Data.66 弓おじさん、AIの助言

『挑戦の前に言っていた通り、今回のご褒美は2つ! 早速プレゼントするにょん! まず1つ目は……『暗黒の狼牙』だにょん!』


 おおかみ座……野獣の試練というだけあって、クリア報酬は狼の牙ときたか。

 手渡された牙はその名の通り真っ黒で、通常の狼の牙より大きくて鋭い。

 おおかみ座の元ネタとされるリュカオンの逸話を聞いた後なので、この牙が雷に撃たれて焦げた物ではないかと勝手に想像してしまう。


 そういえば、さっきのゼウス戦の味方の狼たち……役に立たなかったなぁ。

 まあ、普通の狼に神の相手をしろと言うのが酷か。


 さて、このアイテムの使い道は……わからない。

 『使う』コマンドが出てこないので、スキルを覚えるためのアイテムではないようだ。

 無加工の牙なので無論装備アイテムではないし、回復アイテムでもない。

 またまたいわゆる素材系のアイテムか。

 そういう系のアイテムがたまって来てるし、そろそろ本腰を入れて使い道を調べないとな。

 『暗黒の狼牙』を収納し、チャリンに次のアイテムをお願いする。


『2つ目は……『裁きの雷』だにょん! ビリビリしてるけど触っても問題ないにょん!』


 手渡されたのは稲妻の迸る鉱石……なのか?

 雷そのものが固まった物という表現が似合う謎のアイテムだ。

 ビリビリしないと言われても、こんなにビリビリされると体が勘違いしそうだ。


 とにかく、さっき牙と同じように使い道を調べよう。

 うーん、これだけエネルギーの塊って感じだから、てっきり雷系のスキルを覚えられると思ったが、そうでもないようだ。

 俺にもお休み中のガー坊にも『使う』という選択肢は現れない。

 装備が出来ないことも確認した。

 つまり、今回も素材……ということだ。


 いつかきっと役に立ってくれると信じているが、使い道すらわからないというのはもどかしい。

 チャリンに聞いたら何か知っているかもしれないが、彼女は運営側だし攻略情報を聞いてはいけないだろう。

 自分で答えを見つけるため、冒険を続けよう。


「今回も楽しかったよチャリンちゃん。アイテムもありがとう。あと、ヒントもね」


『どういたしましてだにょん!』


 礼を言ってその場を離れる。

 目指す場所は依然として変わらず、黄道十二迷宮の1つおとめ座の処女迷宮だ。


『もしかして……そのまま次の迷宮に行くつもりだにょん?』


 背後からチャリンが声をかけてくる。

 ちょっと驚いて俺は振り返る。


「そのつもりだけど……」


『その装備……結構ダメージが蓄積してるように見えるにょん!』


「えっ!?」


 俺は自分の体をじっくりと眺める。

 確かに風雲装備はところどころが黒く焦げていたり、小さく破けていたりする。

 いつの間にか、こんなにダメージが蓄積していたのか……!

 確かにゼウスの雷が体をかすめたことはあったが、これほど影響があるとは思わなかった。


『装備へのダメージっていうのは、敵の攻撃の威力ではなく種類によって大きく変わるものなんだにょん! 中には一撃でキルされるような威力の攻撃なのに、装備にはほぼ影響なしなんてこともあるにょん!』


 俺は海で戦った……というか一方的に殺された蒼海竜のことを思い出す。

 あの竜の『潮流のブレス』は一撃で俺を葬ったが、装備には影響がなかった。

 つまり、ゼウスの雷は装備への影響が大きい攻撃だったのか。


『装備へのダメージはちょっとなら見た目には反映されないにょん。わざわざボロく見せる処理も大変……じゃなくて、ちょっとしたミス程度でいちいち装備の見栄えが悪くなるとプレイヤーさんも萎えるにょんね』


 3Dはゲームでもアニメでもダメージ描写が面倒だと聞く。

 近年はロボットアニメも3Dが主流だが、ボロボロになる描写はやはり2Dの迫力に負けている気がする。

 そういう意味ではNSOのダメージ描写はかなり気合が入っているな。

 見ていると早く直してあげないとという気持ちになってくる。


『キミの装備は致命的! 直さないといずれ壊れるにょん! 壊れた装備は素材と職人の手によって直すことが出来るけど、修理と復元では支払う対価に雲泥の差があるにょん! 壊れる前にこまめに直す! これ基本だにょん!』


 本来は他のゲームのAIだというのに、相変わらずこのゲームのことも詳しいな。

 だが、装備の修理に関しては俺も知識がある。

 知識はあっても、今までは超遠距離攻撃という戦闘スタイルのおかげで装備が傷つくことが少なかったから修理する必要がなかったのだ。

 ただ……必要になったところで実行できない理由もある。


「装備の直し方は俺も把握してる。でも、風雲装備は初期街や港町の施設では直せないんだ。理由はおそらく素材不足だと思うんだけどね……」


『50点の回答にょんね』


「え?」


『もちろん素材は必要にょん。風雲シリーズはレアな装備! それだけレアな素材を集めなければならないにょん! それと同時に腕のいい職人の力も必要だにょん!』


「腕のいい職人……? 初期街の職人ではダメなのか?」


『ダメだにょん。この世界の各地に隠れ住む優れた職人でなければ、一定以上のレア度を持つ装備は『修理』も『復元』も『進化』も『強化』も出来ないにょん!』


「そ、そうだったのか……」


 今まではただ単にまだ必要な素材が足りないから修理が出来ないと思っていたが、本当はそのアイテムを扱える職人に出会っていないせいだったのか。


『ここまで言ったから教えちゃうけど、素材アイテムは素材同士の組み合わせで新たなアイテムに変わることもあるにょん。でもでも、レアな素材はやはり特別な職人の手でしか組み合わせることが出来ないにょん!』


「あの使い道がわからないアイテムも、いい職人の手にかかれば強力なアイテムに生まれ変わるかもしれないという事か……って、こんなに俺に教えて大丈夫?」


『流石に特別にアイテムをプレゼントしたらマズいけど、情報ならある程度は問題ないにょん! そもそも特別な職人の存在自体は結構知られてるにょん。ただ、その職人に依頼できるほどレアな素材や装備をみんな持ってないだけだにょん。キミと逆にょんね!』


「まあ、ありがたいことに運には恵まれてるようでしてね。その分、とんでもない敵にもどんどん出会うけど……」


『ふっふっふっ、そんな運の良いキミにとっておきの情報だにょん! 腕のいい職人を探すのなら、西の霧深きりみ山脈に行ってみるにょん。まるで仙人が住むような霧深い高山なら、きっとスゴイ職人さんもいるはずだにょん!』


「それはまた良い情報を……って『きっと』?」


『そう、きっとだにょん! 信じるか信じないかはキミ次第ってことで! ばいばーい!』


 チャリンがフッと消えた。

 さっきまで騒がしかった森の中が急に静かになる。

 最後の最後で情報をぼかしてきたな。

 イタズラ心からなのか、言える範囲のギリギリを攻めたからなのか……。

 どちらにしろ、俺は彼女の言葉を信じることにする。


 仙人の住む『霧深きりみ山脈』とやらに行ってみよう。

 このままではどこかの試練で風雲装備が完全に破壊されかねない。

 『黄道十二迷宮』の大きな特徴はイベント期間が長いことだ。

 少し寄り道しても問題ないだろう。

 なんといっても、イベント主催者の助言だから……な。

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