殺人鬼、異世界へ。

じおん

幸せとは

人の身に生まれ落ちて、数十年。一度も幸せというものを手にしたことがなかった。家族は自らの手で殺めたし、友人も恋人もその他の人も消し去った。苦しみと痛みはとうの昔になくなった。今、自分の中にあるのは殺人への執着と死への懇願。終わらせたい。終わらしてもらいたい。あと何年、何十年生きれば終わる。あと何人、何十人、何百人殺したら終わらせてもらえる。自らの手で消し去った者共の憎悪よりも自らに対する被虐心が増すばかり。自分で刺しても痛くない。自分で撃っても死ねない。

他人に殺してもらいたい。

他人に終わらせてもらいたい。


そうだ。

捕まればいいのだ。


捕まれば、今までの行いで確実に殺してもらえる。今までの行いが役に立つ時が来た。

執着が役に立つ時が来た。


警察署に足を運んだ。

警視庁に胴を入れた。

裁判所に手を出した。

刑務所に頭を預けた。


これで完璧。これで準備万端。

思惑通り、死刑一直線。

世論は、大炎上。

警察は信用ガタ落ち。

万々歳。


終わりが楽しみになった。

死が楽しみになった。

死に近づくに連れ、幸せになった。

あと何十日。

あと何日。

あと何時間。

あと何分。

死が近くなるとわくわくした。


死刑執行人が話しかけてきた。

怖くないのか?と。

何を恐れる必要がある。

何か言いたいことはあるか?と。

いっぱいある。たくさんある。多くある。

まだ話してないことばかりだ。

まぁいい。一言。一言伝えよう。


「今が一番。幸せだ。」


高笑い。大笑い。大爆笑。

知らなかっただろう?

わからなかっただろう?

理解できないだろう?


死がこんなにも幸福なことを。

終わりがこんなにも美しいことを。


お前らは、わからないだろう。


幸せとは死なのだ。





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