Data.169 弓おじさん、立体交差上の戦い

「くっ! 逃がさねぇぜ!」


 コアの声が下から聞こえてくる。

 スナイパー相手にここまで接近できたんだから、向こうも引き下がるわけにはいかないだろう。

 蛇のようにしつこく、狡猾に俺を追い回してくることは明白……!


 でも、俺としてはこの状況で戦いたくない。

 すでに距離を詰められてる以上、とにかく逃げるのが正解だ。

 ならば【ワープアロー】や【アイムアロー】で一気に距離を取れば良いのでは?


 答えはノーだ。

 移動した先に敵がいる可能性もあるし、矢の軌道を見られたらどこにワープしたかはすぐバレる。

 それにこのルールではガー坊を引っ込められない。

 【ワープアロー】では置いてけぼりにしてしまう。

 また、味方殺しが可能なので抱きかかえて【アイムアロー】で逃げるとむごいことになる。


 まったくいきなり不利な状況……か?

 冷静に考えればガー坊がいるんだから人数的にはこっちが有利だ。

 第3進化を終えて装備を一新したガー坊のスペックはプレイヤーに劣らない。

 流石に単体でコアのようなリーダー格の相手は難しいかもしれないが、隣に俺がいる。

 不利な要素……なくないか?


「ちょっと臆病になり過ぎてたかもな……!」


 俺だって優勝候補と囁かれ、恐れられるプレイヤーだ。

 たまには胸を張って強敵を迎え撃つのも悪くない!


「ガー坊、ストップ!」


 十分に距離は取れた。

 これより迎撃を開始する!

 標的はマッドスライムのリーダー『コア』!

 彼は今、まっすぐ道路を走っている!


「小手調べだ! ガトリング・インフェルノアロー!」


 地獄の炎で燃え盛る矢を連続で放つ。

 これをどう防御するのか、また回避するのかでおおよその戦闘スタイルがわかる!


「おっ! やっとやる気になったかよ! でもぬる過ぎんだよなぁ! とぐろ巻く蛇腹コイルベローズ!」


 蛇腹剣の刃がコアを取り囲み、ぐるぐると高速回転する。

 矢は回転で切れ味を増した刃に阻まれコアに届かない。

 なるほど……攻撃は受け止めるタイプか!


 ならば対処は簡単。

 受け止めきれない攻撃を当てればいい!


巨大雷の矢ビッグサンダーアロー!」


 切り捨てられても電気で感電させられることに期待した【サンダーアロー】と、1本のでっかい矢を撃つだけという超シンプルな新奥義【ビッグアロー】を融合。

 このデカくてビリビリする矢は簡単には切れないぞ!


「こりゃでけぇ! でもノロマだなぁ~。噛みつく蛇腹バイトベローズ!」


 蛇腹剣の先端が蛇の頭に変化する。

 コアはそれをまっすぐ伸ばし、立体交差の他の道路の端っこに噛みつかせた。


「こういう避け方もできんだぜ?」


 蛇腹を縮める勢いでコアは宙を舞う。

 そのまま他の道路に着地するつもりだろうが……そうはいかない。


 【ビッグアロー】の長所短所は当然把握している。

 長所はそこそこの威力と大きさによる威圧感、そして気軽に撃てるクールタイム1分!

 短所は大きさゆえの視認性の高さ、そして愚鈍さだ。

 コアのことはまだよく知らないが、本選に残るようなプレイヤーが回避できない奥義ではない。


 だが、手軽でも奥義は奥義だ。

 受け止めるなら防御の奥義、相殺するなら攻撃の奥義が必要になる。

 向こうも手の内を1つ見せてくれればそれで良し、見せない場合は……確実にスキルで回避しようとしてくる。

 道路は決して広くない。デカい矢の攻撃を避けようと思えば、他の道路に飛び移るしかない。

 そう、狙いは最初から空中におびき出すこと!


「ガー坊! ミサイルフィッシュ! 俺は……雷鳴天羽矢の大嵐サンダーアローテンペスト!」


 空を覆い尽くさんばかりの射撃攻撃の合わせ技!

 多少空中を移動できる能力があったとしても、この飽和攻撃からは逃れなれない!


「……やっぱすげぇわあんた。もうあの頃の面影はねぇんだな。今じゃ立派なトッププレイヤーだ。素晴らしいよ」


 力を認めて負けを受け入れるようなセリフ……。

 だが、その顔は何か愉快なもの見るように笑顔だった。


「奥義・巨大丸呑蛇腹アナコンダベローズ!」


 今度は剣の先端だけでなく、剣そのものが蛇の口に変化した!

 でっかい口だ……!

 立ったままの人を丸飲みできそうなくらいグワッと開かれている!


「一気呑みだ! アナコンダ!」


 蛇の口は周辺の矢とミサイルをどんどん吸い込んでいく……!

 これは対射撃攻撃用の防御奥義なのか!?


「ちっ……! ちょっと呑みたりねぇな。まあいい! 吐き出せ! アナコンダ!」


 一度閉じられた蛇の口が再び開かれる。

 そして、中から濃い緑色のエネルギー弾が吐き出された!

 呑み込んだ攻撃だけ威力を増すタイプのカウンター奥義……!


「ガー坊! 万弓マンボウ展開!」


 『コバンザメシューター』にかわるガー坊の新たな武器『万弓マンボウ』!

 本当は弓以外の武器にしようと思っていたが、あまりにもナイスなネーミングに思わず選んでしまった!

 ガー坊の周りをフワフワと泳ぐ巨大な弓は、まさにマンボウのような形をしている。

 そもそもリアルのマンボウもあの上下のヒレが弓っぽいと前から思って……いたりいなかったり。


「照準は敵の奥義! 放て! 太陽魚の矢サンフィッシュアロー!」


 『万弓マンボウ』が放った矢は、もはや矢に見えない。

 それもそのはず、矢は太陽のごとき光の球体に包まれているからだ。

 やたらまぶしく、やたら大きな太陽は……やたら遅い!


 【ビッグアロー】よりもさらにのんびり屋さんのこの矢は、言い換えれば発動時間が非常に長い。

 その場に居座って盾や目くらましの役目を果たせるのだ。

 俺が普段使う奥義はとにかく高速で消費されるものなので、正反対の効果を持つ奥義を獲得することで戦略の幅が広がった!


 ジュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!


 【太陽魚の矢サンフィッシュアロー】がコアの放った奥義と衝突し、一方的に消滅させた。

 遅い分、威力は十分!

 このまま【太陽魚の矢サンフィッシュアロー】を目くらましに追撃を開始する!

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