Data.182 弓おじさん、運命の力
あのハタケさんが3回戦の相手……!
彼はゲームが特別上手いとか、装備をガチガチに固めてるとか、仲間が優秀とか、そういうのとはまた違った強さを持っている。
とにかく彼を中心に物事が回るというか、非常に強運の持ち主なんだ。
言動もどこか不敵でナルシストと思われがちだが、実際は非常に謙虚。
だが、運命が彼を派手にする……!
下手に人柄を知っている分、ある意味『
向こうはゲームが上手くて装備も強い、仲間もおそらく優秀だが、それ以上のことは知らない。
だから、それ以上恐れることもできない。
でも、ハタケさんが真剣になって勝利を追い求める姿を想像してみよう。
すると勝利の女神が彼のもとでほほ笑む以外の結果が想像できない……!
「3回戦はさらに試合が減ってますから、手早くアーカイブを確認しましょう」
これまでのハタケさんたちの試合を見る。
パーティには
短い青髪と中性的な見た目が特徴的な彼女は、相変わらずハタケさんに振り回されているが、それが結果的に勝利につながっている。
この一見無意味な行動が勝利につながる運の良さ……俺もその術中にはまったことがあるから怖いんだよなぁ……。
「キュージィさん、不安そうですね。あなたはこのハタケというプレイヤーとパーティを組んだことがあると聞きましたが、何か弱点とかありませんか?」
「うーん、弱点は割とあるというか……プレイング自体はそこまでだと思う。隙も結構晒すし、戦闘中に迷うこともよくある。でも……なぜか強いんだ、これが」
「いますよね~、そういう人! なんか妙に運が良いというか、間が良くていつも得してる人! きっと、幸運の星のもとに生まれてきたんですよ!」
俺としてはアンヌも同じカテゴリーの存在なのだが、どうやら本人には自覚がないらしい。
この『自覚がない』というのは、ハタケさんもそうなんだよなぁ……。
ゆえに運に頼った行動を自分からしない。
無意識……いや、幸運を願わない無欲こそが運を引き寄せるのか……。
「この人って陣取りでおじさんと一緒の陣営だった人だよね?」
「ん……ああ、そうだよ」
「じゃあ、幸運はこのハタケって人にだけ起こるものじゃないんだね。だって、陣取りのMVPは結局おじさんだったんだからさ。私としては、おじさんの方が幸運の星のもとに生まれてると思うんだけどなぁ~。あの時の私を1人で撃退したのも運のおかげ……っていうのは負け惜しみかな」
あの時というのは、陣取りでネココと対峙した時のことだろう。
確かに俺は1人の状態だったし、見えないネココの奇襲に気づいてそれを回避し、さらに追い払うことが出来たのは運が良かったと言える。
あそこで普通にキルされていたら運命はまったく違うものになっていただろう。
場合によってはこの場にいない可能性まである。
「まっ、何が言いたいかっていうと、私たちだって相当に運が良いってこと! 勝てると思っておけば勝てるわ! もうここまで来たら精神論でもなんでも使うの!」
「僕はもっとシンプルに考えています。運なんて気にすることはない。積み重ねてきた物を信じるべきです。そちらの方がずっと強いはずです」
ネココとサトミの言う通りだ。
ここまで来て『運の良さ』なんてオカルトの領域のことに怯えている場合ではない。
みんなに俺の知っているハタケさんとペッタさんの情報を伝えよう。
些細なことでも何でもいい、これが俺たちの勝利を引き寄せてくれるはずだ!
「でも、私……運って存在すると思うんですよね」
作戦会議が終わった後、アンヌが話題を蒸し返した。
そうだった……彼女はオカルトの領域の話が大好きだったんだ……!
「運というのは絶対の数値で、使ったからといって増減ずるものじゃないというのが私の考えです。ゲームで例えるなら、高いほど良いことが起こりやすくて、低いほど悪いことが起こりやすいステータスで、MPのように減らないんです。攻撃とか防御と同じカテゴリーですね。そして、それを上げるには……特定の行動や装備が必要なんです!」
めっちゃ語ってる……!
「この科学世紀でも開運商法が絶えないのは、人が本能的に『運』というステータスが存在することを知っていて、それを上げる方法も存在すると知っているからです。商売を成り立たせるには売るものが存在するのはもちろんのこと、それに価値があることを多くの人が認識している必要がありますからね。まあ、中には存在しない虚構のものに価値を持たせて売ることもありますが、そういうものはいずれ滅びます。開運商法が古来よりずっと生き残っている理由はズバリ、本当に運気を上げるものもどこかに存在するからです! でも、言い過ぎかもしれませんが、今世の中に出回っている開運アイテムなんかは大体デタラメです。あぁ……幸運の星はどこにあるのでしょうか……。誰もが追い求めるのに誰もその答えを知らない……。なんてオカルティック!」
やばい、断片的にしか聞いてなかった……。
アンヌはまだしゃべりたそうな顔をしている。
ここはうまく丸め込まないと……!
「なるほど、つまり俺たちの運気を上げてくれるのは……仲間だってことか!」
なんてロマンティック……かどうか怪しいセリフが俺の口から飛び出した。
アンヌはきょとんとしている……!
「た、確かに! 人との関係は追い求めても手に入らないことも多いですし、お金とかで無理やり結んでも不幸を招くことが多い! でも、良い繋がりはお互いを幸せにします! 人生とは結局どんな出会いをするかだ~みたいなことを偉い人が言ってた記憶もありますし、運気を上げるには人と繋がりが必要というのは、核心をついているかもしれませんね! 流石キュージィ様です!」
よーし、上手く丸め込んだうえにパーティの士気を上げることにも成功した!
適当に言った言葉だったが、確かにこれが真実かもしれない。
でも、何事も運だけでは勝てない。ゲームでもそうだ。
求められるのはプレイングと鍛え上げたステータス、スキル奥義。
運よく攻撃を回避できることがあっても、当たった時にはただダメージ計算が行われ、その結果HPがゼロになるならおしまい。運が絡むことはない。
俺は弓おじさんだ。運命すらも捻じ曲げて、ただ矢を当てるのみ……!
『本選トーナメント3回戦第6試合! 『パラダイスパレード』VS『
モニターに映し出される巨大な滑り台、ジャングルジム、ブランコ、あの……木の板を吊り下げて作った揺れる足場を渡ったり、太い縄で作られた網を登ったりいろいろ遊べる複合遊具などが表示される。
おじさんの俺でも人目を気にせずに遊んだら楽しそうだなと思うフィールドだ。
子どもたちにとってはまさに夢の空間だろう。
反面、ずば抜けて高い場所や、壁にできそうな頑丈な建物が少なく思える。
これは俺にとって少し向かい風か……。
「大丈夫ですよキュージィ様! いざとなれば私が壁になりますから!」
「アンヌ……ありがとう。頼りにしてる!」
今の俺には頼もしい前衛がいることを忘れてはいけない。
それに壁にできそうな物がないということは、俺の射撃を遮れる物も少ないということ。
強気に攻めれば……いける!
『両パーティをバトルフィールドへ!』
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