主人公になりたかった

綿麻きぬ

主人公になりたい

 結論として僕は主人公になどなれなかった。主人公を助ける友にもなれなかったし、最後の敵にもなれなかった。


 僕は何にもなれなかった。なりたい夢は何だったんだろうか?


 やっぱりあれはきっと、夢で幻でまやかしだったんだろう。


 他人から見たら安っぽくて、色褪せて見えるそんな夢だっただろう。でも、それを夢見た僕は間違ってない。


 夢を叶える、それは奇跡で軌跡のはずだった。



 僕はどこにでもいる男子だ。ただ、一つ夢があった。それは主人公になることだった。ゲームやアニメみたいに世界を救う主人公になりたい。そんな夢だった。


 僕はバカだ。アホだ。特技などない。でも主人公になりたかった。そして夢を書く欄に主人公と書いた。


 そしたら言われた。


「誰もが自分の人生の主人公だ。だから、その人生を彩る将来の学びたいものを書きなさい」


 当たり前だ。その答えは当たり前で、正しいものだ。だけど僕にとってはそれは違った。


 そしたら僕は現実からいなくなった。


 そう、剣と魔法と妖精と魔獣と、そんな世界にいたのだった。


 そこで僕は村人Aの息子として生まれた。ここから僕は主人公になるんだ、と思ったし感じた。


 だけどいつまで経っても主人公固有スキルは使えない。まだ希望はあると自分を騙しながら、もしかしたら主人公のパーティー仲間かもしれない。


 でも何年経とうとも主人公は現れない。いやいや、これから闇落ちして魔王になるのかもしれない。


 しかし、いくら待とうとも闇落ちはしない。


 その間に平凡で何もない人生を送っていった。


 そして、僕は死んだ。老衰だ。それは僕が期待したものではなくて、怯えていたものだった。


 目を開ける。そこはいつもと同じ現実。目の前にあるのは現実。


 主人公になれず、友にもなれず、敵にもなれず、何にもなれない自分がいる現実。


 気づいた、人は誰も主人公にはなれなくて、NPCにすらなれずに死んでいくって。


 それは僕にはまだ早い気づきで、知らなくてよい事実だった。


 次の人生では主人公になれると信じていたが、それは夢だった。そのために、今を生きていたけどもう生きれないや。


 足はフラフラと橋に向かっている。そして橋の欄干に足をかけて、もう次がないことを祈って蹴る。


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主人公になりたかった 綿麻きぬ @wataasa_kinu

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