Data.15 弓おじさん、次なる段階へ

 ガセに導かれた森から街に帰還完了だ。

 ワープアローがあると移動も早い。


 あの場ですぐクラスチェンジしようかと思ったけど、慣れてないフィールドで隙を晒すのは怖い。

 それに第2職は情報を隠さないといけないほどレアではない。

 発売日からゲームを続けてる人ならほぼほぼ第2職には到達しているらしい。

 これが第3職までいくと事情が変わるみたいだけど。


 さて、公園のベンチにでも座ってクラスチェンジと洒落込もうか。


 クラスチェンジでどの職になるのかをプレイヤーは決められない。

 ゲーム側がこれまでのプレイスタイルから最適な職を判断する。

 俺の場合は大体予想がついてるけど。


「クラスチェンジ!」


『クラスチェンジ承認! 『射手』から『弓使いアーチャー』へ!』


 とりあえずぼんやりと射撃をする職業から、弓をメインにした職業へ。

 派手な変化ではないが、これは大きな一歩だ。

 まずステータスの変化から確認していこう。


 ◆ステータス

 名前:キュージィ

 職業:弓使いアーチャー

 Lv:1/30

 HP:75/75

 MP:75/75

 攻撃:30 防御:16

 魔攻:20 魔防:12

 速度:22 射程:100


 数値はスキルと装備による増加分を抜いたものだ。

 まず、固有ステータスが『射程』のままで良かった。

 初期職20レベル分の強化ポイントをすべてをここに振ったし、変えられるとどうしようもない。

 それ以外はあいかわらず半端なステータス配分だが、全体的に数値が底上げされたおかげで見栄えは悪くない。


 変更点は他にもある。

 スキル【弓術Ⅱ】が【弓術Ⅴ】にランクアップしていた。

 攻撃と射程に+20の補正が+50になった点は見逃せないところだ。


 さらに新スキル【会心の一矢】を獲得していた。


 【会心の一矢】

 一定の確率で弓矢による攻撃の威力が増加する。

 確率はプレイヤーのレベルが高いほど高くなる。


 出ましたよ、確率で攻撃力増加スキル。

 要するにクリティカルみたいなものだな。

 弓使いって器用なイメージがあるから、どうしてもクリティカル率増加とかいう半端なスキルを持たされがちだ。

 でも、確率ってあてにするわけにはいかないから、複雑な気持ちになるんだよな。

 上手く発動して勝利できたとしても、運勝ちみたいな空気になるし。


 まあ、文句を言ってもしょうがない。

 なんでも良いように考えるのが娯楽を楽しむコツだ。

 俺の場合は素の攻撃力が低いので、何発も矢を撃つことになる。

 回数が増えればクリティカルが発生する回数も増えるから、俺と相性の良いスキルだと考えよう


 さて、最後にもう一つ変更点がある。

 これはかなり驚いたのだが、レベルアップで獲得できる強化ポイントが『5』から『10』になっている。

 実に2倍だ。第2職は初期職の2倍の早さで成長する。

 ということでレベル1の時点で持っている『10』のポイントをすべて射程に振る!

 これで素の状態で射程110になった。


「……正直、そこまで強くはなってないかな」


 あ、思わず口から言葉がこぼれてしまった。

 でもこれが正直な感想だし、予想もしていた。


 第2職へのクラスチェンジは非常にハードルが低い。

 時間をかけて遊べば誰でもなれる。

 そして、俺以外にも弓を愛用していて『弓使い』になった人は多くいるはずだ。

 もし『弓使い』が強い職業ならば、その『弓使い』へと分岐する『射手』の評価も上がる。

 でも、現実は不人気職のままだ。


 つまり、『弓使い』の評価も芳しくないということだろう。

 実際ステータスの中途半端さは変わっていないし、そうなるのも納得せざるを得ない。


 『強化ポイント』の倍増は大きな変化だけど、これはおそらくすべての第2職がそういう仕様だと思う。

 『弓使い』だけの強みとは言えない。


 こうして変更点をまとめると微妙のように思えるが、決して悪くはないんだ。

 派手ではないが堅実に強くなっている。正統進化と言えるだろう。


 俺はすでに『射手』である程度の結果を残している。

 その上位互換の『弓使い』になればさらに上を目指せる。

 これからも射程を伸ばし、それ以外はスキルや装備で補う。

 このスタイルを変えることはない。




 ◆ ◆ ◆




「とはいえ、何から始めようかな……」


 フィールドの木に登り、太い枝に寝そべり、流れゆく雲を眺める。

 今日は風が強く流れが速い。それに数も多い。


 鳥型モンスターもたくさん飛んでいる。

 リアルではありえないデザインの鳥を見るのも楽しいものだ。

 その体の構造で飛行は無理でしょ……って鳥も優雅に空を舞う。


 戦闘以外の要素に面白さを見出すのも、MMOを楽しむうえで大事なことだ。

 でも、今すぐ冒険に出かけようと少年の心が叫んでいる。

 新しい装備、確かに早く手に入れたい。


 小耳に挟んだ情報によると、フィールドには超レアモンスターが存在するらしい。

 強さはもちろんのこと、特定の場所、特定の条件が揃わないとそもそも出会うことすら出来ない特別な存在で、倒すとデザインが統一された複数の装備、いわゆる『シリーズ装備』を落とすとのうわさだ。


 超レアモンスター……良い響きだ。

 装備を落とすのも素晴らしい。ぜひとも戦ってみたいなぁ。

 体がうずうずして、思わず矢を空へと放つ。


 キリリリリ……シュッ! キエエエエエエエエエッ!!


 矢は奇怪な鳴き声の怪鳥に偶然命中し、一発で撃ち落とした。

 かなりデカい鳥だったけど一撃か……。

 耐久が低かったのか?


 いや、違うなこれ。

 俺としたことが思いつかなかった。

 弓矢には飛んでる敵に対する『特効』があることが多いじゃないか。

 きっと今の怪鳥にも『飛行特効』が発動して、一撃で倒せたんだ。


 よし、もうちょっと鳥型モンスターを撃ってみよう。

 こいつらってすごい速さで縦横無尽に飛ぶから、上手く当てられるようになればプレイヤースキルも向上しそうだ。


 キリリリリ……シュッ! シュッ! シュッ!


 うむ、当たらない事の方が多い。

 風が強くて流されるのも原因か。


 キリリリリ……シュッ! シュッ! シュッ!


 頭もまあまあ良いやつが多いな。

 雲に逃げ込んでやり過ごそうとするとは。


 キリリリリ……シュッ! シュッ! シュッ!


 ん? 雲に向けて撃った矢が落ちてこないぞ?

 まさか、雲に当たり判定があるのか?

 だったら……。


 ほんの軽い気持ちで【ワープアロー】を使った。


 次の瞬間、俺は雲の上にいた。

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