第11話『放課後』
漆黒のブリュンヒルデ・011
『放課後』
小栗……声をかけようとしてやめた。
今朝の事件が、まだ初々しい。
小栗も身構えるだろうし、たぶん、わたしも意見してしまう。
顔の見える生徒会はけっこうだけれども、先生と一緒の立ち番は、生徒たちには生徒会が学校の手先になった印象で、いずれは化け物犬でなくても反発されるだろう。
そう意見しても小栗は聞かないだろう。
それに、彼女は資料を抱え、生徒会室の前を素通りして、階段教室の方に向かっている。委員会だ。
ということは佳子も委員会。一人で帰ることにする。
昇降口で下足に履き替え校門に向かう。
三年生ということになっているが、わたしとしては初めての学校だ、ついキョロキョロしてしまう。
校内の施設は、すでにインストール済み。興味があるのは人間だ。
そろいの制服を着ているという点では兵士と変わらない。
兵士には一人一人個性がある。その個性を見極めることが姫騎士としては重要で、食事は兵たちといっしょに食べていた。
指揮官としての任務というよりは楽しみだったというのは、学食の所でも言ったな。
ほんのチラ見なんだけど、目の合った生徒は会釈してくれる。親しみと言うよりは敬遠……父、オーディンはどんな設定をしてくれたんだ(^_^;)
なむさん、不用意に人を脅してはいけないので、生徒は視野の片隅に入れるだけにする。
角を曲がって宮坂駅が見えてくる。
駅の脇にはデハが静態保存されている。昔走っていた車両で、一時は江ノ電の貸し出されていたが、再び戻されてきたものだ。他の静態保存車両と異なって、朝から夕方までは自由に出入りできる。
きのう、デハの中で居眠りしていて、寝返りを打って床に落ちて目が覚めた。
あれが始りだったんだ、昨日の事なのに懐かしい。
ひるでさん。
鳥居の方から声をかけられた。世田谷八幡の前にさしかかっていたのだ。
鳥居の真ん中から滲みだすように人が現れた。ホウキを持った女性だ。ジーパンに長袖のカットソー、神社の人だろうか?
「呼び止めてごめんなさいね」
「はあ」
「わたし、おきながたらしひめと言います。いちおう、ここの住人」
「では、神さま。おきなが……」
「ハハ、長い名前だからね」
「すみません、きちんと覚えます」
「ううん、おきながでいい」
「はい、なにか御用でしょうか?」
「うん、きょう、犬と猫が失礼したでしょ」
「ああ、二つ尾の?」
「お詫びとお礼」
「おきながさんがですか?」
「東京は、日本一の大都市だけど、いろいろある街なの。一筋縄ではいかないわ。でも、みんな歴史とか事情を抱えてるのよ。悪さを仕掛けてくる者は痛めつけなきゃならないだろうけど、お願い、命まではとらないでやってほしい」
「はい、わたしと、わたしの大事な人たちに危害が及ばない限り」
「ありがとう、あなたにチョッカイを出してくるのは……構って欲しいからと思っていただければ嬉しい。そして、なにか力になってあげられることがあったら、いつでも……落ち葉の盛りになってきたわね、もうひと頑張りしようか……」
ホウキの音をさせながらおきながさんは消えて行った。
鳥居から駅の方に目を移すと、踏切の向こうで猫田ねね子が手を振っている。
夕陽を正面から受けていると、意外に可愛い奴だ。
ヘクチ!
クシャミまで可愛い、ネコにしては大した化けっぷりだ。
おまえも、もう少し可愛くなれというナゾかな……だったら、無理な相談だぞ。
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