Data.220 弓おじさん、刹那の射撃戦
「倒すべき標的が一か所に集まってくれるのは、僕としてもありがたいことなのですが……」
ここでエッダのキルアナウンスが入る。
キルアナウンスは実際にキルされたタイミングから多少ズレることもあるが、ネココがここまで移動してくる時間を考えるとラグでは済まない時間差がある。
何らかのトリックを使ったというのは、間違いなさそうだな……。
戦いに集中すべきなんだろうけど、すごく気になる……!
「設置した爪ミサイルを時間差で爆発させてキルしたと考えるのが妥当でしょう。しかし、それは少なくともエッダの体の自由を奪っていなければ成立しないトリックです」
「その通りよ。体の自由を奪って体に爪ミサイルを埋め込み、時間差で爆発させたの。彼女の戦闘スタイルはミラクルエフェクトのメタモルフォーゼ・エルフ以外はスキル主体。奥義を使わないからクールタイムがなく、戦闘能力に波が生まれない。でも、その代わりに火力不足だから、懐に潜り込んでイタズラする隙はいくらでもあったわ!」
「相変わらずエッダさんは手の内を全部しゃべってしまうようですね……。まあ、それがわかっていたから、ここまでは僕とグリムカンビさんだけで戦ってきたわけですが」
エッダのキルが確定したことで残りは俺とネココ、ノルドとグリムカンビのみとなった。
2対2ならば勝利は手の届く範囲にある……!
「ネココ、その体の自由を奪う技はノルドたちにも使えるかい?」
「ダメね。
顔を『ちゅー』しちゃいそうなくらい近づけるか……。
確かにノルド相手にそれは難しそうだ。
二丁の銃は接近戦にも対応できるしな。
「よし、ネココはグリムカンビの方を狙ってくれ。彼はとんでもないバッファーで、スキルを奥義並みの技に変えてしまう。防御スキルも充実してて、矢ではほとんどダメージが入らなかったけど、接近戦ならあるいは……」
「わかったわ。あの顔が真っ赤で息も絶え絶えの人から倒せばいいのね!」
「ああ……え?」
ネココの言う通り、グリムカンビは顔を真っ赤にして苦しんでいる!
特に激しい運動はしていないはずなのに、肩が激しく上下するほど呼吸が乱れる理由はなんだ……?
「そ、そうか……!」
彼のスキルの性能がやたら高い理由……。
それは横笛に息を吹き込んでいる間しか発動しないからなんだ!
クールタイムがあるから奥義の性能を高くできるように、スキルにも独自の制限を付けることで性能を上げるという例はある。
俺の【浮雲の群れ】も1時間に3回しか発動できず、5分で消えるというデメリットを抱えているからこそ、あれだけ便利なスキルになっている。
それと同じく彼のスキルは横笛に息を吹き込んでいる間のみ発動するという制限がある代わりに、とんでもないバフ効果を生むんだ!
スキルを発動させるたびに息を吹くのは想像以上に辛いだろう。
長く持続するバフスキルなどは、ずっと吹いていないと効果が維持できない。
だから彼はあんなに息を切らしているんだ!
「ノ……ノルドちゃん……。やっぱ……撃たれ続けるとキッツイ……! すまん……! 俺は……お前を……」
「よくここまで頑張ってくれました。あとは僕に任せてください、グリムカンビさん」
「ああ、派手に散ったるぜ~……!」
グリムカンビは武器を横笛から小さなハンマーに切り替えた。
何かやるつもりだ……!
「ガトリング・インフェルノアロー!」
笛を捨てたなら音の壁は作り出せまい!
そのまま脱落してくれ……!
しかし、グリムカンビは倒れ込むように地面に伏せ、矢を回避した!
「おっ? やっぱ姿勢を低くすると飛び道具って当たりにくいんだな……。へぇ~、軍隊の匍匐前進とかも意味あるわけだ……。勉強に……なったねぇ!」
コツン……とハンマーで地面を叩くグリムカンビ。
すると、地面は液体のように波うち、俺とネココの足を絡めとった!
「ゆ、揺れる……! だが!」
俺はもう一度グリムカンビに向けて矢を放った。
足場は安定しないが、矢は素直に飛びグリムカンビの体を貫く!
「うっそ~ん……! この状況で当ててくるとかバケモンだな……。俺はあんたが怖いんで、ノルドちゃんにぜ~んぶ丸投げちゃうよ……!」
再び横笛を持ったグリムカンビはその横笛を縦に咥えた!
これは……吹き矢の構え!
「
放たれた虹色の矢がノルドに向かう!
あれを届けさせてはならない……!
「
矢で矢を相殺……出来ない!
ミラクルエフェクトか……!
そのまま虹色の矢はノルドに届き、彼の体を虹色に輝かせる!
「エンドゲーム……
2つの銃口から放たれる暗黒の奔流に、辺り一帯は飲み込まれた。
◆ ◆ ◆
「終わった……」
ミラクルエフェクト【
キュージィの【
そして、ある程度の時間エネルギーが放出され続けることだ。
ゆえにぐるりと体を回転させ、銃口を一周させれば周囲一帯のすべてを薙ぎ払うことも可能だ。
しかし、発動後の自由が利く分、威力そのものは【
真正面から撃ち合うことになれば、敗北するのはノルドだった。
だが、グリムカンビのミラクルエフェクト【
NSOにおいてオーラをまとうことはステータス強化を意味する。
金色に近いオーラともなれば、相当にステータスが上がる。
虹色ともなれば……普段とは違う戦法も可能となる。
HPを大きく削って他プレイヤーのステータスを倍以上に上げることが出来る【
【
普段ならば周りの物を薙ぎ払う程度で済む攻撃も、今回は周囲の地面をえぐり、地形そのものを変えてしまうほどの威力を発揮した。
無論、キュージィとネココの姿も消え去っていた。
ほぼほぼ更地となったフィールドの中、ノルドは立ち尽くす。
自らの勝利を告げる声を聴くために……!
ネココのキルアナウンスが流れる。
次は……。
シュッ! ザクッ!
「……っ!?」
ノルドの肩に……矢が刺さった!
「そんなっ、バカな……!」
矢の飛んで来た方向を振り返る。
遥か彼方の岩山にキュージィの姿が小さく見えた!
「ど、どうやって逃げた! やはり、ワープアロー……! しかし、あのタイミングでは到底間に合わないはず……! そこまで計算しての攻撃だったのだから……!」
だが、確かにキュージィはいる!
キルアナウンスも流れてこない!
ノルドのやるべきことは……1つだった。
「接近して……撃つ!」
◆ ◆ ◆
あれで終わっていてもおかしくはなかった……!
いくつもの幸運とひらめきが味方をしてくれたおかげで、なんとか生き残っている……!
グリムカンビが脱落したことにより、彼の地面を液状化させる効果自体は解除された。
しかし、液状化した地面に足を突っ込んでいたことにより、解除後は硬さを取り戻した地面に足が埋まっているという状態になった。
本当によく考えられた連携だ……!
俺たちの動きを制限しつつ、ノルドをあれだけのエネルギーを放出しても体が吹っ飛ばないように固定することが出来る。
何かに体が固定されている状態で【ワープアロー】が効果を発揮するのかは未知数だった。
だからネココは迷わないように俺の両脚を奥義で切り落としてくれた。
このイベントは良い子も観戦するため、見た目には脚がなくなっているようには見えないが、部位欠損状態ではしっかり判定がなくなる。
そうして自由になった俺は【ワープアロー】と【風神裂空】の融合奥義【転移風神裂空】によって遥か遠くの岩山に逃れることが出来た……!
本当にギリギリのタイミングでのワープだった。
そもそも【ワープアロー】は矢がどこかに刺さったタイミングでワープするから、矢が飛んでいる間はワープ出来ない。
相手の攻撃の弾速も相当速かったし、コンマ数秒遅れていれば巻き込まれていた。
間に合った理由はネココの素早い行動、【居合撃ち】による早撃ち、そして【
俺は精一杯体をひねって弾丸とは真逆の方向に【ワープアロー】を放った。
だからこそ、矢は飛来する【
敵の攻撃すら利用して生き残った俺は、ノルドがまだ【
そして、ノルドの【
俺のやるべきことは……1つだ。
「接近されないように……撃つ!」
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