Data.107 弓おじさん、本当の決戦
『ではでは、前回同様バトルをどこから始めるかを決めてね!』
それも打合せ済みだ。
俺のスタート位置は前回とまったく同じ岩山の上だ。
岩山の下にはガー坊を配置する。
サトミはその少し前、ネココはさらに前だ。
チャリンを俺に接近させないことを最優先に考えた陣形。
頼りにされてるってことだが、それだけに責任も大きい。
でも、俺は妙に落ち着いていた。
『ほほう、何がやりたいのかわかりやすい陣形ね! 本当にこれでいいのかなぁ~?』
「問題ないよ!」
ネココが返事をする。
チャリンはうんうんとうなずき、カウントダウンを開始する。
10秒はすぐに過ぎ去った。
『バトルスタート! さて、初々しいパーティでどこまで戦えるかな! 手加減はしないわよ!』
むぅ、流石はいくつものパーティを相手にしてきたチャリンだ。
このパーティでの戦闘経験がないことを見抜いている。
『4人パーティにはもれなく防具をフル装備!』
足にブーツ、体にローブ、頭にヘルムを装備するチャリン。
それぞれコレクト・ゾディアック装備だ。
武器はやはり双剣。これが彼女の基本武器のようだ。
接近するチャリンに対して、ネココは走り出しフッと姿を消す。
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これを使って敵に気づかれないように接近し、弱点である首を鋭い爪で切り裂くのが彼女の得意技だ。
ほぼ同時にサトミも姿を消す。
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非常に頼もしい2人なのだが、2人とも姿を消すスタイルなので孤独感がすごいな……。
見えている仲間がガー坊とゴチュウだけなので、俺の方がユニゾントレーナーみたいだ。
でも、確かに彼らはそこにいて、今まさに戦おうとしている!
俺も矢をどんどん撃っていくぞ!
『悪くない連携ね。人はどうしても見えている物に注意がいく。前衛と中衛のプレイヤーを消すことで残った後衛に視線を奪われるけど、実際攻撃を仕掛けてくる前衛と中衛がいなくなったわけじゃない。相手が混乱してしまう状況を生み出すのは対人戦でかなり有効……でも!』
チャリンはぴょんとはねた後、両足で地面を強く踏んだ。
その瞬間、地面が波打つ……! まるで水のように!
これがブーツの奥義か……!?
『それらの奥義はすでにソロの時に破っているわ! 一応連携にはなっているけど、結局は3人がそれぞれソロと同じ戦法を続けてるだけよ! これでは私は倒せない!』
地面が波打つことで2人の奥義が解除される。
ネココとて波打つ地面の上で全力疾走なんて不可能だし、サトミも接地判定だけは消せないので地面に動かれると体も動いてしまう。
まさに浮足立っている2人に対し、チャリンは攻撃を仕掛けようとする。
「爆裂空!」
【バーニングアロー】+【裂空】の融合奥義。
狙いは彼女の手だ。
体は防具に覆われていてダメージを軽減される。
むき出しの手を狙えばダメージも入り、しばらくは武器も持てなくなるので一石二鳥!
『それは読めてるわ!』
チャリンは双剣で矢を受けた。
だが、俺もそこまでは想定している。
コレクトソードの効果でそっくりそのまま【爆裂空】を返すつもりだろう。
その動作をしているうちにネココもサトミも態勢を立て直せる。
時間稼ぎとしては十分なうえ、コレクトソードの効果を使わせることでしばらく前衛がカウンターに怯える必要がなくなる。
俺の方も【矢の嵐】の融合奥義を返されることなく撃てるようになるが、ネココとサトミの位置取りを考えると巻き込みそうで安易には撃てない。
やはり前回のようにチャリンが飛び跳ねて接近してくるルート上に設置するように矢の雨を降らせるのが得策か……。
常に先を考えながら体も動かす。
帰ってくる【爆裂空】を避けるべく岩山の上にうつ伏せになりながら、次の一手を……。
『来なさい斧!』
チャリンは俺の予想を裏切り、双剣を引っ込めた。
そして、斧を呼び出し野球のバッターのように体をひねる。
斧の刃が黄金の光に包まれ、巨大化していく……。
フルスイングでネココもサトミも薙ぎ払うつもりだ!
「スパイダーシューター・クラウド! ウェブクラウドアロー!」
武器を切り替えスキルを放つ。
その構えでネバネバの網は避けられまい!
しかし、斧の刃が放つ熱で網は消滅してしまった。
ならば次は……!
「おじさん! 私との約束を忘れないでね!」
波打つ地面に揺られているネココが叫ぶ。
それは俺を安心させるための言葉ではなく、注意に近い。
彼女にはきっと策があるのだろう。
ならば俺は俺の仕事を続けよう!
力を溜めるため動きが止まったチャリンにとにかく矢を当てていく。
チャリンは矢が素肌に当たっても顔色一つ変えないし、傷も大してつかない。
ただ、これは倫理的な問題でこうなっている可能性が高い。
見た目は少女なチャリンを血だらけのボロボロにする様子をコンテンツとして提供するのはいろいろマズイからな……。
攻撃は効いていると思い込もう。
とにかく矢を撃ち続けるんだ……!
『奥義・
巨大な光の刃がぐるりと周囲を薙ぎ払う。
とんでもなく素早く鋭いスイングだったので、光の残像が目に残り、まるで光の輪がそこにあるかのように錯覚する。
当然ネココやサトミがいた場所も光の範囲内だ。
2人の姿は……見えない。
『うぐっ……!』
チャリンが膝をつく。
ローブの首周りには5つの切れ目、まるで爪で引っかかれたような……。
「これは隠しておきたかった。少なくとも多くのプレイヤーに見られる戦闘では……。でも、やっぱりそうもいかないみたい」
姿を現したネココの姿は……変わっていた。
2本の尻尾が生え、手足はネコそのものに近くなり、目の周りに赤いラインが引かれている。
この姿はまるで……妖怪みたいじゃないか!
「【妖怪変化:猫又】……。効果は『種族』を人間から猫又に変える!」
これがネココの切り札……!
猫少女から本物の猫を通り越して化け猫に変わるとは……。
「僕らはチャリンさんに瞬殺されてしまいましたから、全力を出せずじまいだったんですよ。まあ、ソロで全力を出しても勝てるとは思えませんでしたから、むしろ良かった」
サトミも生きている!
消えた光の残像の下から現れた彼は、まるでリンボーダンスのバーをくぐるような姿勢で喋っている。
まさか、ああやって斬撃を回避したのか?
光速のスイングを反射的に体をのけぞらせて避けるなんて、まるで映画のようだが……。
「これが僕の奥の手、楽の極地『思考停止』を実現する【
多くのゲームに採用されている『オートバトル』というシステムが、NSOにおいてはスキル奥義として実装されているのか!?
な、なんと奥深いというか、常識破りというか……。
でも、面白いのは間違いない……!
どちらも詳しい効果はよくわからないが、奥の手というのだから面白い以上に強力なのだろう。
そして、強力ゆえにデメリットも存在するはず……。
高ぶった感情を抑えて、冷静な俺に戻れ。
まだ勝負は始まったばかりだ。
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