Data.168 弓おじさん、地を裂く蛇腹

『本選トーナメント1回戦第23試合! 『マッドスライムCOREコア』VS『幽霊組合ゴーストギルド』! 選ばれたフィールドは……近未来都市!』


 観戦用モニターに映し出されたのは天を貫く無数の摩天楼。

 その間を縫うように伸びる道路、飛び交うドローン。

 かつて人類が思い描いた未来都市がそこにあった。

 まあ、実際の未来都市はもっと効率とか安全を考えた無難な建物が多い。

 ド派手な建物は観光地にちらほらあるくらいだ。


 それにしても、パッと見た感じ高台たくさんあるなぁ……!

 ビルの隙間から敵を狙い撃つスナイパーの姿が頭の中に思い浮かぶが、同時に遮蔽物の多さも気になる。

 死角ばかりなので敵に接近するのは難しくなさそうだ。

 うーむ、これは仲間たちに守ってもらいつつ後方支援が最適かも。

 孤高の暗殺者であるスナイパーもまた暗殺者に狙われやすい。


 ……よし、今考えられることはこれくらいだな。


「さあ、勝ちに行こう! 目指すは優勝だけだ!」


 年長者として緊張している若者たちに呼びかける。

 これまでに行われた面白い試合と、俺たちの試合は当然比較されるだろう。

 観客として楽しんだ分、そのプレッシャーは大きくなっている……!


「深く考える必要はないさ。目指すは勝利だけでいい。勝ちさえすれば俺たちにとってこれ以上ない面白い試合になる……!」


 自分に言い聞かせるような言葉に、仲間たちも賛同してくれた。

 やることはやったんだし、何が起ころうとも恥じることはない。

 負けても夕方に『幽霊組合ゴーストギルド、初戦敗退』っていうネット記事が投稿され、結構な

反響を呼んで拡散されるだけさ。

 ……それは嫌だなぁ!


『両パーティをバトルフィールドへ!』


 幽霊組合ゴーストギルドは近未来都市へワープした。




 ◆ ◆ ◆




「……っと!」


 ワープ先は……どこだ?

 どうやら道路の上のようだが、やけに高いところにあるな……。

 バトルフィールドとして作られた道路にはガードレールがなく、道の端から飛び出せばそのまんま地上に落下することが可能だ。

 恐る恐る道路の端っこに寄り、下をのぞき込む……。


「ここは……立体交差ジャンクションだ!」


 いくつもの道路が空中で絡み合う場所『立体交差ジャンクション』!

 外側から眺めても、その上を走っても感動するんだよなぁ……!

 特に夜は素晴らしい。あらゆる方向に行きかう車のライトが流れる星のようだ。

 ただカッコイイ建造物というだけでなく、人の役に立つために最適な形というのが良い!

 カッコイイだけのオブジェならいくらでもあるが、効率を追求した結果の姿があれだというのがたまらん!


 まあ、ここは人類が思い描いた近未来都市なので、多少無駄な装飾が見られるが、それでも立体交差はカッコいいのだ……って、うっとりしている場合じゃない!

 仲間が見当たらないぞ!

 これはもしや、パーティが散った状態で戦闘を開始するパターンか!?

 だとすれば、早めに合流しなければ……!


 とはいえ、このあらゆる意味で見晴らしの良い立体交差というポジションを捨てるのももったいない。

 周りには高い建造物もなく、射線が通っている。

 出来れば仲間をここに集めたい……!


「ガァー! ガァー!」


「おっ! ガー坊! 近くにいたのか!」


 ワープする位置自体はユニゾンもランダムだが、ユニゾンたちには味方の位置がわかっているらしく、ワープ後に近くの味方の元まで移動するらしい。

 その味方というのは、本来ユニゾンを連れているプレイヤーとは限らない。

 俺の近くにワープしていたのは純粋に幸運だな!


 ガー坊はすでに【ブルーオーシャンスフィア】を発動し、俺の元に向かってくる。

 1人で寂しかったのかな?

 ……そんなかわいい反応なら良かったのだが、おそらく違う。

 あれはパートナーの胸に飛び込むために急いでいるのではない。

 誰かに追われているんだ……!

 じゃなきゃ、いきなり主力奥義は使わない!


「退魔防壁! 狙撃の眼力!」


 不意打ち対策にバリアを展開した後、ガー坊の背後を見渡す。

 道路の上にはガー坊だけだ。まっすぐに俺の元に向かってきている。

 背後に人影はなし。だが、透明化してる可能性もある。

 ここは【封魔縛陣】でトラップを設置するか、【浄魔滅光】のレーザーで広範囲を薙ぎ払ってみるか……。


 ガガガガガガガガガガガガッ!!!


「なんだ……っ!?」


 突然、俺の目の前の道路が裂け、下から蛇のようなものが飛び出してきた!

 いや、よく見ると蛇じゃない!

 鎖? 刃? ワイヤー?


「蛇腹剣だ!」


 分裂する刃をワイヤーでくっ付け、ムチのように振り回す武器!

 道路は真下から巨大な蛇腹剣でカチ割られたんだ!

 これでガー坊とは分断され……!


「ガァー! ガァー!」


「流石のスピードだ!」


 ガー坊は道路が完全に破壊される前にこっちまで来ていた!

 【Bオーシャンスフィア】はまだ発動中なので、即座にしがみついてこの場から退散する!

 もう懐に潜り込まれた以上、逃げるが勝ちってね……!


「ちっ! くそぉ! 狙いが少しズレてたかぁ! 真下から攻撃するってことは俺もあんたが見えてねぇからしゃーねぇだろ!」


 勝手に攻撃して、勝手に外して、勝手に怒って、勝手に言い訳してる……!

 そんなツッコミの前に、この声は……コアだ!

 いきなり敵パーティのリーダーと遭遇してしまったか……!

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