サブスクリプション・フレンド

ちびまるフォイ

お金の切れ目が友だちのはじまり

「サブスクリプションフレンド……ねぇ」


ネットで見つけた怪しげな広告にはリア充を絵に書いたような広告と、

定額で友達が一緒にいられるサービスについて紹介していた。


いくつかフレンドにも値段設定があり、一番安い「月額500円」のフレンドで登録した。


翌日、家を出ると友達が待っていた。


「よっ」

「お、おう……」


さも前から友達みたいな距離感に思わず面食らったが、

話してみるとすぐに打ち解けてしまった。

ああ、自分はこれまで友達ができないというよりタイミングを逃していただけで

けして誰にも合わないようなタイプではなかったんだなと感じた。


「あのさ、笹島君ってサブスクリプションフレンド……なんだよね」


「君ナシでいいよ。まあ、オレも登録者のひとりだよ。

 登録していれば要望が来たときに友だちになるってだけさ」


「なんだかドライだな」


「そうか? 今どき、なんでも話せる親友なんて重すぎる。

 必要なときに断らずに友達がいてくれるほうがずっといいと思うけどな」


そういうものなのか、と少し納得した。

自分は少しズレているのかもしれない。


これまではひとりでも特に孤独を感じたことはなかったけれど、

自分の楽しかったことを話して笑ったりしてもらえるのはまた別格だった。


「やっぱり友達っていいな」


1ヶ月後のこと。

その日もいつもと同じ時間に家を出て、待っているであろう友達に挨拶をした。


「おはよっ……あれ?」


今日は待っていなかった。風邪とかで学校休みとかではない。

今日が定額の期限切れ日だということを気づいたのは学校だった。


「おはよ。今日外で待ってなかったから驚いたよ。

 今日で期限切れだったんだな、ハハハ」


「……」

「笹島?」


「……なに? お前」


その目つきは明らかに不審者に注がれるものだった。

周りの人もこのピリついた空気を察したのか「ケンカでもしたの?」としきりに聞いていた。

笹島は「別に…」とか女優みたいに言っている。


「こんなあからさまに切られるものなのか……」


いくら期限が切れたといっても、これまで一緒に過ごした時間がなくなるわけじゃない。

友達の縁はその後も続くと思っていたのはどうやら間違いだった。

こんなにもあからさまに拒否されると、心の中では嫌われていたんじゃないかとさえ思う。


周りから「ケンカしている二人」と見られる視線がいたくなり、その日は相対した。

ふたたびサブスクリプションフレンドの契約を更新しようとしたとき、別のランクのものが目に入った。


「もしも……もしも、高額なサブスクリプションフレンドだったらどうなるんだ……」


前に自分が契約したのは一番安いプランだった。

それだけに期限が切れたらそれまでの関係になっていたのかもしれない。

もっと高額、それこそ一番いいプランだったらその後も友達になれるかもしれない。

きっと絆の深さがこの値段に反映されているのだ。


「1ヶ月で2万円……これで友達ができるのなら!」


これは自分の未来のための先行投資なんだと言い聞かせて契約を結んだ。

翌日、家の外に待っていたのはまさかの美男美女。


「おはよーー」「もう遅いよ」

「ったく、なにしてんだ」「早く学校いこっ」


「え、あっ、うん……えへへ」


スクールカースト最上位どころか殿堂入りしそうなグループに、

陰キャ代表のような自分がフラットに接してもらえるこの幸福感。


今まで女子と話すことなんてなかったけれど、

友達の輪に囲まれている今なら異性を意識せずに話すことが出来る。


「あはは。たっくんおもしろーい」

「お前のそういうともマジリスペクトだわ」


明らかに別種の人とも関われるようになり、話題の幅も広がる。

自分を見る目も変わっていくのがすぐにわかった。


「でさ、拓哉。今日は放課後どうするの? カラオケ?」


「えっ……」


「いくっしょ? みんな行くって行ってるよ?」

「ああ、お、オッケー……」


気乗りしなかったのは歌えるのはせいぜいアニソンくらいだからだ。

案の定、知らない曲のメドレーに必死に付き合う時間は苦痛だった。


「次どうする?」「軽く遊んでいこうぜ」


「え、ええ……?」


早く帰ってゲームしたいとは誰にも言えなかった。

イケてるグループに仲間入りしたはずなのに、充実感は遠のくばかりだった。


みんなが自分の話で笑ってくれる。そしてそれがクラスでも上位の人達。

なのに、どこか無理している自分を感じてしまう。


みんなのことは嫌いじゃない。むしろ好きなくらいだ。

でも誰かに合わせようと背伸びしてついていくのがきつかった。


「……誰もいない。そうか、今日で契約終了か」


1ヶ月後、期限がすぎるともう誰も待ってはいなかった。


でも不思議と寂しくはなかった。

人に合わせて無理をする必要はないんだと安心したくらいだった。


学校についてもわざわざイケてるグループの友達に、

かつての仲を温めようと話しかける気も起きなかった。

自分の中で何かが終わってしまったような気がする。


ぼーっと、窓の外から空を眺めて時間をつぶしていた。


「……よっ」


ふと、顔を上げると最初のサブスク友達である笹島が立っていた。


「こないだは悪かったな。冷たくしちゃって」


「いや……でも、契約期間は終わったわけだし」


「それなんだけど、あのときはカッコつけたっていうか……。

 ドライに接することで、他にも友達がいるっぽく見せたかったんだ」


「どうしてそんなことを」


「オレがこの契約したのもさ、最初は友達が欲しかったんだ。

 利用者だと自分が寂しい人間みたいだから恥ずかしくて。

 でも、本当はこうやって期間限定の友達をきっかけに本当の友達を作りたかったんだ」


「笹島……」


「今からでも、オレたち友達になれるよな。

 一緒にいて一番楽しかったのはお前なんだ。また友達になってくれ」


「ああ、もちろん!」


笹島の差し出した手をぎゅっと握った。




「……それで、俺は1ヶ月いくらもらえるんだ?」

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