5-3 少女騎士と受付嬢の奇妙な慰安旅行 その0

 鮮やかな新緑に、滴る赤がある。


 のどかさを象徴するようなだだっ広い草原。そんな風景には似つかわしくない、命の取り合いが行われていた。


「せあッ」


 気勢と共に振り抜いた長剣は、鎖帷子で覆われた敵の喉に突き刺さりそのまま首の骨を砕く。


「――ッ」


 間髪容れず踏み込んで刺突。正確無比なる剣戟が兜の隙間を貫いて敵を沈めた。


「このアマ、よくもッ」


「黙れ」


 背後から振り下ろされたメイスの柄を長剣の腹で受け流し、剣速を緩めないまま首元から袈裟懸けに。男が崩れ落ちる。


 びゅ、と剣が振られ血が飛んだ。


「ひぃ、」


 仲間の血に怯むだけの人間性を持ち合わせていたのが運のつきだ。瞬く間に間合いを詰めていた長剣が、そいつの腹に埋まっていた。


(Specter.D)




 賊討伐。彼女の行いを端的に言い表すのであれば、これ以外の言葉は不適格であろう。現に彼女は、今現在傭兵ギルドで賊討伐の報奨金を受け取っており、勲章(功績に応じた点数のような扱いのもの)の授与が書類上で行われていた。


「今日もご苦労様でした、騎士様」


 受付嬢が当たり障りのない笑顔で聞き慣れた言葉を、聞き飽きたトーンで口にした。


「ああ……」


 騎士様、と呼ばれた少女が魂の抜けたような声で返事をする。報奨金、勲章、その他の細々とした手続き……万事抜かりはない。


「ああ、ちょっと待ってください!」


 事務的な仕事を淡々とこなした甲冑の騎士が身を翻す直前、受付嬢が何かを物申したげな顔をする。


「どうした?」


「いえ……あの……最近、どうですか?」


 他愛のない会話である。


(狐音)




「"多忙"の一言に尽きるかな。前の依頼を解決して息をつく間もなくこれに召集された」


この少女、見た目は年相応に幼いがその腕は国直属の兵士を二回り上回る鬼才児であり、緊急性の高い依頼が率先して回ってくる。


そして、ぶっきらぼうな口調ながら人一倍お人好しな性格も合わさり、時に自分のキャパシティを超えかえないほどの依頼を受け持ってしまう良くも悪くも不器用な人物だった。


「そうですか、本当にお疲れ様です。……あの、慰安旅行じゃないですが隣町の温泉街とかどうですか?」


「悪くはないが一人で行くには少しばかり寂しくはないか?普通、パーティの仲間なんかと行くものだろ?生憎私にはそういった者に心当たりがない」


その圧倒的な才能によりギルドの誰からも尊敬される彼女だが、それと同等の畏怖により近寄りがたい人物でもあり、受付嬢の目から見ても独りでいることが多いという印象だった。


「だったら私と行きませんか?上司に休暇をとれって言われててちょうど明日から3日間休暇なんですよ」


そんな彼女をこの受付嬢は常に気にかけていた。それ故の提案だった。


「あなたが良ければ構わないが、ホントに私なんかと一緒でいいのか?戦うことばかりにしか能のない私といても楽しくないだろう」


「いえいえ、きっと楽しいですって。むしろ私が楽しませます!」


「…わかった。それでは集合は明日の正午門前の駅でいいか?」


「はい、よろしくお願いします」


こうして硬派な少女騎士とお節介受付嬢という奇妙な取り合わせの慰安旅行が計画されたのだった。


(AffE)

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