第2話ゴミスキル




 修学旅行の帰り、俺がいる2年E組と特進コースの生徒がいる2年A組を乗せた飛行機が、原因不明の墜落事故に遭った。

 そして死んだ。

 死ぬ間際の事は朧気だが覚えている。クラスメイトの阿鼻叫喚を聞きながら絶望し、たった一人の家族である母さんにごめんと心の中で謝っていたと思う。


 では死んだ筈の俺が何故生きているのか。

 決して奇跡が起きて助かった訳ではない。確実に死んだ。

 けど生き返った。ちょっと違うか。

 アウローラ王国という聞いた事も無い国によって、異世界に転生させられたからだ。しかも俺だけではなく、2年E組とA組の全員が。


 残念ながら転生されたのは生徒だけ。教師や飛行機の操縦員、スチュワーデスといった大人達は転生されなかった。

 なんでも、アウローラ王国は若く、それでいて発達途上の歳の人間を大勢欲していたそうだ。所謂成長期の……まさに俺のような若者。

 さらに言えば、肉体が滅んだ魂だけを。理由は、召喚よりも魂だけを呼んで転生させる方がコストが良いからだそうだ。転生させた魂の肉体は簡単に再生出来るらしい。


 おあつらえ向きに、一斉に死んだ生徒達が目を付けられ転生させられたという訳だ。ここまで状況が揃うと、墜落事故はお前等の仕業だろうと勘繰ってしまうが、異世界に干渉するのは難しいからそれは無いそうだ。


 俺達が生き返った理由は理解した。じゃあ何故異世界の若者をワザワザ転生しなければならないのか。


 それは、つい最近王国内に現れたダンジョンを攻略して欲しいからだった。

 んなもん自国の人間でやれよ突っ込みたくなるが、彼等の言い分はこうだ。

 アウローラ王国は近隣に魔人がいる国と、帝国っつーデカい軍事国家との戦争中なんだそうだ。それに戦力の人員を割いており、突然現れたダンジョンに対処しきれない。

 だから転生した俺達でダンジョンを攻略して消し去ってくれと。


 いやいや、どう考えても無理でしょ。

 ダンジョンには恐ろしい化物が跋扈している。そんな魔の巣窟に入って、喧嘩もろくにした事がない平和的日本人が生きていける訳がない。


 誰もがそう思った。

 2年A組のイケメンが、勇気を振り絞って王様に直訴した。すると王様はこう言いやがった。


 ――主達は転生した時、神から強大なスキルを授かった、と。

 何を馬鹿なことを……と内心で笑ったが、それは本当だった。


 ある生徒は【魔法使い】

 ある生徒は【魔物使い】

 ある生徒は【賢者】

 ある生徒は【聖女】

 そしてある生徒は【勇者】


 それ等のスキルはどれも強大で、現在王国にいる兵士に匹敵……いやそれ以上の能力だった。

 いわゆるチートだな。

 勿論鍛えなければ強くはなれないが、成長期の若者は少し訓練しただけですぐに強くなれる。しかもダンジョンモンスターを殺せば、もっと早く強くなれた。だから王国は若者の魂を欲したのだ。即戦力を得る為に。


 転生させられたときは悲観的だったが、スキルの存在を知ると生徒達は盛り上がった。

 そりゃそうだ。死んだと思ったら、異世界で俺ツエーが出来るようになったんだからな。



 俺達は王様に手厚く歓迎された後、1ヶ月の間王宮内での衣食住を保証してくれた。

 その間に準備を整え、ダンジョン攻略を目指して欲しいと。1ヶ月経っても、王宮内の住だけは保証してくれる高待遇。


 生徒達は早速ゆる~い訓練に励み、サクッと強くなった所でチームを組んでダンジョンに挑んだ。

 チームは三人一組でもいいし六人だろうが十人だっていい。好きな友達と組んだっていい。個人の自由だ。でも大体は四、五人で一チームを組んでいた。


 ダンジョン攻略はサクサク進んでいる。

 強大な力を手に入れ、ゲームのようなカッコいい技を使ってモンスターを倒す。簡単な作業だった。


 転生してから1ヶ月ちょっと。

 既にA組の奴等が地下二十層以上到達している。王様によるとこのダンジョンの最下層は五十層くらいなので、もう半分を攻略したことになる。

 マジチートだ。きっと、誰も死の危険など感じたことなんて無いのだろう。


 俺以外は。


 俺?

 俺はぼっちだ。ぼっちで地下一層を攻略している。

 決してソロかっけぇ!孤高の狼に憧れた!とか、自分から好んでぼっちになってる訳じゃないんだ。


 ぼっちの原因は俺のスキルにある。

 俺のスキルは【共存】と言って、訳も分からず、使い方も分からない外れスキルだった。そもそも王様を含め誰も見たことも聞いたことも無いらしい。

 おいおいそりゃねーだろと必死に相談したが、死なないように頑張ってくれとしか言われなかった。凄い哀れんだような、可哀想な眼差しだったことは覚えてる。


 使い方が分からなければ育たない。育たなければ弱いまま。弱い奴はお荷物になるのでチームに入れられない。

 ましてや、俺は転生する前でもクラスでぼっちだった。クラスカースト上位の女子達、さらに不良グループととある理由で軽く揉めたからだ。

 だからぼっちの俺を助けようとするとそいつ等から睨まれるので、他は静観するしかない。


 2年E組 影山かげやま あきらは、ぼっちのまま。

【共存】というクソったれなゴミスキルを背負ってダンジョンを攻略しなければならなかった。

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