Data.203 弓おじさん、巨星墜つ

 俺はずっと思っていた。

 バックラーと初めて戦った陣取りで、俺が勝つことが出来たのは前衛を務めたゴーレムたちや戻ってきてくれた仲間たちのおかげだと。

 でも、それは……やはり正しい!

 紛れもない事実だ!


 だからこそ俺は陣取り特有のシステムがない状態でのバックラーとの戦いに不安を感じていた。

 プレイヤーとしての経験は彼の方が間違いなく上だろうし、俺との相性もかなり良い。

 射程を伸ばして反撃されない位置から攻撃したところで、その攻撃が効かなければ意味がない。

 あの時はバックラーから防具を脱いでくれたから攻撃が通ったが、それもまた陣取り特有の戦場がそうさせただけで、普段から脱いでくれるわけがない。


 俺は最初から陣取りの時よりも不利な戦いを強いられていると思っていた。

 しかし、それこそが間違いだったんだ。


 今の俺は……陣取りの時よりも頼れる仲間に囲まれている!

 ゴーレムや戻ってきてくれた仲間たちも頼りになったが、ネココたちはそれ以上に強い。

 そして、一緒に冒険した時間こそ短くとも、俺はネココ、サトミ、アンヌのことを知っている。

 そりゃプライベートとか深いことは知らないけど、ゲームに対するスタンスとか得意なスタイルとか性格とかはわかる。

 だからこそ、より信頼できる。


 あの時よりも信頼できる仲間と共に戦っているのに、なぜ不利なんて思っていたんだ?

 俺は最初から陣取りの時よりも有利な状態で戦っていたんだ!

 だから、バックラーにも負けるはずがない!


 でも、その割にはギリギリまで追い詰められ、苦戦したもの事実。

 その理由は……ハッキリしている!


「やっぱりあなたは……いや! バックラー、あんたは強い! あの時よりもずっと!」


「そのセリフ、そのまま返すぞ! キュージィ! またもや完敗ではないか!」


「次は……わからない!」


 天まで昇った後に来る一瞬の無重力。

 その後、俺たちは星屑のように地上に落ちていった。




 ◆ ◆ ◆ 




『試合終了ーーっ!! 正道騎士団ストレイトナイツのプレイヤーが全滅したため、勝利パーティは……幽霊組合ゴーストギルド! 準決勝進出おめでとうだにょーん!』


 【スターダストアロー】でバックラーを撃破後、すぐにチャリンのアナウンスが入った。

 バックラーと話すべきことは話した。

 おそらく、待機場所に戻っても彼は俺に話しかけてはこないだろう。

 戦士に長々とした言葉などいらないのだ。

 でも、優勝したらちょっとくらいは祝いの言葉をくれるかもしれない。


 そうだ……もう優勝が見えてきてしまっている!

 いや、『しまっている』ってなんだ?

 喜ばしいことのはずなのに、それ以上の恐ろしさを流石に俺も感じ始めた。


 賞金とか、栄光とか、近づけば近づくほどぼやけてきて、ただ勝ちたいという思いが明確になる。

 俺はこの戦いを負けで終えたくない。

 ただ、それだけなのかもしれない。


「とはいえ賞金もやはり……」


 ぼやけているのは金額が莫大なせいもある。

 ちょっと古い人間というのもあって現実感がないんだ。

 ゲームのイベントで優勝してあの額をポンともらえることに。

 実際、この熱戦の連続を潜り抜けて勝ち残ったものに与えられる金額としては妥当だと思うが、それが自分に与えられるとなると……ちょっと想像できない。


 お金はこれだけ技術が発達した時代でも大事なものだ。

 幸せに生きるためには、絶対に必要なものだと俺は思う。

 無欲な少年漫画の主人公のように、勝利という事実だけに満足してお金はいらないとは言えない。

 もらえるものは……もらう!

 それが大人というものだ……!


 試合の後にこんなことを考える俺は、案外まだ俺は緊張していないのかもしれない。


『それでは生き残ったプレイヤーを待機場所にワープ!』


 チャリンの一声で待機場所に帰還する。

 迎えてくれるプレイヤーたちの拍手はまた大きくなった気がする。

 パーティの構造上仕方ないとはいえ、毎回俺ばかり褒められるのは申し訳ないな。

 俺が勝てるのは、仲間のおかげだっていうのに。

 ただ、それを指摘しても誰も喜ばないし、ネココとかサトミがそんなこと気にするとは思えない。

 彼らはストイックなゲーマーだからな。


「流石ですキュージィさん。そして今回はアンヌさんも素晴らしい活躍でした。まさに大金星といった感じですね」


 噂をすればサトミ登場。

 彼はもはや先に脱落したことなど気にせず冷静に試合を振り返っている。

 これから先、さらなる強敵との戦いになる。

 全員生存のパーフェクトゲームなんてありえないだろう。

 誰かがやられてしまうんだ……。いちいちそれを気にしていられない。

 それこそ、俺が真っ先にキルされてずっと観戦なんてことも……。


 いや、それはあっちゃダメだ!

 というかこれから先ってもう後2試合だけだった!

 準決勝と決勝で即死って悔やんでも悔やみきれないな……。

 もちろん、仲間の誰かが即死しても責めるつもりはさらさらないが、俺が即死したら地面に頭をつけて謝りたくて仕方なくなってしまいそうだ……!

 止めてくれるな……気が済むまで頭をこすらせてくれ……!

 やりたくてやっているのだから……!


 って、負けた時のシミュレーションをしてどうする。

 さっさと次の試合に意識を切り替えよう。

 もう今から始まる準々決勝第4試合が終わったら次は準決勝第1試合、その後にすぐ俺たちの出番なんだから。


「サトミ、次の対戦相手のアーカイブを出してくれるかい」


「あ、今回だけはトーナメントの構造上、次の試合の勝者が僕らの対戦相手になるんですよ」


「そうなのか……。今までは対戦相手は全部先に決まってたから新鮮だな。ここはドンと構えて観戦するとしようか」


「そんなに長い試合にはならないと思うから、見逃さないようにしてね」


 ここまで静かだったネココが急に話に入ってくる。

 落ち込んでいるんじゃないかと心配していたが、どうやらその推測は的外れだったらしい。

 彼女のダンマリの理由は他にあった。


 準々決勝第4試合を戦うパーティ『AUOratorioエーユーオラトリオ』のリーダーはマココ・ストレンジ!

 ネココが慕う『叔母様』だ……!

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