Data.184 弓おじさん、奥義乱舞

「おいおいおいおい! お前っ、死亡フラッグが味方にも生えるなんて聞いてなかったぞ!」


 ペッタさんがブチ切れている……!

 まさか、知らなかったのか!?

 味方が犠牲になるのを覚悟の上で運頼りのミラクルエフェクトを連発してると思っていたから、これは驚いた。


 驚いたついでに、ここはこのまま口喧嘩を聞こう。

 流れの中で【死亡フラッグ】の詳しい効果をポロッとこぼす可能性もある。

 範囲内の敵味方区別なくランダムで頭に旗が生え、生えたプレイヤーにはすべての攻撃が引き寄せられるというのが俺の推測だが、フラッグが生えるプレイヤーに何らかの基準があるなら、それを知っておきたい。

 このままじゃハタケさんと運勝負を続けることに変わりはないからな。


「すまない、わざと話さなかったんだ」


「な、なんでだよ! 仲間だろ?」


「だって、効果を知ってたらみんなソワソワしないかい? ボクらの投稿したドッキリ動画のコメント欄には『仕掛け人がソワソワし過ぎ。こんなの気づかれる。これヤラセだろ』ってコメントが結構多いような気がするのだよ」


「そ、それは……だなぁ………」


「ドッキリを仕掛けられる方のボクはみんながソワソワしてるようには感じなかったけど、世の中の人は案外ソワソワに敏感みたいなのだよ。だから、運が悪ければ全部の攻撃が自分に飛んでくるミラクルエフェクトをさも敵にしか効かないように見せかけるには、完璧なるポーカーフェイスが必要だったのさ」


「む、むぅ……でもさ。ソワソワしてても効果まではバレないんだから、あらかじめ話しておいても良かっただろ?」


「おじさまはすごいプレイヤーなんだ! きっと……いや、絶対に気づかれるのだよ!」


 過大評価されてる……!

 流石にソワソワしてるというだけで【死亡フラッグ】を味方殺しの技だと判断することは出来ない!

 普段ならまだしも、こんな人目につく戦いでソワソワするのは当然だしな……!

 そりゃもうみんなソワソワしてるよ!


「おじさまは強い! ボクがおじさまに勝っているところといえば、みんなによく言われる運の良さしかないじゃないか! 自覚はないけど、すごいとウワサの運を使わなければ、おじさまには勝てない……! だから、ボクは……乱立させるのさ! 死亡フラッグ!」


 ペッタさんとの会話を打ち切ってまでミラクルエフェクトを使ってきた……!

 仲間同士で頭を見て確認し、生えてる人がいなければ腕で×バツマークを作る。

 どうやら、仲間に死亡フラッグが立ったプレイヤーはいないらしい。

 ということはつまり……また敵の方に生えている!


 奥義を使わなければ……!

 といっても【天羽矢の大嵐】と【風神裂空】は使用済みだ!

 【アイムアロー】で突っ込むのは危険だし、【インドラの矢】は落ちてくるまで時間がかかる……。


「ガトリング・インフェルノアロー! ガー坊、ミサイルフィッシュだ!」


「私の飛び道具の奥義は……ええい、爪ミサイル!」


「えっと、転がる夜明けの星球ローリングデイブレイクスターとかどうでしょうか!」


 奥義に次ぐ奥義の乱発でみんな高火力が出せなくなってる。

 とはいえ、すべてがクリーンヒットすれば軽装の後衛職くらいキルできる……!


「ミラクルエフェクト……音符おと社交界ソサエティ!」


 ペッタさんを中心にパーティ全体を取り囲むような五本の線が展開され、その上を無数の音符たちが踊る。

 数本の矢がそのダンスをすり抜けたが、ほとんどの攻撃は音符にかき消される形で消滅した。

 なるほど、攻撃能力がない防御系の効果は【死亡フラッグ】の影響を受けないのか。


 あのミラクルエフェクトの防御を破るにはミラクルエフェクトの攻撃が一番だが、ここで使ってしまってもいいものか……。

 防御系の効果は時間経過で消滅する。

 【死亡フラッグ】が生えている以上、あっちも攻撃に転じることはできない。

 ここはジッと待ってミラクルエフェクトを温存するのも賢い選択か……。


「助かったよペッタ! 待ってて、今度こそは相手の方に生やして見せる! 僕の運で……」


「やめとけ、どうせ無理だ。お前は昔からそうだった。強く望むと途端に運から見放される。なんでも上手くいくなら、お前はすでに大金持ちの億万長者、行く手を阻むものは何もないはずだからな」


「で、でも、こうするしか……」


「ハタケ! お前はお前でいいんだよ! 慣れないことなんてするな。いつも通りのお前が最強なんだ! そりゃ、リーダーの自覚を持てとか、チームで一番人気だから頑張れとか言ってきたけど、それを真に受けて真面目になる必要はない! そういうのは周りの役目だ!」


「……ふっ、わかったよ。ボクって案外考えながら動くのが苦手だなって思ってたところさ。ここからはいつも通り純粋な気持ちで……死亡フラッグ!」


 えっ!? 今の話の流れで【死亡フラッグ】を封印しないの!?

 それどころか普通に連発!?

 い、いかん……! 流れを持っていかれる……!

 とにかく誰に旗が生えたか確認しなければ……!


 ガー坊には生えていない。

 アンヌも生えていない。

 ネココは……。


「あ」


 ネココの頭……ネコミミとネコミミの間に小さな黄金の旗が生えている……!

 本当に純粋な気持ちになれば上手くいくっていうのか……!?

 そんな馬鹿な……。


「やったよペッタ! キミの言う通りにしたら上手くいった!」


「そういう話じゃなかったんだが……。やっぱすげーよお前。俺のミラクルエフェクトの効果はもう切れる。その分も頑張ってくれよ!」


「もちろんさ!」


 奥義が来る……!

 こっちは攻撃に使いすぎたせいで防御に使えるものが……。


見えざる猫まっしぐらインビジブル・キャットウォーク!」


 ネココが物陰から飛び出しダッシュ!

 スゥ……とその姿が消える。


「おいおいおい、これじゃどこに攻撃していいのかわからないぜ!?」


「迷うことはないさ! 姿は見えずとも死亡フラッグの効果は発動している! みんな適当に攻撃したまえ!」


「イヤッ! おやめなさいっ!」


 沈黙を貫いていたパラダイスパレードの3人目、ターバンを巻いたアラビアン風の見た目に金のシンバルを持つ『シンバ・ドット』が叫ぶ。


子猫キトゥンの狙いは撃たせた奥義を引き付けて私たちに当てることよっ! あのスピードならそれが可能だわっ!」


 オネエ口調だ……!

 まあ、最近では珍しくもないというか、大VR時代では多いとすら言える。

 リアルでもそうな人もいれば、キャラ付けのためにやってる人もいる。

 強烈に印象に残るし、何より強そうに見えるからな……!


「でも、攻撃しないと狙われるのはこっちだぜ!?」


「音と土煙に気を配りなさいっ! 全力疾走してれば隠すことは出来な……っ!」


 シンバの体が宙を舞う。

 その体から……首が切り離された……!

 ネココの攻撃で首を斬られたのは確かだが、なぜグロ設定を抑えている俺の目にも首が飛んで見えるんだ!?

 と、とにかくこれでさらに1人敵を減らせ……。


「な・る・ほ・ど! 死亡フラッグはタッチすることで別の人に移せるのねっ! そして、それはスキル奥義で生み出されたダミーでも構わないっ!」


 ドロンと煙の中からシンバが姿を現す。

 さっき首を飛ばされたのは……人形だ!


「忍法・変わり身の術っ! 斬られたダミーの方にフラッグが移っているのを確認したわっ! ハタちゃんのとっておきのミラクルエフェクト……思っているより応用が利くものかもっ!」


 アラビアンで、オネエで……忍者なのか!?

 でも武器はシンバル……!?

 こんな組み合わせも実現できてしまうNSOの自由度もすごいが、思いついたこの人もすごい……!


「あらぁ~、アタシのうわべに面食らってる場合じゃないわよぉ? 本当にすんごいところは……テクニックってね!」


 ここまでの戦いでシンバは無言だったうえ、スキル奥義もシンバルを用いた音技しか使っていなかった。

 つまり、この人は温存するだけの余裕と実力を兼ね備えているってことだ……!


「運試しって楽しいけど、そろそろガチンコでやりましょ? なんてったって、アタシらはすでにベスト16の猛者なんだからさっ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る