ホラー短編 (上鳥居 ネコミュー)

上鳥居 と ネコミュー

ハロウィン

ピピピ






圭介は鞄から携帯電話を取り出した。






「えっとーなになに…


あなた、


帰り卵と牛乳買ってきてだって。」






圭介の妻、美子からのお使いメールだった。






「美子のやつー…」






圭介は電話をかけた。




「あ、美子。」






「なーにあなた、今忙しいのよ。」




「忙しいってなんだよ、二時間かけてやっと駅に着いたのに。」






「忙しいの…


さっきまで唯の学校の友達が来て。


ハロウィンだーってお菓子をねだられていたのよ。」






「お菓子?


この町はハロウィンやるんだな。」






「そうね、来年は唯もちゃんと参加させなきゃね。」   


圭介は最近都会から約二時間離れた場所に、家を建てた、


念願のマイホームという物だ。






交通の便と土地の値段から、この場所を選んだが、


少し離れただけでも、その土地柄の風土、習慣があるようで、まだ馴染めないでいた。








「唯の友達が来たって事は、馴染めてるみたいだな。」






「そうね…


あ、卵と牛乳お願いね。」






「あ、それで電話したんだった、俺小遣い制なんだからその分払ってくれよ…


お昼抜きになっちゃうよ。」






「分かったわ、駅前のスーパーで買って来るんでしょ?


うふふ…この辺じゃあ、あのスーパーしか無いものね。」






「何、一人で納得しているんだよ。」






「じゃあレシートと交換ね、


あ、それと余計な物買ってもその分は払わないわよ。」






「分かってるよ…


じゃあ切るぞ。」






圭介は電話を切った。


夜七時過ぎ、町はすっかり闇に包まれていた。






圭介は真っ暗な空を見上げる、


こんな夜遅くお菓子集めか…この辺は治安が良いのかな?






来年は唯も参加させるのか、やっぱり不安だなー。




でも、ハロウィンなんて珍しいな…。






この土地は値段の安さからか、お菓子工場が多い、


その為かバレンタインの後や、ハロウィンの後お菓子が叩き売りされたりする。






圭介はスーパー太郎に着いた。






早く帰りたかった為、


卵と牛乳を買い物篭に入れ、足早にレジへ向かう。






「やっぱりこの時間は、お客は少ないな。」






田舎だからか夜七時なのに、お客はまばらだった、


レジの前にハロウィンの棚が作られていた。


圭介は少し立ち止まりハロウィンの棚を見ていた。




「どうですか?お客さん、残り二袋です…売り切れちゃいますよ。」




確かに後二袋、


お客たちはみんなお菓子を買っている様だ。




だからと言って少ないお小遣いをここで使うべきか…






っと悩んでいると。




「分かったお客さん…


内緒ですよ、半額にいたします。」






半額…その魅力的な言葉に圭介は負けてしまった。




最後の二袋を篭に入れた。






「いやー、ありがとうございます。


良い買い物しましたよ。」






ピッ、ピッ、と卵と牛乳のバーコードを読み取り、お菓子は手打ちで入力した。






圭介は気の良い店員に尋ねた。




「この辺はハロウィン流行っているんですか?」






「…え、あーまぁーこの辺は工場が近くて、安く出回るんですよ。」






「だから半額に…」






「ちょっと、言わない約束ですよ、




あっそうだ、はい、おまけでこれ、あげますから、


内緒ですからね。」






店員は、何かを圭介の胸ポケットに入れてくれた。





半額商品を買うことが出来、圭介は気分良くスーパーを後にした。




駅から約30分程でマイホームに着く、少し長い道のりだがバスは使わない、


田舎だからか待ってる間に歩いて着くからだ。








街灯はあまり明るくなく、月明かりのほうが良く見える程だ。






圭介はのんびり歩きながらお菓子代もなんとか払って貰えないかと考えていた。






「あ、唯に買ってきたと言えば、払って貰えるかな。」








ん…なんだ?






少し前を歩くサラリーマン風の男が子供に声を掛けられている。






良くは聞こえないが、きっとお菓子をねだっているのだろう。






あんなサラリーマンに声掛けてもお菓子なんて持ってないだろう…


確かハロウィンって家を回るんじゃなかったっけ?



しかし、不思議な事にサラリーマンは鞄からお菓子を取り出して渡していた。






「へー、道端で声掛けられても渡すんだ。」






すると、その子供が圭介の元にやって来る。






「トリック、オア、トリート。」






圭介は少し戸惑ったが、もしかしたら唯の学校の友達かもしれない、


いや小さな町だきっと顔ぐらいは知っているだろう。






唯の親父はお菓子くれなかった、なんて言われたら、唯が可哀想だ。






圭介はスーパーの袋から、お菓子を渡した。






「ありがとう。」


子供は手を振り立ち去った。






「ふぅー。」


深いため息をつきながら圭介は歩いた。








新しい土地、新しい環境、慣れるのにはだいぶ掛かりそうだっと圭介は感じていた。


それから圭介と、前を歩くサラリーマンは、


何人かの子供とすれ違い、お菓子をあげ続けた。






「まさか、こんなにも子供が出歩いているんなんて…


流石にお菓子が底を付きそうだ…


最後の一つは自分で食べるかな?」






スーパーで買ったお菓子の袋の中身は、


数種類のお菓子が小分けにされて包まれている物だった、


沢山の子供とすれ違った為残りは一つになっていた。








前を歩く、サラリーマンがまた子供に話掛けられている。






「トリック、オア、トリート。」




「ごめん…もうお菓子ないんだ。」




そう謝ると、サラリーマンは走って逃げ出した、急いで角を曲がりとっても凄い勢いで走り逃げる。






圭介はその光景を目にして。


「そっか…お菓子を渡せない時は、あーやって走って逃げるんだ…


随分疲れる風習だな。」










そして、別の道から来た、子供に最後のお菓子を渡した。





圭介のマイホームまで、もう少し。






「あのサラリーマンは、逃げ切れたのかな?


俺も次子供に会ったら走るのか。」






まあー良い運動になるか。




圭介は気軽に考えていた、


しばらく歩くと電信柱のそばに、さっきのサラリーマンが塀にもたれ座っていた。






街灯の明かりが照らすギリギリのところにサラリーマンが座っていて、よく見えない。








あらあら、急に走って疲れたのか?


俺も気を付けないとな、来年はちゃんと運動しておこう。






サラリーマンの顔は横を向き、逆光でよく見えない。






「あのー大丈夫ですか?


お互い大変ですね、お菓子がないと逃げなきゃ…







…あれ?」








圭介が話掛けながらサラリーマンに近づいて行くと。





サラリーマンの顔は所々えぐられていた、


何かに食いちぎられたかの様に。






「おい、嘘だろなんだこりゃ。」






なんだ、なんだって言うんだ…


ま、まさかお菓子をあげないと顔を喰われるのか?






いや、ありえない。






圭介は困惑していたが、携帯電話を取りだし警察に電話をした。






直ぐに、繋がったが警官の事件ですか、事故ですか?の問いに答えられなかった。






サラリーマンがその電話の最中にうめき声をあげたからだ。




「…う…は、早く…逃げろ…」






圭介は、わーと叫びながら、携帯電話を放り投げ走った。






最後の力を振り絞り伝えてくれた、サラリーマンの言葉を聞き逃さなかった。





力の限り走る、途中何度も転びそうになる。






「はぁー、はぁー。」






息はとっくに切れていた、自分が息をしているかも分からない。






次子供に出会ったら、


もう、圭介はお菓子を持っていなかった。






無我夢中…


というのだろうか?


圭介はサラリーマンが逃げろと言ってくれた時に、ちゃんと救急車を呼んでいたら、あのサラリーマンは助かったじゃないかと…


まだ、戻れば助けられるんじゃないかとか、


圭介は考える余裕はなかった。






次の…次の角を曲がれば家に着く。






どん。






角を曲がって直ぐに、何かとぶつかった、


全力で走っていたため、何かは吹き飛ぶ。






「うわー。」






子供だ。





普段の圭介なら、ゴメンと謝り手を差し出しただろう…




今の圭介は、ぶつかり倒れながらも、這いつくばって玄関に向かう。






子供を見たせいか、腰が抜けて起きる事が出来ない、転んだ子供を放り出し、腕の力だけで前に進む。






ガシッ。






子供に足を捕まれた。






「うわー許してくれ…


…もう…お菓子ないんだ…」




子供は少しづつ、ゆっくりと圭介の顔に近づく。








子供の顔が圭介の目の前に来る。




「そっか、お菓子ないんだね。」






恐怖で、声にならない、


キー、キー、としか聞こえない発音で、


助けて、と言った。








すると子供の顔が歪み始める。


仮装とは別の姿に変わろとしていた。






喰われる…喰われる…






唯…美子…ごめんな、父さん食べられちゃうよ。






子供が圭介のスーツをしっかりと掴み、かぶり付く準備をする。




もう、かじられる。

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