魔女狩り狩りの魔女~W・H・H~

咲咲 咲

第1話 ボクは下っ端使い魔です。


 使い魔。それはボクのような魔女に使役される存在の事をさす言葉らしい。

 まあ、ボクも今初めて知ったんだけど。


「魔女の使い魔だ! 確実に処分しろ!」


 なにしろ、こうして追い回されるまで使い魔という言葉すら知らなかったからね!

 ああ、ご主人様。あなたはこうなることが分かっていてボクをこの街に食料を買いに行かせたのですか?

 だとしたらあんまりです。人前で変化してはいけないなんて教わってなかったのにー!!


「広場へ追い込んで囲め! 確実に魔女の居場所を吐かせるんだ!」


 やばいやばいやばい! これ絶対に捕まる! 本来の姿になれば空を飛んで逃げられるけど、そんなことしたら食料補給して来いっていうご主人様の命令に背くことになるし……あっ、ボクの寿命、どうあがいても残り短いようですねぇ……。

 そう諦めながらも、少しでも長生きするために逃げ続ける。けれど、先回りされたりして、追いかけてくる人たちの狙い通りに広場に出てしまった。


「あのー……えっと……み、皆さん、話し合いましょう? たしかに、ボク、フクロウですけど、こうやって人の言葉を話せるようになった以上、話し合うことは十分でき――」

「黙れ!」

「ひぃっ! ご、ごめんなさい! 殺さないでください! まだ死にたくないですぅ!」


 強面のおじさんに怒鳴られて、思わずその場にしゃがみ込んでしまう。


「お、お願いですから、命だけは……ボク、ご主人様の命令通りにご飯買いに来ただけで……悪いことなんて何もしてないですし、する気もないですし……」

「うるせぇ! てめえのような魔女の使い魔も、魔女も! 存在自体が悪なんだよ!」

「そ、そんなぁ! 偏見ですよそれって! 魔女って呼ばれてる人、たいていの場合薬草とかの知識が豊富で薬作れるから、その様子が怪しいってされてるだけなんですよ!? 薬があって助かった、って人が何人いると思ってるんですか!!」

「知るか! フクロウを人にしている時点で、てめえの主人は確実に悪魔と通じてるだろうが!」


 あうう……おっしゃる通りです! 何も言い返せません!

 ぐすっ、でも、ボクが何をしたというのだろう。フクロウとして生きている時からそうだ。なんか獲物が取れなかったり、横取りされたり。

 その末路がこれかぁ……魔女に捕まって、使い魔にさせられた挙句、こうして魔女狩りの人たちに捕まって……ロクな事なんて何一つありゃしなかったなぁ……。


「うえぇぇん……やだぁ……死ぬのやだよぉ……どうせ死ぬならせめておなか一杯ご飯食べてからにしたかったよぉ……」


 泣き出すボクを見て、ボクを囲む人たちが少し戸惑っているように見える。


「……本当にこいつ、魔女の使い魔なのか?」

「意気地なしにもほどがあるが……たしかに変化するところを見たんだ……」


 武器を持った人たちが困惑している……あれ、ひょっとして逃がしてもらえたりします?


「騒がしいですね。何事です?」

「こ、これは異端審問官様。いえ、この小娘、魔女の使い魔なのですが……」

「…………そうですか、魔女の、ねぇ」


 ……あっ、やっぱり駄目だ。この異端審問官さんの目つき、腐りきった魚とかを見るような嫌悪感に満ちてる。


「……どうです、一つ取引をしませんか? あなたの主人のところまで案内なさい。そうすれば、あなたは見逃してあげましょう」


 でも、その次の言葉はそんなものだった。

 ご主人様のところまで案内すればボクは助かる……?

 いや、でもご主人様にしてもらったことを思いだせ。えーっと……あれ、恩を感じるようなこと、何もしてもらっていないような……。


「……そうすれば、ボクは助けてもらえるんですね?」

「ええ、もちろん。必要とあれば主に誓ってもいいですよ」


 ご主人様を売る判断はすぐにできた。ボクに対してはとことん冷たくて、人権、もといフクロウ権なんてどこ吹く風の扱いをされてきたのだから、迷う必要なんてなかった。


「分かりました。ボクの主人……ワルプルギス・オナー・ハートフィールドのところまで、皆さんを案内します。でも、気を付けて。ボクみたいなのを作れるのだから、普通の人間ではないと思いますから」


 ボクの言葉に、そんなもの知っている、とばかりにうなずいた異端審問官さん。


「少し待っていなさい。魔女をあるべき姿にするには、準備が必要です。非常に苦しいとは思いますが、そのままでいてもらいますよ」


 ぞっとするほど冷たい目で異端審問官さんがそう言うと、しばらくしてたいまつを掲げた大勢の人々が集まってきた。


「さあ、行きましょう! 改心したものは、神もお許しになります。ですから……心変わりなど、起こしてはいけませんよ?」


 ずっと抑え込まれて、痛みの残る体を軽く動かした途端、そう声をかけられる。心配しなくても、そんなことしないのに……。


 そして、ボクは手枷をかけられ、先導を始めた。

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