After Data.28 弓おじさん、華麗なる下山
俺たちはすでに『戦闘空間』に隔離されている。
空がより鮮やかな紅に染まったのがその証拠だ。
『戦闘空間』はボスを倒すか、ボスに倒されるかのどちらかでしか解除されず、空間の中での出来事は外の人間には見えないし、干渉も出来ない。
こういうド派手なボスとフィールドで戦う際の特別措置であり、まだボスを見る段階ではないプレイヤーへのネタバレ防止としても機能する。
俺も何度かこの空間に入った経験があるが、一番印象深いのはやはり風雲山で『
あの時は空間に入る演出がもっと派手だった。
まあ、こっちはボスそのものが派手すぎるんだがな!
……それはさておき、『戦闘空間』は逃走防止のために見えざる壁で囲まれている。
いや、『囲まれていた』と言った方が正しいな。
今は衝突防止のために半透明な壁に変更されている。視認は容易だ。
そして、俺が見た感じこの『戦闘空間』はかなり広い。
それこそ、山全体が『戦闘空間』になっている可能性がある!
ならば、こんな山頂付近の険しい環境で戦わず、比較的動きやすい標高の低いところで戦った方が楽だ。
少しでも自分が有利な環境に相手を誘導する……!
これが戦いの鉄則だ。
間違っても相手の土俵で戦おうとしてはいけない。
ここはとにかく逃げるんだ!
「よし、逃げるだけなら案外楽に……」
いっていない!
巨体ゆえに一歩が大きいイフリートから逃れるには、こちらもそれなりのスピードで下山する必要がある。
しかし、そんなスピードは出ていない……。
ネクスは回避に集中しすぎで移動がおろそかになっているし、エイティはそもそも『速度』のステータスが低いので逃げるスピードにも限度がある。
俺だけで逃げようと思えばそれこそ【ワープアロー】で一発だし、先に山を下りてふもとから遠距離射撃でイフリートの移動を妨害するというのもありか……?
いや、それだけイフリートの攻撃対象が3人から2人になってしまう。
今は俺とネクスとエイティを均等に攻撃しているイフリートだが、これがネクスとエイティだけになると、それだけ2人に飛んでくる攻撃が増える。
正直、今の武器である『ショットクロスボウR』の火力でイフリートの攻撃を確実に妨害できるかと言われれば、不安が残る。
ここは全員のスピードを上げて、全員で確実に生き残りたい!
たが、その手段が見つからない……!
ネクスは最悪の場合、俺が『
あの奥義は1人用だから飛行は安定しないが、地面スレスレなら飛ぶことが出来る。
しかし、エイティまでは抱えられないし、『戦闘空間』に入った時点で引っ込めることも出来なくなっている。
なんとか自力で加速してもらわないと困るのだが……あっ!
「ブリザードストリーム!」
俺の両腕のガントレットから溶けにくい雪の混じった風が勢いよく噴射される!
なぜこのスキルの説明に『溶けにくい』という表現が使われているのか今わかった!
「ありとあらゆる場所に雪のフィールドを作り出すためだったのか!」
この灼熱のフィールドでも雪はすぐに溶けない!
噴射を続ければ、かなり広い範囲に雪を積もらせることが出来るだろう。
そして、雪の上ではあのスキルが使える!
「ネクス! こっちに来てくれ! エイティは俺の後ろをついてくるんだ!」
「わわわ、わかったぞ!」
「ヴルル……ッ!」
本来、この状況で一か所に集まるのは危険だ。
説明をしている暇は……ない!
「すまないネクス。俺が両腕で抱えるから、しっかり掴まっててくれ」
「な、なにっ!? きゃあっ!?」
俺が宣言通り両腕でネクスを抱える。
いわゆる、お姫様抱っこの形になってしまって申し訳ないが、背中の翼で飛行する以上、背負うことは出来ない。
「
胴体装備『Vフェニックスアーマー』の武器奥義【不死鳥の双炎翼】には2つの効果が存在する。
その1つはお馴染みの【
そして、もう1つがこの【
効果時間こそ24秒と同じだが、その効果は真逆でHPを回復することが出来る。
炎の魔神相手に炎の翼で攻撃することはないし、逃げている最中はHPを回復できる方が間違いなく有利だ。
俺は緑色の翼で飛ぶ!
「そして、同時にブリザードストリーム!」
ネクスがガッチリ俺に掴まっているので、何とか片腕を下に向けることが出来た。
こうすることで、地面に雪の道を作り出す!
「エイティ! アイシクルウォークだ!」
「ヴルル……ッ!」
スキル【アイシクルウォーク】は『雪や氷の上を歩く際の悪影響を無効化し、速度を20%上昇させる』という効果を持っている!
雪の上でしか発動できないという弱点があったが、今は自分で雪のフィールドを作ることが出来る以上、活用しない手はない!
しかし、そもそも低いエイティの『速度』を20%上げたところでどこまで効果があるのかという不安は付きまとう。
俺は飛行に集中しなければならないし、見てあげられないのが歯がゆい……。
「ネクス、イフリートの行動とエイティの状況を伝えてくれ! 俺は振り返れないから、回避の判断は君に任せる!」
「う、うむ! イフリートは依然として我々を追跡中だが、攻撃を仕掛けてくる気配はない。おそらく飛び道具のたぐいは持っていないのだろう。エイティは……」
「エイティは……?」
「華麗だ……! 華麗に斜面を滑っているぞ! まるでゲレンデに舞う妖精のようだ!」
「えっ!?」
「おおっ! 段差を飛び越える時に一回転したぞ! 着地も美しい……! あの柔軟な動きはプロスキーヤーと言っても過言ではない!」
な、なんだそれ……!?
一体エイティはどんな動きをしているんだ……!
み、見たい! でも、この飛行バランスを崩すと地面に激突する恐れがある!
そうなれば雪の道が作れなくなり、エイティも滑れなくなる!
なんというジレンマ……!
耐えろ……! 耐えて飛ぶんだ……俺!
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