電子マネー



私は、会社員だ。




色々な営業先を回る私は付き合いで、電子マネーを買わされる事がある。






始めの内は、嫌々買わされ、嫌々チャージしていたが、


ポイントが貯まり、そのポイントを使うときに、何かしらの達成感を覚えた。






一度覚えてしまえば、また、ポイントを貯めたくなるもので。






今、私が持っている電子マネーは、全種類を網羅していると思う。






まぁー事の発端は、営業先から社に戻った時に、女子社員に。






「今日こんなカード手に入れたよー。」






と、見せびらかし、自慢気にその電子マネーの説明をするのだ。






つまり、女子社員の気を引く為に、たとえ、もう手に入れている電子マネーでも、柄が違えば買ってしまったりする。






妻には、同じの買って何考えているの?


と怒られている。




「仕方ないじゃないか、


営業の付き合いで買わされるんだよ。」






と誤魔化すのだが。





薄々妻も勘づいてるかもしれない、この人は女子社員の気を引く為に買っているんだわ、と。








まぁー、何て言われても営業先から買わされてるのは、本当なのだから仕方ないで通るはずだ。






私が会社から帰宅し、最寄り駅を下り、家までの道を歩いていると声を掛けられた。






「どうも、こんばんは、電子マネーはいかがですか?」






え?こんな道端で、電子マネーを売っている何て…怪しい。






その女性は、占い師の様な格好で椅子に座り、目の前に机が置かれていた。






「あ、私ですか?」






「はい、貴方です。」




女性はそう言うと、タロットカードの様な物を机に並べた。






手品師さながらに、カードをさばき一枚選ぶ様に言われた。






私は、訳も分からないまま人差し指を付きだした。




「はい、どうぞ…






貴方が選んだカードは。








にゃおん、です。」




にゃおんだって、そんな電子マネー聞いた事ないぞ!?




どの、会社から出てる、電子マネーだよ。






ここは、きっぱりと断ろうと私は言った。




「あのー、すいませんが電子マネーは間に合ってます。」






「あ、無料なので、どうぞ受け取って下さい。」






差し出された、電子マネーを受け取ってしまった。






私は、そのままとぼとぼと歩きだした。






良く見てみると、可愛い風の猫の絵柄だった、可愛い風と言ったのは、やはり何処か怪しかったので風を付けて言ってみた。






「あーあ、変な電子マネー買っちゃたな…」






あ、無料だったから、貰っちゃっただな…いや、そんな事はどうでも良いんだよ。






私は、自分自身で訳の分からない葛藤をし始めた。




暫くして私は、


物は試しだ使ってみよう。






近くのコンビニに入り、今夜のビールを買った。






「はい、百五十円になります。」




私は、先程のにゃおんを出して。


「これで。」








「はい、にゃおんですね。」






え、知ってるの!?






知らなかった私が駄目みたいだな、さっきの女性に悪い事したなーっと反省した。





「あ、お客さま…かざして下さい。」






おっと、私は、にゃおんをかざした。






「ごろ、にゃーご。」




機械から変な鳴き声が出た。








私は、無事に、にゃおんを使う事が出来た…


あれ?チャージしてないのに、お金入ってたのかな。






店員に聞いてみよう。


「残金確認してもいいですか?」






「あ、はい。


かざして下さい。」






私は、にゃおんをかざした。






「ごろ、にゃーご。」






「お客さま、残金は三百五十円です。」






私は、お礼を言って店を出た。






じゃあ…あの女性から五百円貰ったみたいなものか、何か申し訳ないな疑って。






家に着いた。




「ただいまー。」




「お帰りなさい、あなた。」




妻が、鞄と背広を預かってくれた。




チャリン。






「あれ、今小銭落ちなかった?」






「…落ちてないですよ。」




妻と私は、床を確認したが、確かに小銭は落ちていなかった。




気のせいかな?


チャリンって聞こえたんだけどな。






「あなた、疲れてるんじゃないですか、先にお風呂に入られたら…」






「うん、そうするよ。」




妻の言葉を遮り私は、風呂に向かった。






服を脱ぎ、湯船に入る。






「痛い…何だ?」






身体を良く見てみると、所々に傷があった。






「何だこりゃ?」






まるで、引っ掻き傷だな…寝苦しくて自分で掻いたのかな?




私は、あまり気にせず、身体を洗い風呂を出た。






妻ににゃおんの事は、


言わなかった、また買ったのと怒られるのが嫌だったから。






晩ごはんを食べながら、さっき買ったビールを飲む。




チャリン。




また、聞こえた…小銭の落ちる音ではなくて、鈴の音だと分かった。





「ねぇー、鈴の音しなかったー?」




私は、妻に訪ねた。




「さぁー、しなかったですよ、外じゃないんですか?」






そっか…


塀の上や屋根に猫が居れば、聞こえても不思議ではないか。




怪しい、猫の電子マネーを貰ったからか、変に意識して空耳が聞こえているのかも知れない。




明日女子社員に見せて、もし気に入ったらあげてしまっても構わないと考えた。






気味が悪いから、とか言ったら絶対受け取らないだろうな…






そもそも、あり得ない。




にゃおんを持つものが、猫に祟られる何て、非科学的だ。




私は、お化けを見たことないし、それに、疲れているだけかも知れない。






いや、全然怖くもない、少し、絵柄が気持ち悪いだけだ。






そんな事を考えていたら、時間があっという間に過ぎ、一時になっていた。






「もう、寝よう。」






妻と私の寝室は別になっていた、


仲が悪いわけではない、只帰りが遅くなる事が多いので。




私が気を使って、別にしたのだった。






今日は、何故か凄く疲れていて、


壁をガリガリ引っ掻く音や、部屋を何かが走り回る音を気にならずに眠れた。






にゃおんを手にしてから、私の回りには、見えない猫が居る、そんな、生活を送った。






流石に、寝てる時にお腹が重たくなるのは嫌で、寝返りをして、


どかしたりはしたが。






鈴の音や壁をガリガリ引っ掻く音には慣れてしまった。






猫を飼い始めたと思えば、可愛いものだと感じ始めていた。






ある日、コンビニによりビールを買った。






「あ、にゃおんで。






そう言えば、ポイント貯まってますか?」






「はい、確認します…




お客さま、ポイントはゼロですね。」





「えー!!




ゼロ…にゃおんはポイント貯まらないんですか?」






「いえ、にゃおんは猫なので、三日でポイントを忘れます。」






なんと。






やはり、無料で貰った物には、そう言う事が、あるんだなっと反省した。






数日後。






あの女性に出会った。






「あ、この前貰った電子マネー何ですが…






ポイント忘れちゃうんですよ、どうにかしてください。」






「そうですか…」






また、手品師さながらに、カードをさばき一枚選ぶ様に言われた。






「返品は出来ないのですが、交換なら可能です。」






少し、猫に愛着が湧いていて、未練があったが、今までポイントで得をしていたから。






電子マネーを持っている事が出来た訳で、


ポイントがないなら価値はないと、取り換えて貰う事にした。






また、奇妙な絵柄の電子マネーを貰った。






「にゃおんに入っていた、お金はそのカードに入れておきましたから。」





流石、占い師の格好をした、手品師だ、そんな事まで出来て仕舞うんだなーと感心した。






私は、早速近くのコンビニに寄って、今夜のビールを買った。






「はい、お客さまかざして下さい。」






私は、カードをかざした。






機械から、妙な鳴き声がした。






「ぱっおーん。」








と。


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