楽園のトリガーポイント

砂塔 琉埜(さとう るの)

第1話

 どこからか流れてくる心地よい音楽が耳をくすぐる。

 なぜかまぶたが重くて開かない。でもこれが心地よい。

 ラベンダーの芳香が嗅覚に優しく語りかける。


 あれ?ここどこだっけ?

 海の底からゆっくり上がってきたような感覚とともに意識がはっきりしてきた。

 ああ。そうか。休憩中に寝てしまっていたのか。


「お疲れさま。アデリー君」

 足元から聞き慣れた声が聞こえた。

「疲れたときはここ……っと」

 と声がした瞬間、アデリーの左足裏に電気が走った。

「ぅおあぁぁぁ!!」今までの人生で出したことのない声が出て飛び起きた。

 目の上から、役目を果たして冷めた蒸しタオルが落ち、急に視界が開けた。

 足元には笑顔の男が、アデリーの左足をガッチリつかみ、右手の第二関節を曲げて足の中心辺りにグッと押しこんでいる。

「カイザ……さん?いったぁぁいです!!」

 アデリーは再び来た激痛にもんどりうちながら訴えた。

 アデリーに激痛を与えている男、サロンのオーナー兼セラピストであるカイザは足裏への刺激をやめない。

「アデリー、いつも僕の世話や店の事で、色々疲れてるだろう。今日は予約も落ち着いたから、ゆっくりしてよ。疲労にはリフレクソロジーが一番だからね」

 耳から癒しボイスのシャワー。足裏から刺激の滝。もう脳内ジェットコースター状態だ。

「いっ、今まで何回も練習台やってきましたけど、なんだか今日は特別痛いです」

 涙目をこすりながら、アデリーがつぶやく。

「今までは西洋式リフレクソロジーの練習台をやってもらったけど、東洋式は初めてだからねぇ。ああ、腎臓の反射ゾーンはほぐれたからこの後は尿管、膀胱へと流して……」

 なるほど、今までとは違うのか。こんなダイレクトに来る施術があるのか、とアデリーの感心もそのまま施術は続く。

 足の中心から、土踏まずの方へ。このラインが、老廃物の排出を促すんだよ、と説明を聞きながら、アデリーはじわじわとくる痛みに耐える。

「さて。頭も疲れているだろうから、こっちもね」

 白を基調とした明るい店内にカイザの声が響きわたる。

 カイザの右手が、アデリーの土踏まずから足指に移動した。今度は親指の関節を足親指の腹にあてがい反対側を人差し指でロックし、アデリーに微笑みを向け、「頭の疲れはこ、こ、ね」と楽しそうに指に力をいれた。

「ふぉうお!!」

 アデリーは再びのけぞり、今までに経験のない刺激が、脳内を駆け巡った。






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