Data.48 弓おじさん、共同戦線

 映画とか漫画だと普通にやってるけど、屋内戦闘って大変だな……!

 なにより狭いし、移動しようとするところに敵が立ちふさがっている。

 俺の場合はさらにこの戦闘スタイルだからな……。


 キィィィィィィーーーーーーッ!!


 いつぞや俺の首を噛んだウサギ型モンスターが襲い掛かってきた。

 『アリス』モチーフだからウサギの敵を出したかったのだろうけど、このウサギ陣取りにもいたよな?

 使いまわされまくってるな……。一応服を着せてそれっぽくアレンジしてあるけど。


「ガー! ガー!」


 俺に近づく敵はガー坊が処理してくれる。

 ネココは進む先に立ちふさがる敵を倒して道を作る。

 ならば俺は……。


「ウェブアロー!」


 ブラッディ・マリーの足止めに集中しよう。

 とはいっても、ウェブアローをいとも簡単に引きちぎるくらいにはパワーアップしている。

 もう恐怖の方向性が変わって来てるな。今は単純に強敵として怖い……!


「階段を下りるよ! 転ばないようにね!」


 流石に階段を下りながら弓は撃てない。

 一度構えを解いて一気に下りていく。

 すると、先ほどまではループしていた景色が明らかに変わる。

 エントランスに玄関が見える。

 扉は閉まっていて出られそうにないが、ここが一階であることは間違いない。


 しかし、まだカードは下の方に引っ張られている。

 やはり目的地は地下だ。


「あっちに地下への階段があるよ! 急いで急いで!」


 ネココの足は速すぎる……!

 速さに相当振ってそうだから当然だが、油断すると置いていかれる。

 階段も何段飛ばしするんだか。

 その数の階段を飛ばしても足腰にダメージが入らないのは十代前後までだ……。


「ガー! ガー!」


 ガー坊も【オーシャンスフィア】を発動してない状態だとネココにはついて行けないな。

 逆に発動していれば追いつけるのだが、クールタイムを考えて温存している。

 なんとなくだが、このまま出口にたどり着いて即脱出って気がしないんだよなぁ。


「地下に到着! でも、今度はカードが真横に引っ張られてる……」


 大きなお屋敷がこの鏡の空間のモデルだからか、地下も結構広いな……。

 カードが引っ張られる方向に素直に進む。

 お宝探しに寄り道をする必要はない。

 なぜなら地下室の扉は開かないものばかりだからだ。

 ここに追っ手が来ると隠れる場所がないな……。


「んっ! ここだ! ここは扉が開く!」


 ネココがゆっくりと扉を開ける間、俺は背後で弓を構える。

 ……何も襲ってこない。案外あっさり脱出できるか?

 そのまま部屋に入り扉を閉める。

 外から足音がする……。追っ手は諦めていないようだ。


「鏡だ。デッカイ鏡があるよ」


 その部屋は物置のようでずいぶんと埃っぽい。

 しかし、俺の身長よりも頭一つ大きい鏡だけはピカピカの状態で鎮座していた。

 ここに来るのも鏡なら、脱出するのも鏡か。

 納得のオチがついてこれでハッピーエンド……かと思いきや、扉の前に2体の影が立ちふさがる。


 その影の姿は……俺とネココだ。

 鏡写しの自分、シャドウがこの世界のボスってわけだな。


「裂空!」


 俺は……ネココの影を撃ち抜いた。

 走っている間だけ透明になるのならば、走り出す前に仕留める。

 それだけの話だ。


「はは~ん? おじさんもなかなかわかってるじゃん!」


 ネココの方も俺のシャドウの首を切り裂いていた。

 まるであの時を再現するかのように。


「一回やったことあるし、楽勝なのよね。はぁ……あの無敵女もこれくらい簡単に倒せたらなぁ~」


 それ、まだ根に持ってるのか……。

 俺が呆れたような、面白いような、複雑な笑みを浮かべていると大鏡が光り輝いた。

 そのまま俺の視界は真っ白になった。




 ◆ ◆ ◆




 視界が戻ると、俺たちは鏡石の洞窟に戻って来ていた。

 鏡の世界に迷い込む原因を作った『ミラーゴースト』は、俺たちの帰還を確認するかのようにしばらく浮遊した後、フッと消えた。

 やつは敵モンスターというより、完全にギミックの一種のようだ。

 この洞窟を探索し終えたプレイヤーを鏡の世界にいざなう装置であり、帰る際の出口となる。


「ふぅ……。厄介な無敵女に追われて、骨折り損のくたびれ儲けかと思ったら、そんなこともないようね~」


 ネココは即行でステータスウィンドウを開いていた。

 何かあったらすぐにステータスやアイテムを確認するとは、つくづくゲームに慣れているなぁ。

 俺の場合はイベントとかクエストをクリアできた喜びで満足してしまうから、報酬の確認が後回しになることがある。

 まあ、それも俺のスタイルだから悪いとは思ってないけど。


「やった! グロウカードが増えてる……! って、なんで〈血濡れのブラッディ・マリー〉のカードなのよぉ!?」


 攻略した場所由来のカードが手に入るのは普通だが、彼女の場合は妙な縁に恵まれてしまったらしい。

 俺の方は……。


「こっちもグロウカードだ。えっと……〈鏡写しのミラアリス〉か」


 カードには2人の金髪美少女が描かれている。

 どういう効果か、ネココを見習ってすぐに確認しておくか。


 ◆鏡写しのミラアリス

 プレイヤーの分身を生み出す。

 分身には移動や簡単な動作を命令できるが、攻撃能力はない。

 ダメージを受けるか、次の分身を生み出すと消滅。


 こ、これはデコイスキル……!

 こういうスキルを使いこなせると玄人感が出てくる。

 俺も位置を悟られるとまずいスナイパースタイルだし、ぜひとも使いこなしたいものだ。

 さっそく装備して使ってみよう。


「デコイ、出てこい!」


 今の俺そっくりというかそのままの分身が現れる。

 顔の作り、装備はスキルを発動した瞬間の物を反映するようだ。

 デコイを作った後に装備を外しても、デコイの装備は外れない。


 出来る動作は弓を構える、両手を上げる、手を振る、しゃがむ、などなど本当に簡単なものだ。

 移動は歩きとダッシュを選択できるが、障害物には引っかかる。

 障害物を避けて動くような複雑な移動は不可能だ。


 うーむ、よくよく考えると俺とデコイって……相性良くないかもな。

 幸か不幸か、俺の顔は知れ渡りすぎてる。

 むやみやたらにデコイにを歩かせると、俺が近くにいることに気づかれ、遠距離攻撃への警戒を強めることだろう。

 本物の俺が見つかった後に敵をかく乱して追撃をまく……くらいの使い方が現状ではベストかな。

 逃げたい時に自分と反対方向にデコイを走らせるだけでそれなりに効果がありそうだ。


 クス……クスクス……


 アリスの笑い声……ではない。

 これはネココだ。


「私がいるのに新装備の効果を検証しちゃうって、バレるのが怖くないの?」


「いや、好奇心が勝ってしまってね」


「まっ、嫌いじゃないなそういうの。どこまでも頑固に自分のプレイスタイルを押し通す……。どこか私の尊敬する叔母おば様に似ている。おじさんも『ゲーマー』なんだね」


「ゲーマーか……。考えたこともなかったな」


 まあ、会社を辞めてからこれだけ遊んでれば、世間は俺をゲーマーと呼ぶだろう。

 もしかしたら、もっと酷い呼び方をしてくるかも……。

 なんて、暗い妄想に浸っていたらネココからある物が届いた。


「フレンド申請……?」


「言っておくけど、これから仲良しこよしでパーティを組んでなれ合うって意味じゃないよ。むしろ、これからも自由気ままなスタイルを貫くために役立つ提案……かな」


 ふむ……よくわからない。

 でも、なんかシャレた言い回しだ。

 ここは俺もそれなりの態度を示すとしよう。


「用件を聞こうか……」


 出来る限りハードボイルドな声で言ったつもりだが……スルーされた。

 そりゃそうか、彼女の年齢的にね……。

 俺は普通に話を聞くことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る