Data.110 弓おじさん、これが答えだ!
景色がグルグル回る……!
サーペント・パレスを飛び出し、さらに高度を上げていく……!
というか、サーペント・パレスには空を飛んで遠くに逃げられないようにバリアとか張ってないのか?
それとも、この奥義は一度高く上がって落ちてくることが確定しているから、見逃されているのか?
……おそらく後者だ。
【インドラの矢】は高く撃ち上がるほど威力を増す。
それをバリアで制限してしまってはフェアじゃないからな。
まあ、その奥義を利用して天高く飛んでいこうなんて考える奴がいるとは運営も想定してないかも知れないけど……!
いや、今はそんなことより上昇時間が思ったより長いことを気にするべきだ。
【アイムアロー】か【インドラの矢】に射程を伸ばす効果が隠されているのか!?
元いたサーペント・パレスがそもそも高所にあるので、地上との距離は想像を絶するほど離れている。
もはや大地より宇宙の方に近いんじゃないか……!?
冗談じゃなくて本当に地平線が丸くなってきたぞ!
このNSOの世界もリアルと同じ丸い惑星なんだな……とわかる高さまで来てしまった!
空も深い青色へと変わっていく。もうすぐ宇宙か?
な、なんかバグってるんじゃ……!
「……あ」
ほんの一瞬、動きが止まったような気がした。
空と宇宙の狭間で、重力とか回転とかいろんなしがらみから解放され、自由になった気がした。
何かを極めた人間がたどり着く『ゾーン』とでも言うのだろうか?
景色も今ならハッキリとわかる。
俺がいつも冒険している大陸。
ガー坊と出会った南の海。
足しげく通う霧深山脈はこの高さからでも見える。
相変わらずモヤモヤした山だ。
逆にシャキッと天に向かって伸びる風雲山も見える。
他にもハッキリとはわからないが、ここらへん行ったことがあるなぁって場所がある。
十二の試練を巡り、いろんなところに行ったなぁ……。
でも、こうやって高いところから見下ろしてみると、まだまだ知らない場所もたくさんある。
RPGの王道である火山や雪山はこの世界にも存在している。
初期街よりもデッカイ街も各地に散らばっている。
まだまだ冒険し足りないなぁ……。
ガクッと体が重力に掴まるのを感じた。
体が再び回転を始め、今度は頭が地面の方を向く。
あ……これヤバそうだぞ……。
「うわぁああああああああああーーーーーーーーーっ!!!」
あの静寂の感覚はどこへやら。
俺は情けなく叫びながら落ちていった。
まるで重力に捉えられた星屑のごとく……。
◆ ◆ ◆
『まぁーったく、あんな負け方するとは思わなかったにょんねぇ!』
俺たちは勝利した。
つまり、あの【スターダストアロー】でチャリンのHPを削り切り、ゼロにしたのだ。
今までで一番の死闘と呼ぶのにふさわしい戦いだったと思う。
5人いたこちらの戦力は倒されたり、合体奥義のクールタイムに入ったりで俺1人になっていたし、俺も最後に爆発の中に飛び込んでHPを削られている。
まあ、削られたといっても装備が守ってくれたので自滅の危機はなかった。
その分、装備は結構
何よりネココとサトミの装備がボロボロになっている中、俺だけ無傷なんてのもバツが悪い。
2人が前で必死に戦ってくれたから俺は勝てたんだ。
貢献度で言えば俺なんて大したことはない。
美味しいところを持っていっただけだ。
『それも連携もおぼつかない個性をぶちまけただけのパーティ相手にねぇ!』
チャリンは『ジ・オリジン』でも、コスプレチャリンでもなく、普段のチャリンだ。
なんだかんだこの姿が一番かなと、いろんな彼女を見てきて思う。
きっと、熱狂的なファンはとっくにこの境地にたどり着いているんだろうなぁ。
結局ノーマルが一番……って。
それはそれとして、ちょっと不機嫌になってる?
いや、そんなことはない。
この生の感情むき出しなのが彼女の本来の姿だ。
『でも……だからこそ私は負けたんだと思うにょん。セオリーとか、連携とか、常識とか、そんなのを無視しためちゃくちゃなパーティなんだけど、どこかでつながっていた……そんな気がするにょん』
ソロで鍛えた個性の奇跡的な融合……それが『
集まった理由はプレイスタイルの合致だけど、あの戦いの時のつながりは勝利への執念だったと思う。
ユニゾンたちを含めパーティ全員が勝利だけを目指して動いていたから、最後にとんでもない連携を生んだ。
『試練を乗り越え、最後の決戦にうち勝った素晴らしいプレイヤーたちに私から『MEメダル』をプレゼントするにょん!』
天空から3つのメダルが俺、ネココ、サトミの元へ飛来した。
金色のメダルの表には、イベントを完全クリアしたことを証明する黄道十二宮の記号が描かれている。
あの星座占いの時とかに出てくる独特の記号だ。
他にも各試練を思い起こさせるイラストが刻まれていて、これを見るだけでこのイベントの思い出がよみがえってくる感動の逸品だ。
そして、裏面には……なんだこれは?
なぜイベントと関係ない『
『そのメダルはただの記念品じゃないんだにょん! 所持していることでスキルや奥義を超えた奇跡の力『ミラクルエフェクト』が発動可能になるとってもすごいメダルなんだにょん!
「スキルや奥義を超えた奇跡の力……。具体的にどう違うのかな? それに所持しているとってことは、装備する必要はないってことかい?」
『スキルや奥義との違いは……まあ、より強力で制限がキツイと思えばいいにょん。そんなまったく別の存在ってわけじゃないにょんねぇ。そして、装備する必要はないにょん。最初は装飾枠に装備することにしようと思ったり、新たにメダル枠を作ろうかと思ったけど、所持しているだけで使える設定にしたにょん。あんまりコラボアイテムが出しゃばるもんじゃないと思ったにょん』
そうか、一応このイベントはコラボイベントだったな。
別にNSOのイベントでも違和感がないから忘れてたけど。
『あと今回の『持ち物制限』みたいに限られた数のアイテムしか持ち込めない時に、この『MEメダル』を持ち込むかどうかの駆け引きが生まれるんじゃないかなーって思ったりして。まあ、コラボアイテムって扱いが難しいにょんねぇ。限定品みたいなもんだから、必須になると後からゲームを始めた人たちから不満の声が上がるにょん』
「その時はまたイベントを開けばいいじゃないか。2回目のコラボイベントをね」
あ、俺としたことが軽々しく言ってしまった。
コラボって通常のイベントのように『はい、もう一回やりましょう!』と二つ返事で進むものではないとわかっているのに……。
でも、チャリンは妙に嬉しそうな顔をしている。
『その通りにょんね! 需要があるなら何度でもやりゃあいいんだにょん! こっちは問題なし! いつでもできらぁ!』
チャリンはぐっと拳を握る。
やはり、彼女は良くできた人だ。
AIだけど人なのかって?
人で間違いないさ。
AIだけどヒューマンドラマ……だな。
『あ、そうそう! 渡した『MEメダル』のデザインと効果はプレイヤーごとに違うんだにょん! これがまた扱いがややこしい原因なんだにょんねぇ……』
「え!? じゃあ、ネココやサトミのメダルは俺と違うってこと?」
チラッと2人のメダルを見ようとすると、サッと手で隠されてしまった。
盗み見るような挙動が悪かったことは百も承知だが、俺たちは仲間だ。
力を合わせて勝った勝負で獲得したメダルくらい見せ合いっこしてもいいのでは……?
「ダメよ、おじさん。私たちはソロ向けイベントの時は敵対することもあるんだから、あんまり手の内は見せちゃいけないの」
「でも、今回くらいはいいんじゃない?」
「気持ちはわかるけど、やっぱダーメ! 切り札として秘密にしておきたいわ。だって、私の猫又を見た時のおじさんの驚いた顔ったら……ねぇ、サトミくん?」
「僕の
半分だけなのか……。
「やはり、僕らはお互いのことを完全に理解しない方が力を発揮できると思います。ソロでオンラインゲームを楽しみたい人って、人に気を使いたくないと同時に、人に気を使わせたくないという気持ちも強いんだと思います」
「あー、確かにね」
「だから、知らない方がいいんです。スキルとか奥義とか弱点とか知ると、自分以外のことにも気を使ってしまうし、使わせてしまう。全体のことを考えて動くなら連携まで打ち合わせすべきですが、それは僕たちのスタイルじゃありませんからね」
サトミの言うことは正しい。
もし俺が彼らのスキル奥義を全部把握していたら、それをいつ使うのか、弱点をどうカバーするのかと常に考えてしまう。
自分の手札すらどう使うのか悩みながらなのに、これじゃあこんがらがってしまう。
1人のプレイヤーとして最適な行動を続けていれば、結果的にそれがパーティ全体のためになる……。
そんな感じでいいんじゃないかな、俺たちは。
それはそれとして、2人がどんなメダルを貰ったのかは気になるんだよなぁ……。
いずれ知る機会があると信じて、今回はグッと我慢するか……。
ここでしつこいおじさんは嫌われそうだ。
『コホン! それではみんなを地上に帰すにょん! イベントはまだ続いてるし隠し迷宮もあるにょん! まあ、隠し迷宮は本当におまけ要素だから、各迷宮の近くに絶対あるみたいな法則性はないにょん! 普通に冒険してたら偶然見つかるみたいな運命に期待するにょんねぇ』
俺も道を間違えたから見つけたんだったな、隠し迷宮。
これも物欲センサーが働いて探そうとするとなかなか見つからないんだろうなぁ……。
『星のかがやきよ! 勝利者たちを未来へと導け!』
体が光に包まれる。
これで地上に降ろしてくれるんだろうな。
……今日だけで何回光に包まれて星になったんだろうか、俺。
「しばらくお別れですね、キュージィさん。今回の試練、そして最終決戦でまた新たな課題が見えてきましたよ。今度集まる時は、キュージィさんに頼りっきりにならないようにもっと強くなりたいですね」
「こちらこそ君とゴチュウに頼りっきりだったさ。後衛は前に誰かがいてくれるから後衛なんだ。自分の前に誰もいなきゃ、どれだけ距離が空いていてもいずれ詰められる。チャリンとの戦いでそれを痛感したよ。俺も今度はみんなに捨て身の攻撃なんてさせないようにもっと強くなろうと思う」
「私もまだまだ強くなるつもりよ! 星の試練は乗り越えられても、星より遠い叔母様の背中はまだ見えない……。でも、いつか追いついて……追い抜いて見せる! それこそ直接対決で倒しちゃうんだから!」
ネココの叔母さんの動画は俺も見た。
正直、軽い気持ちで『絶対に追いつける!』なんて励ましの言葉をかけられないほど遠い世界の人だと感じた。
でも、追いつけないと言えるほど俺はまだネココのことを知らない。
若い彼女には無限の可能性がある。
そして、実は俺にも……あったりするのかな?
「まあ、楽しくゲームをやってれば、その内なんとかなるさ!」
「な、なにそれ? ちょっと励ましの言葉としては雑じゃない!?」
「いや、これが俺の答えだ!」
体がふわりと浮き上がる。
そろそろ普段の冒険に戻る時間だ。
「2人ともありがとう! 次もこのパーティで!」
「バイバーイ! 楽しかったよ!」
「また、どこかの戦場で」
幽霊たちは地上に散った、さらなる強さを求めて。
1つの戦いが終わり、また新たな戦いが始まる。
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