Data.185 弓おじさん、集団戦闘

 ベスト16……か。

 思えば遠くまで来たものだ。

 残るは準々決勝、準決勝、決勝の3試合だから、あと3回勝てば優勝……。

 まあ、この試合を切り抜けられたらの話だけど!


「良い奥義ね、オネエさん! でも、後出しで攻撃を無効化できる奥義なんて連発は出来ないはず!」


 【見えざる猫まっしぐらインビジブル・キャットウォーク】を解除したネココが姿を現し、シンバに攻撃を仕掛ける。


「連発なんてする必要はないわよっ! さっきの攻撃を受けたのは検証のためであって、避けられなかったわけじゃないのっ! それどころか、反撃しようと思えばできたってことを教えてあげるっ! 食らいなさいっ、真影分身手裏剣しんえいぶんしんしゅりけん!」


 シンバが両手のシンバルを投擲する。

 それ手裏剣だったのか!?

 と、驚いているうちに投擲されたシンバルがどんどん分裂していき、広範囲に拡散していく……!


「こんな感じで広範囲を攻撃すれば、たとえ姿が見えなくても関係なかった……ってねっ!」


 ネココを援護しなければ……!

 ちょうど俺の近くをふわふわしていた『万弓マンボウ』をつかみ取り、シンバに狙いを定める。


太陽魚の矢サンフィッシュアロー!」


 巨大な光球を撃ちだし、攻撃を防ぐ盾にする!

 こういう拡散系の奥義は一点集中型の奥義に弱いことを俺はよく知っている。

 なぜなら、俺も矢を拡散させまくってるからな……!


「ありがとう、おじさん!」


 ネココが光球の裏に隠れ、手裏剣をやり過ごす。

 さて、ここからどう動けばいい……。

 敵は残り3人と1匹。

 ハタケさん、ペッタさん、シンバ、そしてオウム型ユニゾンの『パロロ』だ。

 こちらも残り3人と1匹。

 俺、ネココ、アンヌ、ガー坊だ。


 お互い1人欠けた状態だが、試合としてはまだまだ序盤。

 どちらが優勢とか判断できる段階ではない。

 問題はこの残り戦力のすべてが一か所に集まっているということ……! 

 俺たちはこれまで敵と1対1で戦うシチュエーションが多かったから、こういう集団戦には慣れていない。

 何より、幽霊組合ゴーストギルドはその結成理念から連携の確認をしてない。

 それが時に予想外の連携を生み、敵を倒してきたのは事実だが、不安定なのも確かだ。

 出来れば敵を分断して各個撃破を狙いたいが、こういう時に知恵を出してくれるサトミはすでに脱落している。


 残りのメンバーとなんとか打開策を考えなければ……って、あれ?

 アンヌがいなくなってるぞ……!?

 キョロキョロと周囲を見渡す。

 まさか、やられて……はいなかった。

 彼女は地面に突き立てられた土管の中からひょっこりと頭を出していた。


 しかし、いつの間にあんなところに移動したんだ?

 彼女は確か他の土管の後ろに隠れていたはず……。

 まさか……土管同士って地下でつながっているのか?

 あのミスタービデオゲームのおじさんのように……。

 それってもう元ネタに対してモロじゃないか!

 でも、NSOならあり得る!


 アンヌと土管のおかげで良い作戦を思いついた。

 だが、声でそれを伝えてはバレる。


 ここは……【レターアロー】を正しく使う!

 このスキルにはもともと2つの効果を持っている。

 1つはいつも使っている敵モンスターの情報を調べる効果。

 もう1つは……その名の通り文章やボイスを記録して飛ばす『矢文』の効果!

 これを使って今のうちにネココとアンヌに作戦を伝える。

 【クリアアロー】を融合して敵に見えないように……だ。


 敵も敵で次の行動を考えているところだろう。

 シンバの広範囲攻撃は俺たちの動きを制限しているが、味方殺しがある以上ハタケさんたちも安易に手裏剣の嵐の中に踏み込めない。

 つまり、シンバは味方の動きも制限しているんだ。

 それはミスではなく意図的な可能性が高い。


 ハタケさんはまだ【死亡フラッグ】を使いたがっている。

 彼の本領はバフ能力なのに、それを捨てて運勝負をしている。

 だから、シンバは落ち着かせる時間を作った。

 アタシは強いから、アタシにバフをかけて普通に戦えば勝てる……みたいな想いが、この攻撃には込められている気がする。


 やっぱり人望があるんだなぁハタケさん。

 みんなが自然と彼を中心に戦おうとしている。

 ここまでされたらハタケさんも戦い方を変えてくるはずだ。

 【死亡フラッグ】を警戒する必要はもう……。


「死亡フラッグ!」


「……え?」


 意識しすぎたが故の幻聴……ではない!

 ガー坊の頭に小さな黄金の旗が生えている!

 ハタケさんの思考回路を理解できると思った俺が間違っていた……!


「でも、ガー坊なら……黒子クロコガイル!」


 さっきシンバが言っていた。

 フラッグはタッチすることで別の対象に移すことができ、その対象はダミーでも構わない!

 【黒子ガイル】で生み出した分身にフラッグを移し替え、俺たちは【ブルーオーシャンスフィア】でその場から離脱する。

 もう攻撃は放たれているかもしれない。

 急いで移動しなければ……!


「そこだな!」


「なっ!?」


 ペッタさんがこちらに狙いを定める!

 フラッグが生えた対象は誰かに擦り付けようと物陰から出てくると予想したうえでの行動か!

 でも、そんなことをしたってフラッグが出現している今はすべてダミーに攻撃がいくはず……。


超攻撃強化付与ハイアタック・エンハンス!」


 ハタケさんがペッタさんにバフをかけた。

 本当に攻撃する気か……!?


音速疾風のソニックブラスト……うわっ!?」 


 ペッタさんの体にネバネバの鉄球がヒットする。

 これは……アンヌの【粘着する星スティッキースター】だ!


「くそっ! なんだこれはキモチワルイ!」


「なぜこんなに早くスキルを使えるんだい!? さっきまでは死亡フラッグがダミーに生えていたから、すべての攻撃が引き寄せられる危険性があったはずなのに……!」


 ……あっ!

 確かにダミーが消滅している!

 おそらく小技を放ってフラッグが生えた敵の位置を探り、その後障害物ごと大技で破壊する作戦だったのだろう。

 この作戦の良さはガー坊に生えた場合でも攻撃を無駄にしないことにある。

 ガー坊が分身を生み出せることはマッドスライムCORE戦でバレているし、ダミーなら小技の段階で撃破可能。

 たった1体のダミーにバフまでかけた奥義なんてもったいなさすぎるからな……。


 それにしても、アンヌの攻撃は速かった。

 ハタケさんたちが小技でダミーを破壊するのと同じくらいのタイミングでスキルを放たないと、さっきのようにペッタさんの攻撃を妨害するのは難しい。

 しかし、それをすると味方に攻撃が飛んでいく可能性があったはず……。


粘着する星スティッキースターはネバネバで敵を引っ付けるだけのスキル! 勢いよくぶつけても表面のネバネバが衝撃を吸収してダメージはありません! つまり、攻撃力はゼロ! 死亡フラッグの効果は受けないんです!」


 なるほど……!

 防御系の効果と同じく、ノーダメージの妨害効果もまた【死亡フラッグ】の効果をすり抜けられるんだ。

 だからアンヌは行動が早かった。

 【死亡フラッグ】を使おうが使うまいが影響はないから……!


「このまま振り回して地面に叩きつけます! 物体への衝突ダメージや落下ダメージもまた死亡フラッグで引き寄せることは不可能なはずです!」


 アンヌがペッタさんをくっつけたままの鉄球をぶんぶん振り回す。

 残酷だが、確実なキル方法だ……!


「ペッちゃん! なんて残酷なっ……! 今助けてあげるわっ!」


「オネエさんの相手は私よ!」


 シンバはネココが抑える。

 ペッタさんはアンヌが倒す。

 ならば俺は……。


「み、みんな! 一体ボクはどうすれば……!」


 ハタケさんを……倒そう。

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