第21話覚悟
「ブヒ!ブヒャブヒ、ブヒィィィイイイ!!」
「キレたか」
激昂するブラックオークキング。
目が血走り、怒り狂ったように喚いている。玩具扱いしていた俺にしてやられたのが相当頭にキたみたいだ。
激怒している所為なのか、痛がる様子が見られない。痛覚が消し飛んでいるのだろう。
ブラックオークキングは血走った眼光で俺を見るや否や、斧を振りかぶり全力で投げ飛ばしてきた。
「は?」
意表を突かれてしまったが、慌てることはない。凄まじい勢いで飛来してくるが、俺の蜘蛛糸の方が早い。
蜘蛛糸を発射し、余裕で斧を回避する。
俺の鼻先には、ブラックオークキングが大きな拳を握り締めていた。
「は?」
「ブゴォォオオオオオオオオオオオオッ!!」
駄目だ、今からじゃ間に合わない。俺は咄嗟に黒スライムで全身を覆う。少しでも被害を軽減させるためだ。
拳を叩きつけられる。途轍もなく激しい衝撃と共に吹き飛ばされ、壁に衝突した。
「おぇ……がはッ」
「影山ッ!!」
「影山君ッ!!」
磔にされたように壁にめり込んでいる俺は、佐倉達に大丈夫だと返事をしようとしたら口から鮮血が溢れる。
多分、内臓のどれかをやられた。いや、これは骨も何本かイってる。身体に走る痛みが尋常じゃない。全然力が入らねえ。
「ブヒャァァァァ!!」
「クッソ……」
ドスドスと地面を踏み荒らしながら黒豚が迫ってきて、再び豪腕を振るって来る。
痛みで身体を満足に動かせない俺は、蜘蛛糸で緊急回避を図った。
ドシャアンッ!!……ブラックオークキングが殴った壁が、粉々に砕け散る。
危なかった……あの場所にいたままだったらぺしゃんこに押し潰されていた。
だが、まだ安心できる状況じゃない。肉体が満足に動けない状態ではまともに戦えねえ。
クソッたれと胸中で悪態を吐く。犯した失態の大きさはデカい。
まともに喰らったらこうなる事は目に見えていた。だから気をつけていたのにも関わらず迂闊にも一撃を貰ってしまった。
絶対に貰ってはならない一撃だったのに。
ちくしょう……怒りでパワーアップとか卑怯だろ。
「ブヒャァァァァ!!」
「はぁ……はぁ……ぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
雄叫びを上げて己を鼓舞し、ガタガタな身体に動けと命令する。
痛み?そんなこと気にしている間にあの世行きだ。気合いで無視してやる。
産まれたての子鹿のように弱々しく立ち上がると、右腕にナイフを纏った。
猛進してくるブラックオークキングを迎え撃とうと構えていたら、奴の手には知らぬ間に斧が握られていた。
おまっ、いつ拾ってたんだよ……。
「ブゴォォオ!!」
「蜘蛛糸ッ!!」
胸部から黒糸を放ち、ブラックオークキングの額に付着させる。斧による袈裟斬りを収縮移動で回避しながら接近。
うなじは駄目だった。ならば目ん玉からぶっ刺してそのまま脳天を貫いてやる。
「ぉぉぉぉおおおおおおおお!!」
雄叫びを上げ、全身全霊の一打を叩き込む。俺のナイフはブラックオークキングの目を捉え、
「ブヒャァァ!」
(こいつ、読んでやがった!!?)
――られなかった。
俺が顔を狙うのを予測していたのか、ブラックオークキングは口を大きく開けてナイフごと俺の右腕を喰う。
「ぐぁ……ッ!!」
「ブヒィ!!」
奴は骨を噛み砕きながら頭を振り、俺を吹っ飛ばす。右肘から先を持ってかれた俺は、無様に地面を転がった。
あっ……ぐっ……痛ぇ。マジで痛え。
あの豚公、見せつけるかのように右腕をむしゃむしゃと咀嚼してやがるッ。
怒りが湧くが、それよりこの血をどうにかしないと死んじまう。
(いや……もう手遅れか)
血をどうにかした所で、俺の身体はもう完璧に力尽きた。反撃はおろか立ち上がる事すら不可能。このままブラックオークキングにトドメを刺されるか喰われるかで終わりだ。
(いや何諦めてんだ俺……このままじゃ佐倉も委員長達も皆殺しだぞッ)
それは嫌だ。
最悪俺は死んだっていい。だが彼女達があの豚野郎なんかに喰い殺されるのだけは許せない。あってはならない。
踏ん張れ影山 晃、ここで死んだら死んでからも後悔し続けるぞ。それでいいのか。
地面を這い蹲る俺は、残った左手に力を入れ、歯を食い縛りながら身体を起こそうとする。全身バッキバキに痛えのに、何でか立ち上がれた。
「ぜぇ……はぁ……ぁあ……」
やべぇ、呼吸するだけで疲れるというか凄く身体が痛い。
この死に体の状態でどう立ち向かえばいいのか思考を凝らしていると、久しぶりに頭の中にベルゼブブの声が聞こえてきた。
『よぉアキラ、随分粘ったじゃねえか』
んだよ突然……今まで黙ってた癖によ。いつ助言してくれるんだろって待ってたんだぜこっちは。
『悪い悪い、お前の覚悟を見定めていたのさ』
覚悟だ?
『オレ様の忠告を聞かず、無茶にも格上に挑んだんだ。簡単に死ぬようなら、オレ様の宿主に相応しくないと判断し見殺しにしていた』
ははっ、すまんな……アホな宿主で。どのみち俺はもう死ぬから、今度はもっとマシな宿主を見つけてくれ。
『それは違うぜ、アキラ。お前はオレ様に十分な覚悟を見せた。格上相手に、あと一歩の所まで追い詰めた。これでも驚いてるんだぜ、まさかお前がここまでやれるとは思ってなかったからな』
そりゃどーも。
『お前はオレ様の宿主に相応しい。だから今回は特別サービスで助けてやる、感謝しろよ』
おう、ありがとよ。
『眠ってろ。オレ様があのクソ豚を喰い殺しておいてやるから』
ああ、後は任せた。
ベルゼブブの言葉を最後に、俺の意識は途切れた。
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