第1章

第1話「初めまして異世界」

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 何歳の頃だろうか。人生が灰色だと気付いたのは。


 何時だろうか。景色も、人も、会話も、それらにいろどりも何もないと見つけたのは。


 何時だろうか。色鮮やかな自然、絵、テレビ、それらが白黒だと知ったのは。


 灰色の道を只々歩いて、只々進んで、あれは何色だと言われて、僕は只々生き続けていた。


 僕はこのまま灰色に生きて、何も色を持たない灰になるものだと思っていた。


 それがきっと当然だと思っていたし、見飽きた顔に何度も諭されていたし、それ以外に色なんてないと思っていた。



 中学二年の夏休み。外の暑さにうんざりして引きこもり、年々量が減っていると噂の夏休みの宿題をさっさと終わらせてベットの上で呆ける。


 大体は去年と同じ。面白くない遊びに誘ってくれるクラスメイトに気だるげにありもしない用事で御断りを入れて、暑い中仕事に行く両親と本当に友達と遊ぶのか疑問なキンキラ頭の姉を見送って、何の気なしもなく僕はリビングでテレビをつける。


 キックが得意そうなバイク乗りに複数人で乗る合体ロボで敵を倒しそうなアニメを見て今日が日曜日だと理解してカレンダーを見た僕はまだ3分の2も夏休みがあるのか、その間に僕はナマケモノ怪人に変身してそうだ、とテレビから流れるモノを見て思う。去年と同じならそんなことはないのだが、こうも何もないとそんな妄想すら真実味を見出してしまう。


 そんな変な事を頭に抱えながらこんなダラダラな状態でベットで呆ける僕はこんな灰色の人生で一体どうすればいいのだろうと夢想する。


 別にいつもこんなことを考えている訳ではない。とりわけこんな思考をしだしたのは去年の夏休みで、今回もやたらと考えてしまうだ。


 それは適当な本とか国語の教科書のお話とかで度々出てくる陳腐な話題だ。

 決して自分だけが悩んでいることではないし、誰でも一度は通る思春期のたわ言だと知っているが、どうも最近はその思考をやめることが出来ない。


 納得しろ世界は灰色だ、と自分を説得している気さえするこの自問は熱い日差しに焼かれたように煙を上げる。


 煙を吸い込んではむせて、その煙は当たり前の空気だと言い聞かせてもむせてしまう僕は毎回ベットの上で思考を放棄する。


 不毛。そんな言葉がぴったりに当てはまる僕の行動は決して何かが実ことなく時間を食い散らす。



 そんなある時、夜に喉が渇いた僕は冷蔵庫を開けたのだがどうしたことか愛飲のドクターペッパーが無く、台所を見てみれば見慣れたラベルの付いた空っぽのペットボトルが鎮座していた。


 両親は炭酸飲料が嫌いな人間なので犯人は簡単に分かったが僕はため息をつく事しかできない。なにせその犯人は今まで仲が良かったのがウソのように高校に入ってから様変わりしたからだ。昔ならいざ知らず、今のあれに何を言ったところで無駄だ。


 僕は色々と諦めて、大して消費していない財布を片手に家を出る。

 生暖かい息を吹きかけてくる暗がりに顔をしかめながら僕は近くのコンビニを目指す。


 じめじめな夜から見えた7の目立つコンビニは緑と赤という記憶に残る色をしてる。どこか羨ましいと感じる僕は中々に希有な存在なのではと思い、その思考を鼻で笑いつつコンビニに入る。


 店員の挨拶を無視して冷蔵棚から愛飲の500mlペットボトルを指に引っ掛けて会計を済ませる。


 コンビニを出たときの店員の声をバックにペットボトルの蓋を捻り、水分と空気が噴き出す小気味の良い音を確認した僕はペットボトルと口づけをして内容物を飲み込んでいく。


 痛みに似た刺激が喉を引っ掻いては独特な味が舌を撫でていくのを感じながら僕は空を見る。星は見えない。チカチカしているのは人工衛星か飛行機か何かだろう。


 ……不毛だ。別にドクターペッパーを飲まなくともいい、わざわざ暑く暗い外に出るのも馬鹿馬鹿しい。空を見たのも、星を探したのも、それが何か自分に影響を与えるのだろうか。


 シュワシュワとした液体を胃に流し終えた僕は乱暴にコンビニのゴミ箱に突っ込んで自宅を目指す。


 きっと、変わらない。灰色の見方は変わらない。それは視野が狭いのだろうけど、だからと言って何かを知ったところで変わるものでもない。旅行でも、本を読んでも、学校で何を学ぼうとも変わらなかった。つまらない事で笑うクラスメイトに合わせてニコニコする僕も、きっと変わらないのだと。


 そう思っていた。

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