岩石を装填。黒スライムの力で引き絞ると、狙いを定めて撃ち放つ。
「喰らえ」
「ギィィィィヤ!!?」
空気を裂き、岩石は人面樹の
人面樹を屠った俺は、両腕にハンマーを纏いながらゴーレムへと駆け出した。
まず脚を潰そうと、低い体勢から膝目掛けてハンマーを振るう。ドゴンッと重い音を響かせ一撃で片足潰すと、バランスを失ったゴーレムは背後に倒れた。
「ゴ、ゴー……」
「ふっ!!」
上段からハンマーを振り下ろし、無抵抗なゴーレムの顔面を打ち砕いた。
残るは手負いのトロールか。
「ゲヘヘへへ!!」
「まだ動けたのか」
両足首をナイフで斬って動けなくしておいたのだが、トロールは普通に立ち上がって向かってきている。
やはりモンスターは人間と違ってタフだな。
「ナイフ、蜘蛛糸」
「ゲヘヘヒヒャャャ!!」
真上から振り下ろしてきた木の棒を黒糸で躱し、そのままトロールの背後に回る。右腕に纏ったナイフで、回転しながらトロールの首を刎ねた。
「……ふぅ」
戦闘を終え、短く息を吐いた俺はドロップアイテムを拾いアイテムポーチに仕舞っていく。
「お疲れ様ですわ」
「ああ、そっちもな」
戦ったのはモンスターだけど。
「このまま次の階層に向かうのですか?」
「勿論そのつもりだ」
「……正直申し上げますと、今の戦力で30層の階層主と戦っても勝てるか分かりませんわよ。いえ……十中八九負けるでしょう。わたくしを含めた勇人のパーティーでも苦戦したのですから」
「……」
そうかもしれない。
いや、優秀な西園寺が戦力を分析してそう言っているのだから、勝つ可能性は非常に低いのだろう。
だから彼女は、珍しく自分から提言しているのだ。
でも俺は――
「それでも行く。こんな所で立ち止まってる訳にはいかないんだ」
「……そうですか」
「西園寺はここで待ってていいぞ。最初から、付いてきて欲しいなんて一言も言ってねえからな。てか残れ、てか帰れ」
「お断りしますわ。大丈夫です、心配されなくても自分の身は自分で守りますから」
「そうかよ……そりゃ頼もしいこって。それじゃあ、気合い入れて行くか」
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