Data.53 弓おじさん、磨羯の試練
やぎ座に対応する迷宮なので、ヤギが本来住むような場所に設置されているのだろう。
だが、そこに向かわされるプレイヤーは大変だ。
落っこちれば何かに引っかかることなく一番下までころがっていきそうな崖のそばの道を進んでいかなければならない。
断崖絶壁というのは雲の上とはまた違う恐怖感がある。
俺も含め、みな腰が引けている……。
そんなプレイヤーたちを尻目に、山に住むヤギたちは壁のような崖のわずかな出っ張りに足をかけてぴょんぴょんと上に登っていく。
ゲーム内にいるのはあくまでもヤギ型のモンスターだが、リアルの野生のヤギもすごい身体能力で岩肌を登るらしい。
おとぼけキャラみたいに思われがちだが、ヤギってすごいんだなぁ。
『さあさあ!
2、3人落下するところを見て肝を冷やしたが、本当の試練はここからだ。
ヤギの頭を模した被り物とアルプスに住む少女のような服を着たチャリンの後ろには、山肌をくりぬいて作られた遺跡が見える。
『
みずがめ座の試練は変わり種だったが、ここは王道の試練のようだな。
俺としてはむしろその方がありがたいかもしれない。
『しかーし! そこはイベントダンジョン! 普通のダンジョンとは違うルールがいくつか存在するにょん! まず1つ目! このダンジョンに入れるプレイヤーは最大で2人までだにょん!』
人数制限だと……?
そもそもダンジョンは異空間に複数存在し、パーティごとに別々のダンジョンに振り分けられる。
ダンジョン内で他のパーティと出会うことはない。
そして、このシステムを採用している理由の1つは、フィールドより狭いダンジョンを混雑させないためだ。
そこからさらに2人だけに絞る意味があるのか?
よほどダンジョンが狭いのか?
『ルール2つ目! プレイヤーは1人につき1頭の白ヤギさんを連れて行かないといけないにょん!』
「……へ?」
チャリンの説明によると、この試練にはストーリーがあるようだ。
童謡のように手紙が来ても食ってしまう白ヤギさんは、直接要件を伝えるためにダンジョンの奥に住む黒ヤギさんに会いに行く。
プレイヤーは白ヤギさんを危険から守り、送り届けなければならない。
黒ヤギさんはなんてところに住んでるんだというツッコミは置いておいて、人数制限の理由はわかったな。
白ヤギさんもプレイヤー扱いなんだ。
正確にはゲストユニゾンとでも言うべきか。
このダンジョンではユニゾンも1人のプレイヤーとして扱われる。
パーティの最大人数は4人。
白ヤギさんはプレイヤーごとに連れて行かないといけないから、プレイヤー2人でヤギが2頭……つまり、強制的に4人パーティになってしまうんだ。
『白ヤギさんをダンジョンの奥にいる黒ヤギさんに会わせるのが試練だから、当然白ヤギさんがキルされた時点で試練は失敗! その時点でダンジョンの外へワープだにょん! でも、特に失敗のペナルティはないから何度でも挑戦するにょん!」
ペナルティがない……ねぇ。
最初からやり直しになることが十分ペナルティな気がするが、言わないでおこう。
それにしても、ユニゾンもプレイヤー扱いということは、ガー坊もパーティの1枠を使うってことか。
もし誰か他のプレイヤーと組むならガー坊は引っ込めなければならないし、連れていくヤギも2人分の2頭になる。
それなら俺とガー坊でダンジョンに潜って、1人と1匹で1頭のヤギを守る方がやりやすそうだな。
『ちなみに、今回のご褒美の条件はヒ・ミ・ツだにょん! まあ、その時になれば間違いなくピンとくるにょん!』
チャリンの説明が終わり、プレイヤーたちはぞろぞろとダンジョンの中に入っていく。
白ヤギさんとはダンジョン内で合流らしい。
さて、あまり良い予感はしないが……。
「メェー」
その出会いはダンジョンに入ってすぐだった。
まだモンスターが出ない最初の広間で『白ヤギさん』は待ち構えていた。
「メェー」
普通の白い毛のヤギだ……!
俺がイメージするヤギそのもので、外国の品種だったり、モンスターだったりはしない。
このヤギを守りながらダンジョンを攻略しろと言うのだ。
「メェー」
「……やるしかあるまい」
白ヤギさんのステータスは確認できないようだ。
ただ、名前は『白ヤギさん』で頭の上にHPを表すゲージは表示されている。
このゲージが空になったら試練失敗。
やり直しというわけか。
立ち止まっていても仕方ないので歩き出す。
白ヤギさんは首につけた鈴を鳴らしながらついてくる。
足はなかなか速い。全力疾走しても難なくついてくるというか、地上においては俺やガー坊より足が速いだろう。
だって、ヤギだもんな。
「おっと、やっぱり敵は出るよな……」
白ヤギさんばかり観察してるわけにもいかない。
石造りの古代遺跡ダンジョンということで、敵はゴーレムなどの岩石系が多い。
ゴーレムのことはよく知っている。
動きは遅いが非常に頑丈でパワーがある。
接近戦は分が悪い。ガー坊にも射撃メインで立ち回らせて、俺も爆発を起こす【バーニングアロー】を中心に……。
チリンチリンチリン……
鈴の音だ。
しかも、この鈴って……。
「し、白ヤギさん……!?」
白ヤギさんがゴーレムに突撃している!?
なんでだ!?
ま、まさか……申し訳程度に攻撃スキルを持っているから、敵に反応してしまうのか……?
俺の予想は当たってしまった。
申し訳程度のオーラをまとった白ヤギさんはゴーレムに体当たりを仕掛けた。
もちろんゴーレムはノーダメ。
その太い岩の腕を白ヤギさんに向けて振り下ろさんとしている。
「ガー坊、赤い閃光! 俺も……裂空!」
ガー坊の口から貫通力に優れる赤い光線が放たれる。
俺も貫通力に優れる【裂空】を放ち、ゴーレムのコアを撃ち抜く。
ゴーレムは機能停止。光となって消えた。
白ヤギさんは無事だった。
いや、HPが少し減っている。
あの体当たり、反動があるのか……。
これはゲームにおいてかなりもどかしい気持ちになる事案『操作できないNPCを守らないといけない系』だ。
特にシミュレーションRPGなどでよく見られる。
NPCが弱過ぎれば簡単にやられるし、逆に強すぎても敵を全部持っていかれて経験値やアイテムを得られなくなる。
そのうえ、NPCを生き残らせることによって評価が上がったりするともう大変。
幸い、このゲームはVRMMOかつRPGなのでまだなんとかなる。
俺の射程は長い。白ヤギさんが突撃しようとしてる敵を先に遠くから排除すればいい。
そして、ガー坊も白ヤギさんについて動くように命令する。
こうすれば突撃を許しても最悪ガー坊が盾になってくれる。
このダンジョンは岩石属性の敵が多いし、岩石属性は魔法より物理攻撃をメインにしている。
物理耐性に優れるガー坊なら攻撃を受けても心配はいらない。
「メェェェー!」
白ヤギさんはやる気満々とでも言いたげに鳴く。
やる気を出されると困るが、それを言っても理解してくれないだろう。
ヤギとお魚を引き連れ、俺は本格的に
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