第37話面倒臭ぇな

 




「モグモグモグ」

「機嫌は直ったか?」

「はん、デザートでボクを釣ろうとするなんて甘いよ」


 それにしては口に運ぶ手が止まらないように見えるんだが……。


 荒ぶる佐倉を静める為、俺達は適当な喫茶店に入り甘味を食べていた。西園寺への愚痴を口にしながらも、彼女はドンドンおかわりしている。

 茶を啜って、そんな可愛げのある姿を眺めながら呆れていると、不意に声をかけてきた奴等がいた。


「よぉ影山、こんな所で会うなんて奇遇じゃねえか」

「遠藤……」


 先日、俺に因縁を吹っかけてきた遠藤だった。彼の後ろには、不満気な表情を隠し切れてない運動部の仲間が三人。

 ……ちっ、嫌なタイミングで面倒な奴等と出くわしちまった。


「西園寺の次は佐倉か。良いご身分じゃねえか」

「人をハーレム主人公みてぇに言うんじゃねえよ。お前等が勝手に邪推してるだけだろ」

「ちっ、お前って本当にムカつく野郎だな」


 それはお互い様だろ。

 遠藤は大きな舌打ちをすると、ガヤガヤと仲間を連れて喫茶店を出て行った。

 すると佐倉が心配している表情で問いかけてくる。


「物々しい雰囲気だったが、彼等と何かあったのかい?」

「うーん、ちょっとな……」


 俺は言葉を濁すしか出来なかった。





 ――市場を十分に満喫した俺達は、喫茶店を後にして王宮に戻ろうとしていた。

 しかしその帰り道で、揉め事が起きていた。何だなんだと覗いてみれば、言い争っているのは異世界人と遠藤達だった。


「てめぇ……もう一回言ってみやがれッ!」

「だからぁ、何で王様はテメェ等のようなひょろっちいガキ共にダンジョンを任せてんだって言ってんだよ」

「そんな事俺等が知るかよ!てめぇ等がカスで役立たずだから俺達が呼ばれたんだろーが!!」

「あ?」


 正に一触即発の空気。

 遠藤の怒声に、異世界人の雰囲気がガラリと一変する。

 異世界人は二人いて、どちらも武器や防具を装備した如何にも冒険者風の風貌である。


 おいおい遠藤よ、外で揉め事を起こすなって王宮側から口酸っぱく注意されたじゃねえか。一瞬で破ってんじゃねえっての。


「マズイな……止めた方がよくないか?」

「そうだよな、見過ごせねーよな」


 小声で話す佐倉に相槌を打つと、ベルゼブブが脳内で不思議そうに尋ねてくる。


『奴等のケンカは奴等の問題だろ。何でアキラが関わるンだ』


 単に放っておけないってのもあるが、遠藤達のトバッチリが俺や他の生徒に向かっちまうと面倒だろ?


『そーいうもンか』

「影山……けど、いいのかい?」

「何が?」

「いや、ここで君が出ていけば、彼等との因縁がさらに深まってしまうのではないか……と」

「それこそ今更だろ」


 一言そう告げて、俺は遠藤達への元へと向かう。


「おい遠藤、何が理由かは知らないけど王宮から外で揉め事を起こすなって言われてるだろ」

「あっ?んだよ、またお前かよ。一々口出しやがって、正義面の偽善者野郎がッ」

「佐倉の前だからって格好つけてんじゃねーよタコ」

「先に喧嘩を吹っかけてきたのはあいつ等なんだよ!!」


 遠藤を皮切りに、運動部の連中が次々と身に覚えのない毒を吐いてくる。

 偽善者かどうかは知らんが、いつ俺が正義面をしたんだ。

 まぁいい、熱くなっているこいつ等に何を言っても今は聞く耳持たないだろう。話しをするならこっちか。


「何が気に入らないのか分からないけど、これで勘弁してくれないか」


 そう言って、俺は手持ちの金を冒険者風の男に手渡す。男はニヤリと金を見て下衆な笑みを浮かべると、


「おっ、こっちの兄ちゃんは話しが分かるじゃねえか」

「へっへ、また頼むぜ」


 踵を返して去っていく彼等。

 一先ず荒事を収めて安堵の息を吐いていると、ガッ!と突然胸ぐら掴まれる。

 鼻先には、憤怒の形相をした遠藤の顔があった。


「何勝手なことしてんだテメェ!!調子に乗るのもいい加減にしろよッ!!」

「俺がお前等の為だけにしたと思うか?お前等が約束を破って揉め事を起こしたら、俺や他の連中に迷惑を被るじゃねえか。逆に聞くけどよ、お前は一時の感情で他の生徒に迷惑をかけてもいいってのかよ」

「……くっ!」


 簡単に言い負かされた遠藤は、悔しそうに歯を食いしばる。突き飛ばすように俺の胸倉を離すと、殺意が芽生えた瞳で睨みつけてきた。


「俺はテメェを認めねぇ」


 最後にそう告げて、遠藤は背中を向ける。後に続くように、運動部の奴等もこの場を離れて行った。


「大丈夫かい?」

「……ああ」


 心配そうな表情をした佐倉の問いかけに短い言葉で返す。

 だが……遠藤のあの目。


(面倒臭せぇな)


 厄介なことになるなと、俺は嫌な予感を感じたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る