42. ヒョウイ


 「夜叉丸の居場所はまだつかめないのか?」


 「はい、すみま――――」


 「――――謝罪なんて興味ないんだよ。早く見つけてほしいだけなんだ? 捕らえて目の前に持ってくるだけだよ?」


 「はい、早急に見つけたいと思います」


 「いいや。虎熊とらくま童子どうじ、君が行ってきてよ」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 この反応は、お迎えが来たのか。

 なら早く鬼を捕まえる必要があるな。



「こい、夜叉丸。双子座ジェミニ 極星の軌跡」



 その場で霊力を無闇矢鱈と集めては放出し集めては放出する。

 自分の霊力は大きいから嫌でも位置はバレるが。

 これでお迎えが来るのが先か、それとも鬼が来てくれるか。



「よし、鬼の気配」



 鬼の気配を辿って鬼に近づく。

 鬼の数は十体で、以外に少ない?



「さて、鬼さんこちら手の鳴る方へ」



 鬼の前に姿を現し、手を叩く。

 それを見た鬼たちは一体を除いて怒りに顔を赤くし(元々赤いのもいる)警戒もなく物凄い勢いで突っ込んでくる。



「馬鹿なの?」



 その言葉と同時に九体の鬼たちは影奈落の中に落ちていった。



「残ったのは一体のみ。でも充分。鬼さん、名前はある?」


「何が目的だ」


「鬼能をあげようと思ってね」


「鬼能ってなんだ?」


「あっ....」



 しまった、「鬼能」は自分が造った造語だから通じないよね。



「鬼能って言うのは鬼の異能の事」


「人間は全員そんな呼び方をするのか?」


「えっと....多分自分たちだけ、かな?」


「その鬼能をくれるのは本当なんだろうな」


「もちろんだよ。じゃあ名前を教えてくれるかな?」


「....――――」


「――――もちろん嘘はダメだよ」


「........蠹斗とと。それが名前だ」


「よし、交渉成立。[影遊かげあそび] 影はりつけ



 刃の一つが蠹斗の影を突き刺し、蠹斗は身動きがとれなくなる。



「[影遊び] 影転移」



 自分と蠹斗の影と、小屋の影を繋げてそこに一瞬で移動する。



「その技は猿琥えんこさまの」


「うん、倒して上手く奪えた」


「あなたはどうやら敵のようだ」


「そんな事を言って、動けないでしょ?」


「なっ」



 どうやら動けない事を気がついていなかったようだ。



「ながつき、連れて来たぞ」


「了解だ。これを付けて、忌助も」



 ながつきから呪札を貰い、自分に貼り付ける。



 ※



 ここは鬼の部屋、か。



『来たね、忌助』


「これはどういう?」


『これから任意で渡す事になるからだよ』


「なるほど」


『渡すのは[黒硬化]でいいんだよね?』


「うん、そうだけどできるの? そう簡単に」


『僕は夜叉丸。鬼の王になるもので赤い鬼の子。不可能はない』


「ならいいけど。お願い」



 夜叉丸は蠹斗に触れると少しだけ光輝く。

 そして夜叉丸から蠹斗に力が流れているのがわかる。

 自分も少し脱力感を覚えた所で終わりがきた。



『これで大丈夫だよ』



 その言葉で意識がまた遠退いていく。



 ※



 戻って来た。



「終わったようだな。後は朱音次第って事か」


「大丈夫っスよ、ながつきくん。始めてくださいっス」



 ながつきは朱音と蠹斗に呪札を貼り付けていく。



「頑張れ、朱音。鬼の名前は蠹斗、だからな」


「頑張るっスぅ....」



 朱音は倒れて眠りについてしまった。



「これで後は朱音が戻ってくるまでアレがこっちに来ないようにしないと」


「アレってなあに、忌助くん」


「ん? いや、お迎えが来ちゃったからそれをね」


「なら私に任せて。来て、時雨しぐれ治癒ちゆ雨露あまつゆ



 細い刀を一振り、それだけで何が起きたのだろう。



「一応確認しないとわからないけど、過度な回復で眠りについてるはず」


「了解、見てくるよ」



 影移動で反応のあった所に移動すると、とても幸せそうな顔をして寝ている十人小隊がいた。



 どうしよう、コイツら全員影奈落に落とそうかな。


『流石にそれはねぇ』


 だよねー、冗談だよ、冗談?


『いや、冗談じゃなかったよね?』 


 うっ....。



「さぁ急いで鈴たちの所に戻ろう」



 話を反らして急いで鈴たちの所に戻る。

 まだ朱音は起きてないだろうけど、もし、もしも暴走してしまったら大変だからな。



 ※



 戻って来た、けど朱音はまだ起きていなかった。

 大丈夫だよな....。



『忌助、心配な事がある』


 どうしたの、夜叉丸?


『朱音に、蠹斗にあげた鬼能が朱音の中に入って変化したっぽい』


 それ本当?

 て言うか夜叉丸はわかるのか?


『うん、何となくだけど鬼能が変化したのがわかったんだ』


 なるほど....。

 でも鬼を倒してこれるよね?


『まぁ、朱音は見てて気が強いから大丈夫だろうけど心配でね』



 まさか夜叉丸が朱音の事を心配するなんて思いもしなかった。



「アレ、私はっス」



 あっ、その「ス」は崩れないのね。



「大丈夫、朱音ちゃん」


「鈴ちゃん、大丈夫っス。戻ってきたって事は成功したって事っスよね」


「戻ってきたなら大丈夫だよ」



 どうやら無事に成功したらしい。



「朱音、鬼能の確認だ。[黒硬化]じゃなくなってるだろ?」


「忌助くんどうしてわかるんスか?」


「夜叉丸に聞いたから。こい、夜叉丸。能力試験だ」


「わかったっス。憑依 蠹斗とと



 朱音の見た目はあまり変わらなかった。

 と、言うのも、朱音の手にどす黒い気が漂っているだけだからだ。



「これが私の鬼能、[黒瘴気くろしょうき]っス」



 自分は地面に落ちてる木の枝を朱音に向けて投げつける。

 それを朱音は意図も容易く殴りつけ、木の枝は腐り果てた。



「結構思いっきり投げたのに反応されると少し凹むな」


「あっ、ごめんっス。でも鬼を取り入れてから体の調子がいいっス」


「そっか、それはよかったね」



 夜叉丸を戻して作戦会議を始めなくては。



「さて、これで全員鬼の子になった訳だが、今から学校に戻ろうと思う。玖郎さんとは話をしたいし、ね」


「後、忌助。鬼たちの情報も手に入れないとだぞ? 百鬼夜行が各地で起こってるから何時学校に来るかわからない」



 そうか、忘れちゃいけないけど今は百鬼夜行で鬼たちが活発になっているのか。



「それなら問題ないと思います」


「どういう事、油葉根さん」


「はい、学校にいたときに、なにやら強力な結界が張られていました」


「結界か。でもそんな物じゃ防げないと思うけどね」



 そう、ただの結界なら防げないだろう。



「鬼能かなにかを使わない限り」


「じゃあ、忌助。方針は学校に向かうでいいんだな?」


「うん、そうしようと思ってる」



 学校まではここから身体強化霊術を使って二時間くらい。

 でも戻る途中に百鬼夜行が行われた場所もあるから気をつけないと。



「よし、じゃあ油葉根さんも入れて守月の陣で進んでいこう」



 ひし形のかたちに自分が先頭、右に油葉根さん、左に朱音、後ろにながつきで鈴を守るような陣形になって進んでいく。


 もちろん警戒は怠らない。

 そして影移動を使っていく。

 影移動は気配を遮断できるし移動も辛くない。

 けっして面倒だからっていう理由じゃない。



「忌助くん、なんで影の中に入るんスか?」


「これは自分が狙われてるからだよ。けっして面倒だからとかそういうのはないよ」


「そうっスか」



 えっと、引かれてる?

 やっぱり影から出るべきかな?



「忌助さま、一応警戒はしてくださっているんですよね?」


「うん、警戒は最大限してるよ」



 ん?

 人の反応と鬼の反応がある。

 これは集落かな、鬼たちが来てしまったのか。



「目的地変更、十時の方向に集落があるからそこに向かう」



 自分の決定に特に文句も言わず答えてくれる。



 ※



 これは、酷すぎる。


 家や畑、家畜などは燃やされ嫌な空気が充満している。



「ぐっ‼」


「油葉根さん‼」



 油葉根さんは片膝をついて辛そうにしている。


 そうか、これが百鬼夜行の効果で人は生きられないのか。

 油葉根さんは懐から緑色の薬が入った注射器を出して太股ふとももに突き刺した。



「それは?」


「これは百鬼夜行を一時的に効かなくする薬です」



 そんなのがあるのか。



「油葉根さんは自分と来て。皆は鬼を討伐。そしたら人のいるところに行って、えっと――――」


「それと同じ性能の呪札を造る」


「ありがと、ながつきはそれで。鬼退治の始まりだ」


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