Rewrite Edition 3

第97話 産業コロニー『クレイドル』

「なあ、ここって惑星じゃなくて、コロニーなんだよな?」


 レヴィアースは空を見上げながら隣に居るマーシャに問いかける。


 温かな陽射し。


 そして美しい晴天。


 所々に雲まである。


 辺りは美しい緑が植えられている。


 ここが居住可能惑星ではなく、宇宙空間に作られた人工的な産業コロニーだと言われても、にわかには信じられなかった。


 隣を歩くマーシャはにこにこしながら頷く。


「まあ、気持ちは分かる。コロニーに初めて来る人間の反応は大体そんな感じだから」


 マーシャの方は慣れているらしく、この景色に対して特に驚くことはないらしい。


「やっぱり他の人間も驚くのか?」


「今頃はオッド達も驚いているんじゃないかな」


「というか、いいのかな。またオッド達を置き去りにして」


「自由行動でいいって伝えてあるから、いいんじゃないか? 私はレヴィとデートしたかったし」


「むぅ……」


 そう言われるとレヴィとしても悪い気はしない。


 オッドの方にはシャンティとシオンの子守だけ押しつけてしまった形になっているが、その内何らかの形で報いればいいだろう。


 なんだかんだで、面倒見のいいオッドは子守もそこまで嫌がってはいないようだし。


「まあ、そうだな」


「うん。そうだぞ♪」


 ぎゅっと腕にしがみつくマーシャ。


 胸の感触が素晴らしい。


 こうやって堂々といちゃついてくれるようになったのも最近のことなので、レヴィもかなり嬉しい。


 今まではやはり遠慮していたのだろう。


 素直に甘えてくるマーシャは可愛くて、ところ構わずもふもふしたくなる。


 流石に外では自粛しているが。


 それに今のマーシャは腰巻きとカツラを着用中なので、可愛らしいもふもふは露わにしていない。


 それがとても残念だった。


「空気の匂いが違ったり、風の流れが不自然だったり、分かる人には分かると思うんだけどな」


「待て。そんな微妙な違い、普通の人間には分からないぞ」


「そういうものかな?」


「間違いなく」


 亜人の鋭敏な感覚を通常の人間と共有出来ると思ったら大間違いだ。


「今回は部品を仕入れたらすぐ出て行くんだっけ?」


「うん。そのつもりだけど。もうちょっと長居するかもしれない」


「なんで? 早くロッティに戻りたいんじゃないのか?」


「そりゃあもちろん、一度は戻りたいと思っているけど。でも急いでいる訳じゃない。こうやっていろんなところを旅するのも面白いしな」


「そういうものか?」


「そういうものだ。レヴィは違うのか?」


「俺もまあ、今が楽しいことは否定しないけどな。まだ心が現実に追いついていない感じだ」


 楽しむよりも戸惑いの方が大きい。


 マーシャと一緒に居ることの戸惑いではなく、仕事もせずに気ままに宇宙を旅している『ヒモ』みたいな現状に心が追いついていないのだ。


 ヒモ男万歳と思えるほど、レヴィの神経は太くない。


 だからといって仕事こそ我が命、などと言えるような仕事中毒ワーカホリックでもないのだが。


 要するに、適度に仕事をしていて、適度な収入を得て、そこそこの生活をしている状態が一番落ちつくのだ。


 つまり、心の底から庶民気質なのだ。


 そんな庶民気質を自覚して、レヴィは内心でため息をつく。


 兆単位の金額をぽんと出すような彼女がいるのに、庶民気質のままだというのは不味いと思う。


 感覚のズレは、感情のズレに繋がりやすい。


 些細なことで喧嘩になったりしたらかなり気まずい。


 だからといって己の価値観は簡単には変えられない。


 だからこそ、のんびりと順応していくつもりだ。


 無理をしてもロクなことにはならないのだから、レヴィなりのペースで慣れていくべきだろう。


「そんなに落ち着かないなら、ロッティに着いたら仕事は山ほどあると思うぞ」


「え?」


「ロッティに戻ったらPMCの連中が黙っていないと思うし。ハロルドとか、イーグルとか」


「うわあああああ……」


 七年前の悪夢を思い出して頭を抱えるレヴィ。


 当時はまだ小さかったマーシャとトリスを保護して、ロッティに連れて行った時、縁を結んだリーゼロック系列のPMCの隊員達から、徹底的に模擬戦を申し込まれたのだ。


 何せ伝説の戦闘機操縦者である。


 そして彼ら自身も腕に覚えのある操縦者だ。


 一度は手合わせしてみたいと考えるのも当然の流れだろう。


 結果として、レヴィは一日で五十人近くと対戦させられることになったのだ。


 五十回も戦えば流石に身体が保たないので、一対五ぐらいで十回戦うことになったのだが、その全てに勝利した。


 当然、簡単には勝利出来なかった。


 リーゼロックPMCの戦闘機操縦者の技倆は、エミリオン連合軍のベテラン勢と較べても遜色が無いほどに卓越したものだったので、レヴィもかなり苦戦させられたのだ。


 しかし一対多数の戦いはレヴィが最も得意とするものでもある。


 得意技であるバスターブレードの射線を見切り、一瞬で多数を撃破する。


 そういう戦い方が本能にまで染みついているレヴィは、その全てを撃墜した。


 そして悔しがったPMCの人間が更に再戦を申し込もうとしたところで、レヴィは逃げ出したのだ。


「冗談じゃねえ。あんなバトルジャンキー共と付き合えるか」


 今思い出しても身震いするような経験である。


 そんな仕事をするぐらいなら、こうやってヒモ同然の生活に甘んじていた方がずっといい。


 これならばマーシャと存分にいちゃつけるし、レヴィとしても文句無しの素敵な状況なのだ。


「でもロッティに戻ったらあいつら、乗り込んでくると思うな」


「逃げていいかな……」


「逃げられるなら逃げてもいいけど、追いかけてくるんじゃないか?」


「何が悲しゅーて男に追いかけられなきゃならんのだ……」


「モテモテだな」


「嬉しくない」


「男に熱烈に追いかけられる男か。考えてみたら凄い構図だな」


「やめろ。おぞましい想像をさせるな」


「じゃあ男の集団に熱烈に追いかけられる男?」


「より酷くなってるじゃねえかっ!」


 酷すぎる図になっている。


 しかも言葉にされてしまっているので、リアルに想像出来てしまうのが嫌すぎる。


「あはは。まあ、私もレヴィが戦うところは久しぶりに見たいから、ちょっとは付き合ってくれると嬉しいかな」


「む……」


 マーシャにおねだりされると弱いレヴィだった。


 PMCの連中と戦って、華麗に勝ち抜けば、まだ惚れ直してくれるかもしれない。


 以前は同じ機体で戦っていたが、今回はスターウィンドが使える。


 あれが使えるのなら、前回よりもかなり余裕を持って勝てるだろう。


 彼らもそれなりに腕を上げているし、レヴィにもブランクはあるが、スターウィンドがあるのなら、誰が相手でも負ける気はしない。


「マーシャがその後たっぷりもふもふさせてくれるなら、考えてもいいかな」


「やっぱりそっちなのか」


「駄目か?」


 金色の瞳が期待に満ちている。


 子供みたいな眼差しだなと苦笑するマーシャ。


 自分よりもずっと年上なのに、呆れるぐらいに子供っぽくて、無邪気な一面を残している。


 そこが好きだと思ってしまうのだから、自分もかなりレヴィに参っているのだろう。


「完全勝利なら考える」


「よし。頑張る」


 やる気を出すレヴィ。


 単純だが、面白い。


 その根底にあるのがマーシャへの愛情だと分かっているので、嬉しくなってしまう。


 腰巻きで隠している尻尾が忙しなく揺れているが、今の状態は見せられない。


「じゃあさっそく用事を済ませようか」


「ああ。オッド達にも何かを頼んでいたな?」


「うん。詳しいデータはシオンに持たせてあるから、後は直接購入するだけだ」


「オッドじゃなくて?」


「シオンが仕事をしたいと言ってきたからな。任せてやらないと」


「子供のお使いを見守る母親みたいな感じだな」


「どちらかというと妹のお使いを見守る姉かな。母親って歳でもないし」


「それもそうか。やっぱりシオンは妹みたいな感じなのか?」


「そうだなぁ。妹みたいだし、歳の離れた友達みたいな感じでもある。まあ家族ということでいいんじゃないか?」


「なるほど」


 大雑把にまとめてしまえばそういうことになるらしい。


 妹だとしても、友人だとしても、家族だとしても、マーシャがシオンをとても大切にしていることが分かるので、そのままでいいのだろう。


 レヴィとマーシャは腕を組んだまま、目的地へと向かうのだった。






 一方、その頃のオッドと子供達は……


「うわあ~。凄い凄い~」


「コロニーだとは思えませんね~」


「………………」


 はしゃぐ子供達のお守りを引き受けさせられたオッドが、少しばかり辟易とした態度でその後をついて行っている。


 嫌な訳ではない。


 決して嫌な訳ではないのだ。


 シャンティとシオンのほのぼのとした仲の良さは見ていて気分が和むし、レヴィとマーシャが二人きりでデート出来る時間を作ってやりたくて、二人のお守りを引き受けたことも納得している。


 ただし、用事を頼まれている以上、仕事が先だという意識がある。


 それなのに、この二人はとにかく寄り道をしたがるのだ。


 美味しそうなお店を見つけたら買い食いをするし、可愛らしいアクセサリーを見つけたら買い物をするし、興味深いジャンクパーツを見つけたらしばらく店から離れなくなる。


 オッドが注意しても、シオン達はへこたれない。


「大丈夫だって。今日中に済ませればいい買い物なんでしょ?」


「ですです~。マーシャからは寄り道オッケーだと言われてるですよ~」


「………………」


 寄り道オッケーという許可を出されているのなら、確かにオッドが口を出す問題ではないのかもしれない。


 しかしその分お守り時間が長くなるのは辛かった。


 決して嫌ではないのだが、仕事を済ませないまま遊び倒しているというのは、微妙なストレスがあるのだ。


 そんなことを気にしないフリーダムなメンタルこそが、この二人の強みなのかもしれない。


「でもここって本当にコロニーだとは思えないですです~」


「だよね~。話には聞いていたけど、本当に居住可能惑星にいるのと遜色ないや」


「……まあ、そうだな」


 その件に関してはオッドも同意見だった。




 ガレット星系座標六四二、産業コロニー『クレイドル』。


 それがこの場所を示す名前だ。


 居住可能惑星ではなく、人工的に作られたコロニーであり、惑星ではなく宇宙空間に存在している。


 このクレイドルそのものが巨大すぎる宇宙船なのだ。


 見えている空はスクリーンが映し出している幻であり、照りつける太陽も、永久内燃機関が生み出す擬似的な光でしかない。


 高層ビルが建ち並ぶ街並みも、整然とした緑豊かな道路も、全て人工の産物なのだ。


 決して自然なものではありえない。


 しかしそれを感じさせないぐらいに、クレイドルの空気は本物だった。




「産業コロニーというのはもっと工業的というか、あまりのどかな感じがしない街をイメージしていたんだがな……」


「言えてる。でも実際に来てみると大違いだよね~」


「ですです~。でもこれはわざとそうしているらしいですよ」


「わざと? どういうこと?」


「えーっと、無機質な宇宙を飛び続けているからこそ、地上の風景や自然が恋しくなるという人間の心理を利用しているらしいですね。このクレイドルも各種産業で成り立っていますけど、それだけでやっていけるほど甘くないので、宇宙船が途中で『立ち寄りたくなる』ような街にするように努力をしているらしいです。多分、他のコロニーも似たようなものかもしれないですね~」


 歩きながらネットワークにアクセスして、その情報を検索したのだろう。


 シオンが淀みなく答えていく。


 端末無しにネットワークアクセスが行えるのは、シオンが生粋の電脳魔術師素体サイバーウィズマテリアルであるという証だろう。


 シャンティには出来ない芸当だ。


 もっとも、それを悔しいとは思わないが。


「なるほどね~。確かにこういう場所ならちょっと立ち寄りたくなるよね~。意図的な観光地仕様だったとしても、ずっと宇宙を飛んでいると緑が恋しくなることもあるだろうし」


「ですです~。寄り道にはちょうどいいコロニーだと思うですよ」


「なるほどな。そういうことか」


 産業コロニーだと聞いていたが、それだけではなく、観光事業にも力を入れているらしい。


 コロニーは元々産業拠点として開発された居住エリアだが、時間の経過、そして時代の流れと共にその在り方も変化してきているらしい。


 オッド達が任務でコロニーに立ち寄ったのは五年以上前だが、そのコロニーはここまでのどかなものではなかった。


 もっとも、そこは産業コロニーですらない、軍事コロニーだったので、そういった人間味よりは機密保持の方が重要視された結果なのだろうが。


 そういった意味では、純粋なコロニーに立ち寄るのはこれが始めてだとも言える。


 子供達がはしゃぐのも分かる気がするし、自分も少しだけ興味が湧いてきている。


 用事を済ませる間の寄り道ぐらいは大目に見よう。


 自分の疲労についても、まあ妥協しよう。


「オッドさん」


「何だ?」


 シオンが近付いてきてオッドを見上げる。


 翠緑の瞳がじっとオッドのアイスブルーを見ている。


「付き合ってくれてありがとうですです。もうちょっとお願いするですよ」


「ああ」


 こうやって素直に感謝されるのも悪い気はしない。


 ほのぼのとした気持ちになるのだ。


 無言、無表情が多いオッドだが、この時は少し口元を緩めた。


「やっぱり可愛い女の子が相手だとオッドもデレるんだね」


 そんな様子を見ていたシャンティがニヤニヤしている。


 滅多に笑わないオッドの変化を少しだけからかっているのだろう。


「悪いか?」


「うわ。開き直った」


「俺も男だからな。男よりは女の子の我が儘を聞く方が気分はいい。という訳で」


「え……?」


「荷物持ちは自分でやれ」


「え? え?」


 からかわれてそのままにしておくほど、オッドは優しくない。


 買い物を終えて持って貰っていた荷物を、シャンティに戻した。


 シオンの分は持ってやっているが、シャンティの分だけ本人に戻したのだ。


 ずっしりとした重量が少年の身に襲いかかる。


「うわーっ! 重い重いっ! 僕ってばインドア系少年だから、荷物持ちは辛いよーっ! ごめんなさいごめんなさいっ! からかってごめんなさいっ! 僕が悪かったからどうか荷物持ちをお願いしますっ!」


「………………」


「シャンティくんも大変ですです~」


「シオンも眺めてないで助けてよっ!」


「今のはシャンティくんが悪いと思うですよ」


「うわーん。味方がいないよーっ!」


 盛大に喚くシャンティだが、味方してくれる人間は誰一人いなかった。


 ロリコンネタでオッドをからかったのだから、当然の報いだろう。


「うぅ~……」


 ずるずると荷物を引き摺って歩くシャンティ。


 確かにこの程度の荷物で音を上げるのは男として情けない。


 インドア系少年であることは確かだが、多少は体力を付けないと女の子にモテないかもしれない。


 そんな風に前向きな考えを前面に押し出しつつ、荷物を引き摺って歩く。


 しかしそんな強がりはすぐに霧散した。


「う~……も、もう駄目……」


 ぜえぜえと息を切らしながら歩くシャンティ。


 既に疲労困憊だった。


 元軍人であるオッドと較べれば体力など無いに等しいシャンティは、そのまま歩道にへたり込んだ。


「情けないですねぇ、シャンティくん。男の子ならもうちょっと頑張るですよ」


「オッドに全部荷物を持って貰ってるシオンに言われたくないよっ!」


 へたりこんだシャンティを見て情けなさそうな表情を向けるシオン。


 しかし手ぶらのシオンに言われたくはない。


「あたしは男の子じゃないからいいんですです~。男の人に甘える権利があるんです~」


「う……」


 言われてみればその通り。


 少なくとも、少年よりは少女の方が成人男性に甘える権利があることは間違いない。


 理屈ではなく、感覚の問題として。


 あるいは、好みの問題として。


 シャンティがオッドの立場だったとしても、同じようにシオンを甘やかすだろう。


 シオンの外見は可愛らしい女の子だし、性格も素直でほのぼのとしている。


 こんな女の子が甘えてきたら、それはもう甘やかさないという選択肢は存在しない。


 だから男としてその気持ちは理解出来るのだが、理解する前に自分の状況を嘆きたくなる。


 失言一つでこの有様なのだから、情けないにもほどがある。


「オッド~。ほんとにごめんってば。いい加減、もう許してくれないかなぁ……」


 灰色の瞳で懇願するように見上げるシャンティ。


 シャンティもシオンに負けず劣らず愛らしい少年なので、そういう表情をされると困ってしまう。


「二度と言うな」


「うん。言わない言わない。懲りた。すっごく懲りた。懲りまくり。学習出来る。僕、やれば出来る子」


「やれば出来る子なら自分の荷物ぐらいは持てるんじゃないか?」


「うっ!」


 痛いところを突かれた。


 オッドはこういう部分で容赦が無い。


「や、やれば出来るけど、無理は禁物だと思うな~」


「まあ、そうだな」


 シャンティは出来る範囲で荷物を運ぼうとはしたのだ。


 結果が伴わなかっただけで、取り敢えずの努力はしている。


 今後の努力に期待したいところだが、今は慈悲をくれてやる方がいいだろう。


「貸せ」


「わーい。ありがとうオッド。愛してるっ!」


「男に言われても嬉しくない」


「じゃあ女の子ならいいの?」


「スタイルのいい美女なら歓迎するかもな」


「うわー。オッドもその辺りはストレートだよねぇ」


「意地を張るよりはマシだろう」


「確かにそうだけど」


 オッドもそれなりに女性経験はある。


 ただし、レヴィとは違い、特定の女性を作らないだけだ。


 というよりも、百パーセント割り切った関係を選んでいる。


 一肌が恋しくなれば夜のお店に出向いたりもする。


 金で買える関係ならば後腐れが無いと考えているのだろう。


 そして金で買う以上はスタイルのいい美女の方が好ましい。


 そういうことなのかもしれない。


「オッドは特定の誰かを作るつもりはないの?」


「今のところは、そういう欲求は無いな」


「無いんだ?」


「ああ。一時的な関係で満足している」


「ふうん」


 女性に対して淡泊なのかと思ったが、店に通っている以上、それはない。


 特定の女性を作らない理由は別にある。


 それはオッドにとっての優先順位の問題だ。


 オッドは常にレヴィを優先する。


 それは命の恩人であるという理由だけではなく、オッド自身がそうしたいと思っているからだ。


 もちろんそれはレヴィに対する恋愛感情などではない。


 しかしどういう感情なのかと言われたら即答出来ないことも事実だった。


「アニキとアネゴを見ていると、僕も彼女が欲しいな~と思ったりもするけどね」


 アネゴというのはマーシャのことだった。


 レヴィが『アニキ』なので、その恋人であるマーシャの事は『アネゴ』と呼ぶことにしたようだ。


「作ればいいじゃないか。近くに可愛い女の子はいるだろう?」


「シオンは駄目だよ」


「何故だ? 年齢的にも釣り合いが取れているように思えるが?」


「まあそうなんだけどさ。感覚として、彼女向きじゃないって思う」


「?」


「いや。まあ、好みの問題かな。彼女よりは友達として一緒に遊ぶ方がしっくりくるんだよね。一緒に居て楽しいけど、彼女にしたいとは思わないというか」


「そういうものか?」


「僕にとってはね」


「なるほど」


 好みの問題ならば確かに周りがどういこう言えるものでもないだろう。


「ちょっとちょっと。あたしを無視して話を進めないで欲しいですです~。あたしだってシャンティくんと恋人関係になるのはちょっと遠慮したいですよ~。それならオッドさんの方が好みですです~」


「うわ。確かに先に言ったのは僕の方だけど、女の子に駄目出しされるとちょっと傷つくっ! でもオッドならいいんだ?」


「オッドさんは大人の包容力がありそうですからね~。まあ年上すぎるので本気じゃないですけど、でも格好いいと思ですよ」


「だってさ。どうする? オッド。年の差カップル成立させちゃう?」


「荷物を戻して欲しいのか?」


「ごめんなさいっ!」


 怒鳴るでもなく、睨むでもなく、静かな表情で凶悪な提案をしてくるオッドがこの上なく恐ろしい。


 怒らせると怖すぎる相手だった。


「シオンも、あまり変な事は言うな。荷物持ちぐらいなら付き合うが、俺とシオンが横に並んでデートなどしたら、本気で犯罪者扱いされてしまう。主に俺が」


「それもそうですね~。ごめんなさいです。オッドさんを犯罪者扱いするつもりは無いので、アタックはしないですよ~」


「是非そうしてくれ」


「あ、そろそろ目的地が近いですよ。シャンティくん。へたれてないで早く起き上がって欲しいですです」


「シオンはもっと僕に優しくしてくれてもいいと思う」


「男の子に厳しくするのは女の子の優しさですよ。いい男になって欲しいっていう優しさなんですよ~」


「そういう優しさは彼女になってくれそうな女の子に発揮して貰いたいよっ!」


「じゃあ頑張って探すですよ~」


「うぐぐ……」


「………………」


 ほのぼのとしたやりとりを眺めながら、子供達と保護者一名は目的地へと向かうのだった。

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