助けるふり
窓の外を見ると夕日が沈んでいくのが見える。煙草に火をつけ、ゆっくりと味わいながら、僕はそろそろだなと呟く。タバコを丁度二本吸い終えたタイミングで、隣室から泣き叫ぶ声が聞こえる。
僕は隣室へ向かい、ドアの前でタバコに火をつけ部屋へ入る。中に入ると彼女がいつものように暴れて泣き喚き震えている。
彼女は僕に姿を見て、「タバコの火は嫌だ押し付けないで」「お父さん辞めて」などと叫んでいる。
「ごめんねタバコ嫌いだったの忘れていたよ。消すね」
僕はスウェットに入れていた携帯灰皿を取り出し、火を揉み消す。僕がゆっくりと両手を広げると彼女が大きく身体を震わせる。「殴らないで」と小さく震え声で呟く。
「大丈夫ぼくは君のお父さんじゃない。ぼくは君の彼氏だから。大丈夫。安心して。何で泣いているの?」
そう言いながら彼女の身体に毛布を掛ける。彼女は泣きながら、過去父にされた暴行をポツリポツリと呟く。そのたびに僕は「うん。辛かったね。僕がいるから大丈夫だよ。他には?」と問いかけていく。僕にとって毎日の恒例作業。
夕方になると父が帰ってきて毎日暴行を振るわれていた彼女。彼女を助けるフリをして毎日傷を抉る。毎日記憶を脳内で再現させる。広がっていく傷を僕は毎日癒すフリをする。
いつになれば彼女は僕に完全に依存するんだろう。黒い感情に身が震える。気がつけば外は夜になっていた。
ふと立ち上がり、電気を消すと彼女はまた泣き叫ぶ。
「どうしたの? 何か思い出した? 僕がいるから大丈夫だよ? ゆっくりでいいから話してごらん?」
そう言いながら震える彼女を抱きしめ、僕は見えないように舌を出した。
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