けものばけもの、君

朱里 窈

けもの(1)

秋風の 吹いたあとには 雪降るか


11月になってから少し経ち、冬服に慣れてきて炬燵を出そうか考え始めた頃のなんでもない日の夜21時に、そのメッセージは僕のスマホに届いた。 そのとき僕はシャワーを浴びていた。浴室に入ってすぐの頃だろうから多分水がお湯に代わるのを見届けていた時だと思う。狭い浴室を出て寝間着を着て罪深きデザート、駅前のケーキ屋のエクレアを口にしながらスマホを点けた時に僕はそのメッセージに気付いた。

メッセージは所謂SNSの中でも一般的な連絡に使うアプリだ。その拙い五七五を送った人は全く知らない人だった。エクレアを口に運びながらその人のアカウントを確認する。名前はshichikusa。プロフィール画像は画用紙に描かれた茶トラの猫…の死体の絵。誕生日は11月8日。プロフィールコメントは「わたし」の3文字のみ。タイムラインの投稿は一切無し。以上だった。プロフィールから得られた物は何も無かった。…強いて言うなら趣味が悪いということだけ。あと誕生日。もう過ぎてる。年は書いていなかった。

アパートの外からバイクの小五月蝿い音が響いた。いつか母に買ってもらったカーテンを捲り窓の外を望む。窓の外の空にはいやに綺麗な三日月があるだけだった。星の見えない空を仰ぎながらエクレアを食べ終えた僕は、眠気眼を擦ってスマホを握った。


三日月に 叶えてもらえ 正夢を


文章を考えるより先に指が綴った文字をshichikusaに送信して僕はココアを飲み干して床についた。

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