第83話 切り捨てられた存在 3

「………………」


 レヴィが目を覚ましたのは、地獄の中だった。


「オッド……?」


 自分の上にはオッドが覆い被さっている。


「おい、オッド。起きろよ」


「………………」


 オッドは目を覚まさない。


 意識を取り戻す気配は無い。


「オッド……?」


 無理に起き上がると、オッドの身体がそのまま力なく地面に倒れそうになる。


「オッド!!」


 オッドの背中にはいくつもの破片が刺さっていた。


 恐らくは破壊された建物やその他周辺の物の破片だろう。


 それらからレヴィアースを守ろうとして、彼は覆い被さったのだ。


「おい、しっかりしろよ……」


「………………」


 失われていく血液は止まることなく流れていく。


 レヴィアースはそれを呆然と眺めた。


「くっ!」


 しかしそんなことをしている場合ではない。


 オッドはレヴィアースを守ってこうなったのだ。


 ならば今度はレヴィアースが助けなければならない。


 携行治療キットを取り出してからすぐに止血剤と増血剤を打つ。


 それから傷口用のスプレーを背中に振りかけて、これ以上の出血を止める。


 本格的な治療キットがあればもう少しマシなことは出来るのだが、今はこれが手一杯だ。


「………………」


 最低限のことを行うと、今度は立ち上がった。


 まずは状況を把握しなければならないと考えたからだ。


 立ち上がって、そして地獄を見た。


「嘘……だろ……」


 そこは死体で溢れていた。


 辛うじてミサイルの範囲外にまで逃がそうとしたオッドだが、それも間に合わず、近くの警備兵が持っていた盾を強奪して自分の上へと覆い被せたらしい。


 ひとまずそれで最初の衝撃は逃れたらしいが、今度は盾ごと吹き飛ばされて重症を負ったらしい。


 レヴィアースがほぼ無傷なのは、オッドが庇ってくれたからだ。


 そして無事では済まなかったのは他の部下だ。


 敵も味方も。


 エミリオン連合軍も、エステリ軍も、エミリオンの政治家も、エステリの政治家も、それを見物に来ていた人たちも。


 すべてが死体になっていた。


「そん……な……」


 ゆっくりと首を動かしてから、レヴィアースは自分達の戦艦を見た。


 もしかしたら、カミュぐらいは生き残っているかもしれないと考えたからだ。


 しかし万が一にも逃がす訳にはいかないと考えたのか、戦艦は無残に破壊されていた。


 オペレーターがいる可能性も考えて、艦橋は念入りに破壊されている。


 推進機関も破壊されているので、あれでは飛び立つことも出来ないだろう。


 船の中にいたカミュはひとたまりもない。


 整備兵までも一人残らず死んでいる。


「う……ぐっ……!!」


 その場に崩れ落ちて、吐いてしまう。


 叫びたかったが、今はそれも出来ない。


 理性が警告する。


 エミリオン連合軍の攻撃は終わった。


 今度は後始末に降りてくるだろう。


 生き残りはいないか、確認しに来るだろう。


 しかしミサイルで死体すらも残っていない有様の人間も少なくはない。


 自分達が生き残るには、この場を離れるしかない。


 特にオッドのことは放っておけない。


「……畜生。なんで、こんなことになった?」


 分かっている。


 頭の奥では分かっているのだ。


 そうすることが、エミリオン連合の利益になるから。


 ただ、それだけ。


 不利益を避ける為の犠牲。


 議長が殺されても、代わりはいる。


 そして自国の軍人が殺されても、代わりはいる。


 代用出来るからこそ、切り捨てられる。


 その為に守られたものも確かにある。


 しかしその為に踏みにじられたものも、確かにあるのだ。


「……いや、後だ」


 怒りはある。


 憎悪もある。


 狂いたいほどの感情が渦巻いている。


 しかしそれらは全て後回しだ。


 今はオッドを助けなければならない。


 オッドの身体を担ぎ上げてから、なるべく静かにこの場から離れる。


 皆殺しにされたことは、ある意味でレヴィアース達の脱出を助けてくれた。


 周辺警戒をせずに済んだし、いきなりミサイルを撃ち込まれたので、周辺の人間も逃げてくれている。


 脱出はそれほど難しくはなかった。

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