第8話『ひるでの朝』
漆黒のブリュンヒルデ・008
『ひるでの朝』
行ってきまーす。
きちんとリビングのドアを開けて、NHKのニュースを見ている祖父母に声をかける。
家族に限らず、人間関係の基本は挨拶だ。ひるではキチンとしている。
「「行ってらっしゃい」」
祖母は笑顔を向けて、祖父は新聞に目を落としたままの横顔で返事してくれる。小学校から変わっていない(設定の)武笠家の習慣。
「よし」
玄関の鏡で身だしなみチェック。小さな声だけど、リビングには聞こえている。こういう変わらない習慣が人の生活には大事なんだ。
カランコロン
カウベルの音をさせ、七つの枕木を踏んで門を出る。
「「おはようございます」」
お向かいのおばさんと挨拶を交わす。
門脇さん。
高校に進んでからはあまり顔を見かけなくなった息子の啓介が中学まで同級だった。二階の窓からチラ見していることは分かってる。たまに目が合った時は口の形だけで「バカ」とか「ネボスケ」とか言ってやる。これもコミニケーション。
道を突きあたると豪徳寺の塀。
生徒会をやっていたころは右に曲がって最短コース。今は左に折れて下校の時と同じ道。
塀の上を白猫が歩いてる。
『おまえだろ、わたしを、この異世界に連れてきたのは』
白猫は、知らん顔して歩調を保っている。
『デハで目覚めるまでは記憶が飛んでるんだけど、踏切で出会ったし、雰囲気が、この異世界のものじゃないしな』
『さすがは、主神オーディンの娘にしてヴァルキリアの主将、堕天使の宿命を負いし漆黒の姫騎士』
『その名乗りは、ここではしない』
『にゃあ』
宙返りしたかと思うと、白猫は、わたしの横に並んだ。啓介に化けている。
「ちょっと、啓介はまだベッドの中だぞ」
「アベックの方が面白いと思ったんだが」
「ダメだ」
「それにゃあ……」
再び宙返り、今度は同じ高校の女子生徒。
「こんな子は知らないぞ」
「適当に化けたにゃ、この姿で話しかけるから。よろしくにゃ」
「なんでネコ訛?」
「かわいいからにゃ(^▽^)/」
「あんまり、近寄るな」
「つれないのにゃ、先輩」
「おい、下級生か? だとしたら、リボンの色が違う」
「あ、そうだったにゃ」
リボンが一年の学年色のエンジに変わる。
「踏切に着くまでには消えてくれ、あそこからは生徒が増える。制服を着ていても不審に思われる」
「つれないのにゃ」
「おちょくるために変身したんじゃないだろ」
「そうそう、用件なのニャ」
「早く言え」
「ときどき妖(あやかし)とかが現れるのニャ。適当に相手してやって欲しいニャ」
「シメればいいんだろ」
「臨機応変なのニャ」
「気分次第だな」
「反抗的なのニャ」
「そろそろ踏切だぞ」
「分かってるニャ、もひとつニャ」
「さっさと消えろ」
「このアバターの名前つけて欲しいニャ」
「……猫田ねね子」
「マンマにゃあヽ(`Д´)ノプンプン!」
張り倒してやろうかと思ったが、踏切が見えてくると消えてしまった。
異世界生活の二日目が始まった。
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