Data.210 異人伝:にゃるかみねこまねき
「ま、マココさん!?」
「ま、マココさん!?」
アンヌとアチルの声がハモる。
突然の乱入、それもマココとなればこの反応も当然だ。
彼女はこの2人にとって特別な存在であると同時に、戦力面でも飛びぬけた存在……。
それが急に現れたとなれば、状況は大きく変化する!
「どうやらお話はここまでのようですね……!」
2対1になった以上、アンヌは問答無用で逃走するしかない。
逆にアチルはマココと協力してアンヌを仕留めようと動く。
「マココさん! 一緒に……」
「その前に私の後ろの敵を何とかしてほしいんだけど!」
マココはブーメランを投げずに手に持って走っている。
彼女ほどの使い手になれば、撤退しながらでもブーメランが投げられるはず……。
このおかしな行動の理由をアンヌたちはすぐに知ることになる。
「
放たれた雷の斬撃がマココを襲う……!
「
手に持ったブーメランを振るうたびに刃から瑠璃色の光が舞う。
それは小さな蝶のように見えるが、実際はすべてエネルギーで出来たブーメランである。
舞い散るブーメランは即座に高速回転を始め、光に誘われた虫のごとく飛来する雷の刃に群がる。
そして、刃を隙間なく覆いつくし、食い尽くすように相殺してしまった……!
だが、相変わらずマココは武器の方のブーメランを投げない。
【
放出しきった後の実物のブーメランはフリーになるため、投げればすぐに攻撃に転じることが出来るはず……。
しかし、マココはかたくなに実物のブーメランを投げなかった。
「アチル! あの猫を狙うのよ!」
「ね、猫!? どの猫ですか!?」
この場に猫は……3匹いる!
1匹は【妖怪変化:猫又】の効果によって種族を人間から猫又へと変化させたネココ・ストレンジ。
この状態では攻撃・速さのステータスが上昇し、空中でのジャンプが2回まで可能になる。
また、姿もよりグレードの高い猫のコスプレになる。
残り2匹はネココのミラクルエフェクト【
赤い毛の猫を『陽の招き猫』、青い毛の『陰の払い猫』と呼び、それぞれ違った効果を持つ。
「赤いのよ! ブーメランをくっつけてる奴!」
マココが指さす赤い猫の体には、確かにブーメランがくっついている。
まるで磁石に引き寄せられているように……。
そう、これこそが『陽の招き猫』の効果。
飛び道具を自分の体に引き寄せ、くっつけてしまうのだ!
しかも引き寄せる力は尋常ではなく、並のスキル奥義では取り戻せない!
つまり、今現在マココが手に持っているブーメランはキュージィと戦っていた時の物ではなく、性能が少し落ちる予備のブーメランなのだ。
そして、『陽の招き猫』が存在する以上、ブーメランは投げられない!
「ブーメランはそこまで飛ぶスピードが速くないから、上手く刃のついていない腹の部分をキャッチされてしまったけど、矢だったらそうはいかないはずよ! そもそも速いし受け止めるのは容易じゃない。連射も出来るし、何より矢はくっつけられたところで困らない!」
「確かに……!」
ブーメランは投げた後にキャッチしなければ次の攻撃には使えない。
しかし、矢は無限に供給されるのだ。
1本2本、いや10本無駄にしたところで別に痛くはない。
キャッチされたからといって次の矢が絶えることもなく、次々と撃つことが出来る!
「ミリアルドアロー・ツインショット!」
両腕のガントレット一体型クロスボウをネココに向け、アチルが奥義を発動する。
【ミリアルドアロー】はその名の通り億単位の矢を……。
いや、正確にはそれよりも少ないが、億と見まごうほどの矢を高速で連射する奥義である。
キュージィの使う【弓時雨】や【矢の嵐】、【天羽矢の大嵐】が広範囲拡散系とすれば、アチルの【ミリアルドアロー】は一点集中系だ。
かなり狭い範囲にしかダメージが入らないが、1体の敵に対して使うならばこちらの方がダメージ効率が良く扱いやすい。
撃ちだす勢いもかなり強いので、敵の攻撃を押し戻すような使い方も可能だ。
「青猫!」
押し寄せる幾億の矢に対して、ネココは青い猫を前に出す。
『青い払い猫』の効果は赤猫の真逆、つまり飛び道具を弾き飛ばすことが出来る!
無数の矢は反発する磁石のようにぽんぽんそこら中に跳ね飛んで行く。
惜しいのはあくまでも弾き飛ばすだけで、敵に矢をお返しするカウンター効果ではないことだ。
その分、奥義を正面から受けても弾き飛ばせるだけのパワーはあるものの、赤猫と青猫のどちらも攻撃に対して受け身の効果であることは否めない。
本来ならばこの2匹の猫を引き連れて接近戦を仕掛けるのがセオリーなのだが、今回は【ミリアルドアロー】の勢いが強すぎるため、青猫が前に進めない……!
2匹の猫はユニゾンのようにある程度自由に動き回れる仲間モンスターではなく、シューティングゲームにおける自機を追従するオプションに近い。
猫はネココからあまり離れられないし、ネココもまた猫から離れることが出来ないのだ。
つまり、青猫が奥義によって押さえつけられている今、ネココは動くことが出来ない……!
「隙あり!
逆に言えば、それだけの圧がある奥義を発動し続けているアチルもまた反動で動けないということ。
アンヌは鉄球を振り回し、アチルに向けて投げつけた!
これでアチルと撃破……とはいかない。
この戦場で最もフリーにしてはならないプレイヤーがフリーになっている!
「
マココが盾に使っている円形ブーメランの刃がギザギザとした物に変化し、高速で回転を始めた!
まるで丸ノコのようなそれでマココが狙うはアンヌの首……!
しかし、発動した奥義をすぐに解除し、パワーで無理やり鉄球を引き戻せばまだガードは可能だ!
「…………」
アンヌは……奥義を解除しなかった。
鉄球はそのまま動けないアチルを狙う!
「なるほど、肝が据わってるわね」
「マココさんに褒めて頂けるなんて光栄です」
アンヌは最初からマココに攻撃されることがわかっていた。
わかったうえで、アチルの撃破を優先したのだ。
理由は単純。
ネココがマココに立ち向かえるだけの実力があるとわかったからだ。
戦場に現れた時、マココは明らかにネココから逃げていた。
1対1ならばマココをなんとか出来る……。
ならば、そこに他の敵を入れないのが自分に出来る最善の手だとアンヌは思った。
マココとアチルの繋がりは思った以上に深く強いものだ。
2対2になると、知り合って日の浅い自分たちが不利になる。
だからこそ、自分を犠牲にしてもアチルを倒そうとした……!
「うおりゃあああッ!!」
【
しかし、アンヌは硬い!
弱点に攻撃を受けても1撃では沈まない!
だが、それはマココも知っている!
くるりと自分自身も回転し、もう片方の手に持つ『く』の字型ブーメランを振るった!
「
赤色のビームの刃がアンヌを切り裂く……!
ほぼ同時に【
「私の攻撃をくらったことで狙いがずれて、鉄球はアチルの近くの地面に当たったようね。さらにはキルされたことによる攻撃判定の消滅も早かったわ。これだと衝撃波でアチルを吹っ飛ばすことは出来ても、キルするにはダメージが足りないはず……」
鉄球が地面に衝突したことによる土煙でアチルの姿は見えない。
しかし、アンヌはマココの予想が正しいと思った。
自分を攻撃しながら、鉄球の方の軌道を見極めるだけの能力が彼女にはあるのだ。
「やはり、あなたはオカルティックな存在です、マココさん。アチルちゃんの話を聞いて……いや、彼女の存在そのものが私に確信を与えてくれました。でも、それはそれとして、私たちは負けませんよ、この戦い……!」
アンヌ消滅と同時に彼女の脱落を伝えるアナウンスが流れる。
その後、続けて流れてきたのは……アチルの脱落を告げるアナウンスだった。
「……っ! このアナウンスのタイミングだと、同時に撃破されたということになる……。私としたことが読み間違えちゃったかな?」
少しお茶目な声を出しつつ、マココは空から降ってきた燃え盛る隕石を回避する!
彼女はこの攻撃に見覚えがあった。
「まさか、この場にもう1人仲間がいたとはね……!」
「あなたは特別な存在です。周囲にいるすべての人があなたの行動に目を奪われる。だからこそ……僕のような不意打ちを得意としないプレイヤーにも不意打ちのチャンスがあった」
土煙に紛れ、鉄球の衝撃によるダメージを負っていたアチルにトドメをさしたのはサトミだった!
「事前に決めた作戦通りにいくのならば、僕はベラさんを先に仕留めないといけません。しかし、偶然戦闘に出くわしてしまった以上、手を出さずにはいられなかった。アンヌさんの戦いを無駄にしないために……!」
「あなたたちが各個撃破を考えていることは知ってるわ。でも、姿を見た以上……私はあなたを逃がさないわよ?」
「ええ、覚悟の上です。
サトミが3体のユニゾンを従え、マココに戦いを挑む……!
これは感情に流された行動ではない。
ネココのミラクルエフェクトは時間制限があるタイプだ。
効果が切れれば、マココに立ち向かうことは難しい……。
しかし、効果が発動している間は十分に立ち向かえる。
サトミは臨機応変な判断で、今マココを仕留めるべきだと判断したのだ。
そう、2つの
あくまでもネココ1人の力を信じたアンヌの判断とは少し違うが、サトミもまたパーティの勝利を考え、自分なりの最適解を導き出した!
「さあ、動物園の開園です。河童とか猫又とか妖怪もいますけど」
「いいわね、歳取ってから一回も行ってない気がするわ動物園。うちのカラスを入れてあげられないのが残念だけど!」
ネココ、赤猫、青猫、サトミ、ゴチュウ、ブゥフィ、カパパルトVSマココ!
実質7対1の戦いが始まった!
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