第39話一対四

 




 遠藤は本気だ。

 他の三人はどうだか知らないが、遠藤だけは本気で殺そうとしてきている。

 ならばその事実を認めて、俺も本気で相手をしなければならない。ただでさえ、四体一という絶望的な状況なのだから、甘い考えは一切合切捨てないと死ぬ。


『アキラ、オレ様が手を貸してやろうか?』

(いや、今回はいらない)


 ベルゼブブの申し出を断る。

 ベルゼブブがあの化物状態で戦うのならば、確かに俺が戦うよりも遥かに勝率は高くなるだろう。というか、こいつが負ける光景を想像出来ない。


 しかしモンスターならまだしも、相手は遠藤達だ。これは俺の問題であって、自分で解決しなくちゃならない。


『分かった。オレ様は助けねぇ』

(サンキュー)


 と格好付けたのはいいものの、さてどうするか。

 遠藤の他には、

 田中将生(野球部)

 川口拓也(サッカー部)

 野間雄大(剣道部)の三人。


 四人がどんなスキルなのかは知らないが、奴等も俺のスキルはゴミスキルとしか認知していない。付け込むならそこか。


「田中、川口、野間。お前等も俺を殺したいと思っているのか?」

「遠藤ほどじゃねえが、まぁ邪魔だとは思ってんな」

「女子にチヤホヤされてんのもムカつくし」

「特に佐倉とか」


 つついてみたが無駄に終わった。

 どんだけ嫌われてんだよ。


「つーことだ。諦めろ影山、お前は死ぬんだよ」

「死にたくねーから、こっちも反撃するぞ」

「いつまでもイキってんじゃねぇぞ……ッ、影山ぁぁァァアアアア!!」


 絶叫を迸らせる遠藤が投球動作を開始する。その右手には、野球ボールの大きさである火球が握られていた。


 ブン、ヒュ、ドンッ!


 奴が投げた火球は風を切り、俺の右足に着弾。だが、黒スライムで防御したので衝撃はあっても無傷だ。

 今の攻撃から予測すると、遠藤のスキルは【炎系】か。


「テメェ、何で防げてんだよ」


 放った攻撃が不発し、驚愕する遠藤。

 ゴミスキルの俺が防御できる訳ないと踏んでいたのだろう。他の三人も、似たような顔を晒していた。


 おいおい、そんな呑気にマヌケ面をしてていいのか?隙だらけだぞ。


「蜘蛛糸」

「ッ!?」


 黒糸を発射し、野間の胸に付着。グイーと引き寄せ、無防備な顔面に右拳を叩きつける。


「ぐひっ……」


 呻き声を漏らしながら吹っ飛ぶ野間。

 気絶させるつもりで殴ったが、辛うじて意識は残っている。こいつらも地球にいた頃より肉体が頑強になってるのか。


「おい影山、何しやがった。お前のスキルは何の役にも立たねぇゴミスキルの筈だったろーが!?」

「ゴミスキルじゃ無かっただけさ。よく考えてみろ遠藤、俺が二十この階層にいる意味を。たった一人でここまで来れる力があるって事だろーが」

「くっ……!」

「今ならまだ、何も無かったことに出来るぞ」

「うるせぇ!ナメた事言ってんじゃねーよ!!」


 怒声を放つ遠藤が右手を翳す。

 ゴォォオオ!!と掌から火焔が渦巻き、俺に向かって直進してくる。

 かなりの威力が込められていそうで、このまま防御するのは得策ではない。


 俺は腰から蜘蛛糸を側面に付着し、収縮移動で火焔を回避する。

 だが回避した瞬間、川口が至近距離にまで迫っていた。

 なるほど、遠藤の火焔は攻撃だけではなく目眩しの役割も担っていたのかッ。


「オラァ!!」

「くっ!!」


 顔面を狙ってきた蹴撃を、身体を後ろに倒すことで紙一重で躱す。爪先が前髪に触れ、一瞬ヒヤリとした。

 川口は一撃に止まらず、連撃を繰り出してくる。その8割は、脚による打撃。

 攻撃速度が速く躱し切れないので、仕方なく黒スライムを纏って防御に徹しているのだが、思った以上に衝撃が重い。


「川口、どけ!」

「はいよ!」

「グランドニードル!!」

「ッ!?」


 田中が合図を送った刹那、地面に両手をつく。彼の前方の地面が隆起し、下から次々と石の針が盛り上がった。


「蜘蛛糸ッ」

「火球!」


 石針の進路から逃げるように蜘蛛糸で回避すると、遠藤が放った火球が5、6発強襲してきた。

 空中で躱す手段はなく、黒スライムを纏って防ぐが、今までノビていた野間が間髪入れず肉薄してきた。


「さっきはよくもやりやがったな!!」

「ナイフ」


 野間が手にしていた剣による斬撃を、右腕に纏ったナイフで受け止める。

 やはり重い……野間の一撃も、予想を遥かに超えていた。

 俺は背中から蜘蛛糸を発射し、鍔迫り合いの状態から後方に大きく距離を取る。


「はぁ……はぁ……」

「どうした影山、もう息が上がってるじゃねーか」


 こいつら強いな……。

 相手をナメていたのは俺の方も同じだったかもしれない。

 そりゃそうか。

 俺だけでなく、遠藤達だってこの階層までモンスターと戦ってきて、身体もスキルも成長しているんだから。


 そんな奴が、敵に四人もいるんだ。

 しかも、連携も上手く非常に厄介。


 遠藤達が人間だからって、知らぬ間に心の中でブレーキをかけていたのかもしれない。

 それじゃ勝てねぇ。

 ブラックオークキングとの闘いの時みたく、死力を尽くさないといけない。


 集中しろ。精神を研ぎ澄ませ。頭を回転させろ。


「すぅーはぁー」


 一つ深呼吸し、気持ちを落ち着かせる。

 よし、やるか。

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