31. カチマケ


 「あーあ、暴走して殺されないでよね。計画までまだ日にちがあるんだから」


 夜闇の中で◯◯◯◯◯を見ている鬼がいた。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 今にも襲いかかりそうな、否、襲いかかっている暮夜と、被害者である鈴。



「危ない‼」



 身体強化霊術を使い暮夜と鈴の間に割って入る。


 暮夜の手は鬼になりかけていて、凶悪な爪がのびている。

 その爪が自分の腕に突き刺さる。



「じゃ、邪魔だ。どけ‼」



 痛みで情けない声が漏れそうになるが我慢する。


 暮夜は凶悪な爪で突き攻撃を仕掛けるが、欲望が大きすぎて動きが単調になりすぎてる。

 それをなんなく避けて、一発蹴り込む。

 そのおかげで暮夜と距離をとれた。

 


「なぜ鈴を襲おうとした? いくら一ノ瀬家でも許されないんじゃない?」


「黙れ‼ お前が邪魔を....グッ....俺は....死ね‼」



 それだけ言って逃げてしまった。



「よかった、鈴。間に合ったみたいで」



 鈴に向き直り、安否を、怪我が無いか確認する。



「わ、私の怪我よりも忌助くんの怪我の方が」


「あっ‼」



 言われて思い出した。

 そして尋常じゃない痛みが腕を襲う。



「なん....で、鬼の毒は効かないはずなのに」


「今治すから。回復霊術改 完治」



 腕が光に包まれて、傷口が塞がっていく。

 それと同時に痛みが薄れていき、毒が抜けていくのがわかる。



「ありがと、鈴。流石、雨三家だね」


「うん、これで大丈夫‼ 助けてくれてありがとう」



 満面の笑みを向けられ少しクラっときてしまう自分がいる。

 ダメだ、可愛い。



「なんで暮夜に襲われそうに?」


「うん。それが明日の試練、この班を抜けて、こっちに来ないかって。そうすれば絶対に合格させてやるからって言われたの」


「それで?」


「もちろん私は丁重にお断りしたよ。私より順位が下なのになに言ってるの? って」


「そうなの? 鈴の方が暮夜より順位上なの?」


「そうだよ。知らないの?」


「うん、自分が一位って事くらいしか」


「二位がながつきくん。三位が将人くん。そして四位が私って訳」



 えっ‼

 将人って陸宮で愛六家の分家のだよね。

 あの時の殺気で泡吹いてた子だよね。



「でも鈴が四位って凄いね」


「そ、そうかな? でも私は回復霊術が優れているからそこが加点されたんだと思う」


「そりゃそうでしょ。だって鬼の毒まで治せるんだから」


「そうなの? 無意識だったけど」



 本当の天才なのか‼



「もしアレだったら送ってく? 玖郎さんにも言っておきたいから。それと今回のお礼も」


「うん、わかった。じゃあお願いしよっかな」



 鈴と話ながら、主に質問(山での生活)攻めにあいながら、雨三家に到着した。




「お父さん、お母さんただいまー」


「お邪魔しまーす」



「お帰り、鈴。それとどうしたんだい、忌助くん」 



 玖郎さんが出迎えてくれた。



「お父さん、鬼の話が」


「なるほど、場所を替えようか」



 そして客間に通される。

 やっぱり十の名家の家は広くて豪華で凄い。



「で、話って?」


「あのね、お父さん。今日は忌助くんを慰めに? 行ってたのは知ってるよね」


「うん」


「その帰り道で暮夜くんに襲われかけたの」


「それは本当か?」



 玖郎さんは自分に確認の視線を向けてきたので無言で頷く。



「それで忌助くんが助けに来たとかそんな感じか。ありがとね、忌助くん」


「いえ、鬼のおかしな気配を感じたので行ってみたら鈴が襲われてたから。それと後処理ありがとうございました」


「うん、それはいいけど忌助くんは大丈夫かい?」


「はい、なんとか立ち直りました」


「でもたちの悪い鬼だよね。仲間を鬼人に変えられたんだから」


「はい」



 たちの悪い鬼か。

 今までそんな自分に被害がなかったから油断してたんだ。



「そうだ、忌助くん。鈴の事を守ってあげてくれないかい?」


「えっ、ちょっ、お父さん‼」


「それはどういう?」



 鈴を守るってどういう事だ?



「鈴がまた暮夜さまに狙われる可能性があるからだよ。多分暮夜さまが襲ったっていう証拠は消されるだろうから訴えられない。その上でまた襲われる可能性があるんだ」


「それでその具体的な襲われる理由は?」


「待って、私が説明するから」



 流石にお父さんに説明されたくないみたいだ。



「えっとね、私は何度か暮夜くんに告白されたの。もちろん断ったよ。それでも何度も何度も告白してきてね」



 まぁ可愛いからわからなくはないけど。

 って夜叉丸のせいで凄い意識しちゃってる‼



「で、とうとう強行手段に出てきて一回拐われかけたの」


「そこまで⁉」


「そう、まぁ拐われかけたってだけだったからよかったけど。それでまた酷くなっていって、ついには求婚までしてきたんだよ? 酷くない」


「酷い、のか?」


「そうだよ、私には気になって....なんでもない」



 そこまで言うと顔を下に向けて黙ってしまった。

 耳を赤く染めてどうしたんだろう?



「というわけで、忌助くんに鈴を守ってもらいたいんだ。もちろん近くにいるときだけでいいけど」


「わかりました。玖郎さんには色々としてもらっているので喜んでお請けします」


「ちなみにその喜んでってどういう意味のだい?」


「どういう意味って....も、もちろん玖郎さんの役に立てるからって意味ですよ」



 喜んでって鈴を守れるのが嬉しいって意味でもとれるよな。

 どうしよう、急に恥ずかしくなってきた。



「2人とも耳まで赤く染めて下を向いてどうしたの?」



 玖郎さんは意地悪な笑みを浮かべながら2人を見ていた。



 ※



 昨日は色々、結構充実していた一日だった。

 そして今日の大体午後に第二試練が待っている。

 自分たちの班は第一四班だ。



「おはよー、忌助」


「おはよ、ながつき」


「昨日は災難だったな」


「情報速いな。証拠はないはずだぞ?」


「まぁね。でも情報を全てなくすのは不可能だから」


「なんか方法が――――」



「――――愛六忌助、《決闘》を申し込む‼」



 学校に到着早々、《決闘》を挑まれた。

 すぐに先生が駆けつけて《決闘》が始まる。



「こい、夜叉丸」


「〔身体しんたい神化しんか霊術〕 阿修羅あしゅら憑依」



 相手が誰か興味がなく聞き流していたが、相手は五条家の人だった。


 五条家の人(五条ごじょう蘭紅らんべに)には霊力により、腕が四本、顔が二つ増えたように見える。


 蘭紅は力任せの攻撃を繰り返してくるが、刀で受け流しつつ隙を探す。

 が、力任せのはずなのに隙は一切なく、このままでは体力勝負になってしまう。

 否、隙がないのは、霊力の腕が原因だった。

 蘭紅本人の隙を守るように残りの霊力の腕が動くからなかなか仕掛けられない。


 蘭紅の突きが、蹴りが一発でも当たれば自分の体は粉砕されかねない威力で攻撃を繰り返す。

 技を発動する隙すら与えてくれない。



 蘭紅の突きが頬を掠め切り傷をつくる。


 蘭紅の手刀が肩を粉砕しにかかる。


 蘭紅の蹴りが腕を折ろうと襲いかかる。


 蘭紅の熊手が顎を突き上げてくる。


 蘭紅の手で刀を持っている手を押さえつけてくる。


 蘭紅の手が首にのびて絞め付けてくる。



「どうだ、愛六忌助。このまま絞め殺してやる」


「ぁ、が」



 身体中の骨を折られ痛みで意識が朦朧とする。

 首を押さえられ声が上手くでない。

 刀も押さえられ攻撃ができない。



 なら、どうすれば?


『夜叉丸、憑依』



 心の中の夜叉丸の声に反応して、自分の体の怪我は治り、皮膚が赤く筋肉がつき、額から一本の綺麗な角がはえる。



「こっからが本番だ」



 蘭紅の拘束から解放されて自分の体をみると霊力が溢れかえっているのがわかる。



「な、な、なんだそれは」


「そうだな、言うなれば〔身体鬼化きか霊術〕ってところかな?」



 それを聞いて怒った蘭紅は特攻を仕掛けてくる。

 蘭紅が霊力の腕で殴るとその腕は霊力が乱され消えていく。

 本当の腕での攻撃も今の体だと痛みも傷も負わない。



「こっちの番だ‼」



 こめかみ(梅干しされるところ)に裏拳を叩き込み、蘭紅は撃沈する。



「勝者、愛六忌助」



 ふぅー、終わった。

 気が抜けて鬼化が解除される。


 蘭紅は案外強かったし負けかけた。

 相手の攻撃を待つのは流石に危ないから気を付けないと。



「お疲れ、忌助」


「おう、ながつき。どうだ‼ 凄かっただろ‼」


「あぁ、凄かったよ。鬼になった時、一瞬驚いたぞ。まさか鬼人化したのか? って」


「いやー、油断してた負けそうだった時、夜叉丸が助けてくれたんだ」


「鬼か、とても興味深いね」



 そんな会話をしてると、第二試練、第一三班が始まった。

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